ベリチェ

「ところで、旦那の名前はなんて言うんだい?」


「俺かい?佐藤 隼人だ。亭主の名前は?」


「俺はダルだ。しっかし豪勢だな。流石良いところの執事だ。羽振りが良いぜ。」


(俺が稼いだ金なんだがな……)


「何故俺が良いところの執事だと?」


「そんなの見れば分かるだろう?洋服にエンブレム、カフスに貴族の紋章がある。

服装からして一発でお偉方の執事って分かるぞ。

唯一解せないのは東の民族が何故この国のお貴族様に就職出来たのかだが。上手くやったんだな。」


「終日食事を取る間もなく働き、泊まろとした宿では俺の格式が合わないと言って放り出され……。

こんな感じでもか?」



「…………お前も色々苦労してんだな。ただ給金は良いんだろ?」



「給金は無い。それどころか暫く無性でこき使われそうになった。」



「お前執事に見えるが、もしかしてお貴族様の奴隷か?」


「奴隷じゃない。

ただ呪いによって命を握られかけたが……。

呪いの基と取引することによって解放された。今はそう言う意味では自由だ。」


「まあ……飲め。

なんや分からないが……頑張れよ。

ところでお前なんで俺らなんかに酒を振る舞ったんだ?」

一緒に飲んでいたおっさんが聞いてきた。


「色々聞きたいことがあってな。

何故か俺が業者台から尋ねようと声がけをすると皆避けて行くんだ。」


「お前、世間知らずにも程があるな……」


「???????」


「お貴族様の馬車に連れ込まれ行方の知れなくなった女子子供が、一体この世にいくらいると思うんだ?

例え男性だって関わりを避けるのが普通だろうよ。貴族に関わるなんぞ録なことねぇ。お前だって呪い?

かけられ使役されていたんじゃないかよ。」


(なるほどそう言う訳か……)


「まあ、良い。で、聞きたいことは?」


「店を探している。」


「どんな店だ?」


「まず鍛冶屋。

馬車の車輪と車軸が歪んでしまって今この町に足留めされている。これは早めに直したい。


次に洋品店だ。俺が着る一般の服が欲しい。

それと布屋。これは作って欲しいものがあるので腕が良い職人を紹介して欲しい。」


「そんなのお安いご用と言いたいところだが……。

腕の良い鍛冶屋に限定するとすりゃこの町だとベリチェのじい様になるが、ただ……」


「ただ?」


「人の好き嫌いが激しい。頼んでもやってくれるかどうか……」


その話をしていると端の方で一杯やっていた小太り赤ら顔の男が口を開いた。


「それなら俺が今ベリチェのじい様を呼んで来てやるよ。じい様にただ酒と聞かせてやりゃあ直ぐに飛んで来るぜ?

ただ、説得できるかはお前さん次第さ……」

そう言って席を立ってでて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る