酒好き

(さて泊まる場所に移る前に……)


馬車へと向かい中に入る。


「ガルダ、泊まる場所を確保した。

明日迎えに行くから今日はゆっくり休んでくれ。風呂付きだから寛げると思うぞ。」


「迎えにくるだと?一緒の宿ではないのか?」


「この宿のシステムだと、家令は別の宿を取るのが普通だそうだ。もしかしたら女性の従者であれば泊まることが出来たのかもな。」


「…………多分だが、お前以外の家令であったのなら、サービスで離れにおいて貰えたのかも知れない。」


「………………?」


「お前も薄々感じておろうが、この国では人種差別がひどい。ある程度の格式がある場所では、基本白人種以外肩身は狭いのじゃ。先に一言お主に伝えておけば良かったんじゃが。

これだとお主には不便をかけるな。

いっそのこと別の宿でも妾は構わないぞ。」


「すでに宿代は払ってあるし、厩も整っている。気遣いなくゆっくりしてくれ。」


そう話した後ガルダの荷物を馬車から取り下ろし、宿へと運び込む。


「宿主、主殿と馬の世話よろしく頼むぞ。」


そう言って金貨を一枚手に握らせた。


握らせた貨幣が金貨と分かると満面の笑みを浮かべたのが分かった。


馬車の方に振り返りシュバルツ達に、厩に向かうが暴れぬように小声で釘をさす。

「ヒヒーン」とシュバルツは嘶いた。

(分かってくれたようだな?)


宿主に軽く合図をし、道と宿の名前を聞いた後

宿泊先に向かった。


何かガルダが言いたそうにしていたが手で制し後ろを振り返らず向かう。


ある程度距離が離れたタイミングで後ろを見るとすでにガルダの姿は見えなかった。


(まったくもって、ひどい所だなここは。)


◼️□◼️□◼️□◼️□


暫く歩くと少し雑多なエリアに着いた。


屋台とか見え、食べ物の匂いが鼻をくすぐる。


『グウウウ』

不意に腹がなった。


(今日はそう言えば何も食べていなかったな)


白人種がやっている屋台を避け、串焼き屋台に入る。


「店主串焼き10本ばかりくれ。それと酒を」


「酒はバージュしか無いが良いか?執事さんよ」


(バージュってそもそもなんだ?まあ、飲めば分かるか……。)


酒と聞き、屋台の周りにいる労働者らしき者どもの表情が羨ましそうに歪む。


(皆好きそうだな……)


「亭主、亭主」

小声で呼んだ


「旦那、なにかい?」


「ここらへんに居るのは常連かい?」


「ああ、たまに串を一本買っていく程度の奴等を常連と言うのならばだが、客には違わねぇ。」


「そうか。あんがとうよ。」


「こっちを見ているそこのお前ら、酒をご馳走するから、こっち来い。店主、これで出せるだけの肉串とバージュを振る舞ってくれ。」


そう言って金貨を一枚渡す。


その途端どこで見ていたのか、大勢の連中が屋台へと押し寄せてきた。


(どこからこんなに湧いてきたんだ?)


どんどん屋台から食料が無くなっていく。


(これじゃあ、一枚じゃ足りないな。)


「亭主、亭主の仲の良い奴らに児えがしてもう少し食べ物を調達してくれ。

勿論亭主も亭主の仲間も飲み食いして良いから」


それを聞くと同時に亭主の姿はあっと言う間に消えて行った。


(しまった……亭主も酒好きだったのか)


そして長い宴会が始まったのだった。

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