あばよ
◼️□◼️□◼️□◼️□
-その夜枕元で荷物を漁っていたのはミュルガであった。
(盗人ではなかったのか……)
俺の目が開いたのに気付き、彼は手を止める。
「気付いたのか……?。
目ぐらいは開けられるんだな。
あの毒草による痺れはちょっとやそっとのことでは抜けない筈なんだが……」
ミュルガは驚いた顔をした。
「…………正直こんな形で別れたくは無かったんだが、そろそろ潮時なんでな。
俺もニュービー(新人)の世話をしてられる程暇じゃないんだよ。
帝都で今ものうのうと暮らしているあいつ……
俺達を嵌めたあの野郎に早く借りをかえさないと、鉱山で死んでいった仲間達に顔向けがでねえからな。
じい様との約束がこんな形で終わるのも寝覚め悪いが、隼人お前も悪いんだぜ?
もう少しまともな手合いだったら帝都に入るまで一緒できたんだからよ。
今のお前の腕じゃ、二人だけで不浄場を越えるのはまず無理だ。」
(じい様との約束?ベロウニャと何か約束したのか?)
「べ…ロ…………」
「ああ、ベロウニャと何を約束したか聞きたいんか……。すでにもううすうすと分かっていると思うが、お前を帝都まで送ることを頼まれた。」
(そう言えばベロウニャは、俺が帝都に向かうことを知っていた。世間知らずの俺のために気を遣ってくれたんだろうか。
そしてミュルガのことだ、見返りをベロウニャにたんまり要求したんだろう。……
だが、その割にはあまり懐が豊かそうに見えないが……?洋服を買う為の金額を持ち合わせていなかったなしな。
何か他のものと交換か?
「あっ」
(もしかして……蛭の駆除か?
そう言えばあれから三日以上経っているにも拘わらずミュルガの奴、蛭による発作が起きていなかった……。
ヤルは鉱山を出るまで、除去方法を仲間に伝えるつもりはないと言っていたから……聞くとしたらベロウニャ以外無いはず。成る程……)
そこでふと気付く。
(オーガの駆除に成功してから、俺が鉱山を出るまでのいつ、駆除したんだ?
除去する為の場所もないし、時間が合わない……。
いつの時点でミュルガは蛭を除去したんだ?)
考えられるとすれば……
(ミュルガはドワーフの手の者だった……と言ったところか。)
それなら意外と合点がいく。
(そういやあれだけ報酬に拘っていたにもかかわらず報酬のミスリルを削りにいかなかったし、
シーフ仲間のピンチにも駆けつけようとしなかった……)
「う……ら…………ぎ」
何か察したのかミュルガが口を開いた。
「俺はヤル達を裏切っちゃいねぇよ。
昔ベロウニャのじい様の命をちょっと助けたことがあったってだけさ。
それから色々便宜を図ってもらいはしたが……
まあお前に関しちゃ、裏切りっちゃあ裏切行為だが、
あくまで『可能な限りサポートしてやってくれ』ってだけの『お願い』だったからな。
ここまでは連れては来てやったんだし、
裏切ってのはバレて初めて裏切だ。
お守りはここまでにさせて貰うぜ。
お前には悪いが俺は何としてでも、帝都の中に入らなきゃならない理由があるんだ。」
そこまでミュルガは一気に喋り、その後押しだまった。心なしか憂いを帯びた顔をしていた。
そして……
「不浄場ルートが駄目だとしたら、それなりに金が必用なんだ。悪いがもらっていくぜ」
そう言って餞別品の中から、ミスリル製の武器と金品を抜き出し自分の袋に移した。
最後に
「あばよ」
そう言って彼は闇に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます