裏切り者?

半ばモヤモヤした物を抱えつつ、ベロウニャと途中で別れた。


一人急ぎ鉱山口まで歩みを進める。


(なんだろう)

道の真ん中に黒山の人だかりが出来ていた。


「皆の者、監察官様の御前である。控えろ。」

俺が人だかりについた途端、赤チョッキが声を張り上げた。

(ん?なんだ?)


それを合図として周りの者は一斉に頭を下げる。

俺はと言うと咄嗟な事で反応出来ず、ただ固まっていた。


「また、お前か……此度の監査が終わったらそれ相応の罰を覚悟しておけ」

慌てて頭を下げたものの赤チョッキに再度目を付けられる結果となった。


そして……目をつけた者がまた一人……


「お前、どこかで俺と会わなかったか?」

そう言って奴は俺をじっと注視した。


「いえ……」

頭を上げず、答える。


「お前、名前をなんと言う?」

やつは納得がいかないのか、馬から降りて傍に来ようとした。


(まずい……手を握られたら終いだ……  

どう避ける?考えろ、考えろ、考えろ……)

冷や汗がただ、ただ、滝のように流れる。


そして救いは思いがけない方から来る事となった……。


「監察官さま、監察官さまがこの様に汚ならしく、賤しい奴隷をご存知ある筈がございません。

向こうで歓迎の宴を用意させております。さ、さっあちらに……

お前もぼっと突っ立っていないでさっさとどけ」


赤チョッキに小突かれ俺は無様に転ぶ。


「確かに俺が奴隷なぞ知るわけないな。」

そう言って興味を失ったのか、奴は去っていった。


(今回ばかりは感謝してやるよ……

ナイスだ赤チョッキ。

しかし、やつが来るの早すぎないか?)


俺はこの情報を皆と共有すべく、小部屋へと急ぎ向かう。


(監察官を迎える準備をしていたのか。

道理で俺への嫌がらせがここ数日無かった訳だ…。まあ、あの粘着質の赤チョッキが俺の事忘れる訳は無いよな。)



考え事をしながら小部屋へと入るとそこには思いがけない光景が広がっていた。


小部屋からゴブリンドームへと続く道にはドワーフが溢れ、荷物を次々と運びこんでいる。



(足の踏み場もないな……)


ようやくベロウニャを見つけ尋ねた。

「これは?」


「見ての通りだ。お前も既に知っておろうが、監察官が予定より早く到着した。」


「ああ。今しがた姿を見たところだ。」


「なので、急遽行動に移すこととした。幸いお主のおかげで魔石は十分に集まったからな。」


「ヤル達は?」


「ああ。彼らは報酬の掘り出しに向かったぞ。チャンスは今日だけと思って間違いないからな。」


「?」


「今日は歓迎の宴に忙しくて、監察どころであるまい。だが明日はどうだ?」


「思ったより時間がないってことか。」


「ああ、そうじゃ。一刻も争う事態じゃ」


「よし、俺も手伝おう。何をすれば良い?」


「野営地の例の地下から魔石と銃をここに運び出すのを手伝ってくれ。」


「番所は?」


「鼻薬を嗅がした上、酒をたんまり与えている。今日は無礼講と言ってな。」


「分かった。それじゃ協力するぜ。」

そう言って俺は駆け出した。


(こいつは時間との勝負になる。)


野営地に到着すると番所は一人の留守番を除き既に空であった。


「ふん、こんな時にノルマか?

サインをすらからそこらに置いておけ。

屑は勝手に取って行って良いぞ…」

そう言ってまた床に転がって行った。。


(ノルマの受付だけはこんな状態と言えども

やっているんだな…)

呆れ半分、感心半分の感想を抱く。


横目に番役のよごれを見ながら、そっと野営地奥に向かい例の建物に入った。」


扉は開け放れた上、地下への通路は解放され、箱を運び出すドワーフとミスリルを掘り返すシーフ達でごった返していた。

(こんなにも、鉱山(ここ)には人がいたんだな…)

多少の驚きを持って彼らを見た。


横目でヤルを探すも見つからず、結局諦め戻ることにする。

知り合いのドワーフを見つけ、箱を受け取った後ダッシュで戻る。

(野営地と小部屋の往復何回くり返しただろうか?)


突然ベロウニャから声をかけられた。

「相変わらずの規格外ぶりだな。

マナの保有量は少ない筈なのに…。

まあ、でも助かった。

下のベースキャンプで少し休め。」


(ベースキャンプ?)


俺は腑に落ちないながらも下に向かう事にした。



◼️□◼️□◼️□◼️□


そして……俺はゴブリンドームに入ったとたん驚くことになる。


ドーム内にはところ狭しと物が置かれ、壁に無数にあった皸(ひび)は全て土魔法によってか 塞がれていた。


(なるほど。これじゃゴブリンは湧いて出ることもないな。

ドワーフ達ここを本当にベースキャンプにしてしまいやがった。)


ぼうっと眺めていると後ろから肩を叩かれた。


「隼人、お前何ぼっとしてるんだ?

まあ、俺も初めて見た時には唖然としたが……。半端なくドワーフのやつらすげぇぜ。

本当によ。


ところでさっき聞いたが、その……ダッケにかけられた疑惑お前が晴らしてくれたんだってな。ありがとうよ。」

多少照れたようにヤルは言う。


「ヤルには色々世話になったからこれくらい何でもないさ。本音言えば、ダッケのことなんぞどうでも良かったんだが……」


「お人好しのお前がそんな言い方するなんて珍しいな……何かあったのか?」


「ああ。奴は、俺が川で流されているのを横目で見ながら助けず、見殺しにしようとした過去がある……。


だからな。奴がお前のギルドメンバーってことを知らなかったら、多分ここまでしなかった。」


「どうであれ、隼人が俺の窮地を救ってくれたことは事実だ。」 

そう言ってヤルは笑う。


「そういやゼリスは?」


「ああ、奴は今ミュルガ達と一緒に壁掘り(ミスリル掘り)に行っている。例のダッケも一緒だ。」


「そうか。ヤルは行かなかったのか?」


「俺にはじい様達から貰った鎖帷子(こいつ)とショートソードがある。ここを出たら使い道もねえし、売ってギルド資金にでもするさ。」


「それだけで良いのか?野営地に行って掘ればもっと手に入るのに……」


「隼人はこの世界の物の価値を知らないんだったな。ミスリル製のドワーフメイドがどんだけの値になるか……。

知ったら腰を抜かすぜ……。俺にはこれで十分だ。」

そう言ってヤルは笑った。


「ミスリル壁の方は……

俺が迷惑をかけたギルメンにくれてやるつもりさ。迷惑料代わりだな。

それに……欲を掻きすぎると、ろくでもねぇ結果になりそうな予感がする。」


「ヤルが納得してそれで良いと言うなら、良いが……」


「それよりお前はミスリルを取らなくて良いのか?

それこそお前の活躍からみて取り放題だろ~?」


「俺にもこいつ(シミター)があるから充分さ」

そう言って笑った。



◼️□◼️□◼️□◼️□


「皆良く聞け!」

突如大きな声がベースキャンプに響く。

そして、いつの間にかボロスがキャンプ中央に壇を構え声を張り上げていた。


「我らが数百年夢見て来た瞬間が訪れた。

我らはこの呪われた地より解き放たれ、

今日この時より遠き祖先が地を目指す。

皆の者準備は良いか?」


「おうっ」

と言う声がベースキャンプ中に響く。


「手筈通り第一陣はボッタに任せる。魔石の配置頼んだぞ。爆破は合図があってからだ。合図はわかっているな?」


「おう。」


「第二陣はボロ、例のことを合図として誘導を頼む。」


「おう。」


「そして第三陣の指揮は俺が取る。目指すはオーガの殲滅、ただそれだけだ。皆分かったな。」


「おーっ」


「これより30分後に侵行を開始する。各自配置につき準備に入れ。」


「おーっ」

割れるばかりの歓声がベースキャンプ内全てに響き渡った。


◼️□◼️□◼️□◼️□


「隼人、ここにいたのか」


「おう」


「悪いがオーガ攻略組に力を貸してくれないか?」

ボロスが言ってきた。。


「そりゃそのつもりでここまで来たんだ。構わんよ。」


「なら30分後に侵攻を開始する。

魔石やミスリルクズいくら使っても構わないぞ。補給線はきちんと確保した上でいく。」


「ところで、メンバーは?」

周りを見回すと子供らや女性も多く見られる。


「老若男女全てに役割を振ってある。我が氏族総出での討伐戦だ。幸いお前の考えた案なら子供でも戦力になる。土魔法で軽い穴位はあけられるからな。」


(危険を伴うだろうに……。

でも……今さらか……。


◼️□◼️□◼️□◼️□◼️□◼️□◼️□◼️□


「そう言えば、ヤルお前はどうするんだ?」


「ん?」


「ヤルお前、基本戦い嫌いだったろう?」


「まあな。ただ、今一番安全な所はお前の傍だと第六感がささやいているんだ。だからお前と一緒に行動する。

俺はあいつらの為に死ねないからな。」


「どういう意味だ?」


「蛭退治の方法を知っているのが俺だけだからな。ここで俺が死んだらまずい。」

しらっとした顔でヤルは言った。


「?」


「ベロウニャが今一番危惧していることは何だと思う?」


「『蛭退治の方法を彼らドワーフが手に入れたことを帝国側に知られること』だな。」


「そうだ。そのことを知っているのは?」


「ドワーフ達、それに俺とお前とゼリスに…」


「そう、今はそれだけだ。

ただ死にもどりを行ったら、今後秘密を知る者の数はどんどん増えていく。


そうなる前に口をふさぎたくなるのが心情だろ?

しかしだ、今のところお前との約束の手前、俺やゼリスには直接手を出せない。

ただ、他のギルメンはどうだ?」


「やろうと思えば手を出せるな。でも可能性は低いんじゃないか?」


「低いってだけじゃ駄目なんだよ。俺の立場だとな……。なので鉱山(ここ)を出るまで安全なお前の側にいさせて貰うぜ」


(ヤル、お前は小判ザメかっ……

と言うより俺が魔除けの札か?)


「まあ、付いてくれば良いさ。ただちゃんと働けよ?」


「適度にな。」


こうして30分後俺はヤルと一緒にオーガの集落へと向かった。


◼️□◼️□◼️□◼️□

正直見た目子供も混じった混成部隊であったので正直不安があった。


しかしその不安はもものの10分もにせずに

良い意味で裏切られた。


ドワーフ達は、俺が教えた作戦通り役割分担を振り一チームで1匹ずつ確実にオーガを葬っていく。


そして意外なことにヤルの風魔法が大活躍した。


ヤルは流石に風魔法の扱いに長じており、俺がミスリルクズを大気中に拡散させるより上手くオーガの目へピンポイントでミスリルクズを振りかけて行く。


「ヤルどの凄いですな……」

ボロスがその精度に驚き、称賛していた。


もちろん俺もただ見ているだけでは無く、一匹また一匹とオーガを葬っていった。


◼️□◼️□◼️□◼️□

1時間ほど戦った頃には10匹を遥かに越える頭数を倒していた。


ミュルガもどこから現れたのか分からないが

いつの間にか現れ、参戦しているのが見えた。

片手を上げ挨拶するとボロス達と共にさらに奥へと向かって行くのが見えた。


(しかし、切りがないな。)

オーガ相手に微妙に押してはいるものの、いつ戦局が傾くか分からない状況だ。


(ドワーフ側の人数は多いが、攻撃役は不足しているからな……)



そしてその時は不意に来た……。

『ボロス様が傷を負った。』

声が響く。


『総徹底か?』


『いや、止血すればなんとかなるそうだ。』


そんな声が聞こえた。


そうこうしているうちに

部下に肩を借り、血を滲ませたボロスが俺のいるところまで戻ってきた。


「隼人、手当てをしたらすぐ戻ってくる。

こんなこと頼めたギリではないが、それまでちょっとだけ戦線を維持してもらえないか」

明るく話してはいるものの無理しているのは一目瞭然だった。


「分かった。任された。ゆっくり治してこい。」


「頼む。」

そう言ってボロスはベースキャンプへと退却して行く。


「野郎共、これから俺が指揮を一時的にとる。ボロスが戻ってくるまでに、こいつらを平らげてビックリさせてやろうぜ」


「おー」

残った皆が一同に吠えた。


(おっ、士気は衰えていない。これなら行ける?)

そう思えていた。


その後10分、一人の乱入者によって事態が動くことなど露知らずに……


◼️□◼️□◼️□◼️□



10分後「ヤル兄、ダッケをダッケを助けて」


そう言いながら戦線に飛び込んできたのはボロボロになったゼリスであった。


◼️□◼️□◼️□◼️□


「どうしたんだ?」


「スライムが壁の向こう側から突然溢れて出て来て……。

必死に抵抗したんだけれど……。

ダッケが後退時に足を負傷して……。


足の早い私だけ、ひとまず救援を呼びに来た。」


(おいおいスライムって……あの最弱モンスターと言われるあいつのことか?)


「スライムなら火で焼けばすぐ死ぬだろうが……。」


「火も無かったし、それに半端無い大きさで……」


「状況が見えないことには判断しようも無いな。ゼリス、お前はゴブリンドームまで戻ってそこで待機しろ。俺は行って見て来る。」


ヤルはそう言って、一緒に戻ろうとするゼリスを手で押し留めた。


ゼリスは俺のことを見て聞いてきた。。


「隼人は、隼人は行ってくれないのか?」


俺は黙って首を振った。


「今俺が抜けたら、この戦線は崩壊する。そんな無責任なことはできない。」


「何故?これは異種族のドワーフ族が先祖の土地に戻る為に勝手に始めた戦いでしょ?

人間の隼人には関係ないじゃない。いくら戦闘好きのバーバリアンだって、人間の仲間を見捨てまで参戦するなんてバカじゃない?」


『パシーン』

乾いた音が響き渡る。


「それ以上いったらお前のことを俺のギルドから追放するぞ。ベースキャンプで頭を少し冷やせ。

隼人、悪かったな。戦闘に戻ってやってくれよ。」

そう言ってヤルはゼリスを引っ張ってベースキャンプへと足早に去って行った。


「俺はここに最後まで自分の意思で残る。勝ちを絶対もぎ取るぞ。俺に続け~」


そう言って俺はオーガの集落の奥へと突っ込んで行った。


これがヤルとの最後となるとは知らずに……



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