その悔しさが

数時間後、ゼリスと俺は小部屋で作戦会議をしていた。


「奴らの行動パターンは概ね3パターンだ。

前と被るものもあるが、念のためもう一度説明する。」


今回ゼリスは大人しく聞いていた。


「まず第一パターン、これをAパターンと呼ぼう……

15~20匹のゴブリンが無秩序にドーム内で徘徊している。

捕食活動でもしていると思われる。


次にBパターン。Aパターンのゴブリンを殲滅するとこのパターンとなる。殲滅後暫く間をおいた後、5名一組の斥候が巣穴から出て安全を確認するパターンだ。

安全確認の為、暫くの間小部屋の反対側の入口を警戒する動作が入る。

安全が確認できれば味方に合図し、Aパターンに戻る。


ここでもし敵を発見した場合、斥候はゴブリンジェネラル達へ合図をおこない、それをもって総攻撃体制へ移行することになる。


最後は……総攻撃体制だ。

ゴブリンジェネラル自ら統率し組織だった攻撃を行ってくる。

これは分かっているだけで三段に渡る波状攻撃をしてくる。

一段目で敵を数十名で囲みボーラを使って動きを止め襲ってきて

『ボーラ』で倒しきれないと分かると矢を射かけてくる。

もっとも仲間へのフレンドリーファイアを恐れる為か、矢のスピードはそこまでないとでゆっくり射線を見極め対処すれば良い。

これで獲物を仕留めれない場合三段目の攻撃に移ってくる。

そして二段目はキチガイゴブリンによる魔法攻撃だ。

仲間への被害なぞお構い無しにファイアボールを投げつけてくる。こいつが一番厄介だな。ただこいつの手綱はオークジェネラルが握っているから、ジェネラルの動向を押さえておけば飛んで来るタイミングは分かる。

そして三段目はおそらくゴブリンジェネラルによる力押しだと思われる。」



「具体的な作戦は?」



「はじめは、気配断ちから死角をついてのバックタブで狩る。リスクを避ける為にも出来るだけこの方式で狩りたいな。

その後、武術を使っての殲滅戦と行こう。

武術練習の成果を見せてくれな。


そして暫くA→B →A→B とループし、

ゼリスの階位上げに専念する。

簡単にゴブリンを狩れるようになったらゴブリンジェネラル戦に移ろう。以上だ。

何か質問は?」


「何故、ジェネラル戦まで必要なのか不明。

階位上げが目的なら、敢えてゴブリンジェネラルと戦う必要性は無い筈?」



「普通はな……」



「じゃあ何で?」



「それはそこに……」



「そこに?」



「山(大きな障害)があるからだ。」



「ハアアアア?」

思いっきりバカにした顔をされた。



◼️□◼️□◼️□◼️□


作戦を示した後、ゴブリンホールへと向かった。


ハンドサインでゼリスに向かう方向を指示する。


その後指を使いカウントダウン

(四、三、二、一 ゴー)


戦闘を開始した。


気配を殺して獲物に近づき、1匹、2匹、3匹と狩っていく。

そろそろ気付かれるころか?

4匹…

えっ?……まだ気付かれない。


6匹目で初めて気付かれる。


よし、モードチェンジ……


結局殲滅は実に5分とかからず終了した。

二人がかりとは言え、かなり早いペースだ。


「こんなにも簡単に……?バーバリアンの狩るスピード

おかしい、おかしすぎる……」

とゼリスが呟いていた。



「ゼリスもすぐにこれぐらい出来るようになるから。」

そうにっこり笑って俺は言った。



「なるわけないっ」

とゼリスが小声で突っ込みを入れていたがスルーし、

魔石取りに集中。剥ぎ終わった後小部屋へと戻った。


◼️□◼️□◼️□◼️□



「一休みしたらまたゴブリンホールへもどるぞ。斥候が出てきた後安全確認が終了するまで、大体50分位かかる。今のうちに水分補給したり、出すもの出しておけ。」

と俺は言った。



その瞬間何故かゼリスにバックスタブをかけられる。身体を横に向け軽く捌くと同時に足をかけ、床に転がしてやった。


「まだまだだな……脇が甘いし、狙いが見え見えだ。

狙う場所に視線を向けず、違うところに視線は持っていってミスリードを誘った方が良い。

もうちょっと対人戦で磨かないと俺から一本とるのは難しいぞ。」

そうアドバイスした。


ゼリスはと言うと

「くそうバーバリアン……いつか、いつかやっつけてやる。」

そう言って涙していた。


「悔しいと思う心が人を強くする。その悔しさを忘れず精進するんだぞ……」 

俺はすかさず、ゼリスにそう言って諭した。

(決まったか?昔師匠に昔こんな風に言われたっけ。

それが今や指導する立場ってか。うんうん。)

自分の成長を感じさせられる一幕であった。



「はぁぁぁぁぁぁ」

横で何故かゼリスが深くため息をついてはいたが……


◼️□◼️□◼️□◼️□




そして今、俺とゼリスは6周目の周回している。


『ゴブリンジェネラルに挑む前に、せめて20匹中6匹は自分で倒せるようになりたい』 

そのゼリスの一言によって周回する羽目になったのだ。


(まったくもって面倒くさい……。

ゴブリンが再湧きするまでインターバルが長すぎる。

ならいっそ…………)


「隼人?」


「ん、なんだ?」


「もし手を抜いたら分かっているよな? 

今後俺の手助けを一切当てに出来ると思うなよ。」



(なんで俺の考え分かるんだ?

こいつエスパーか?エスパー?……エスパーだろう……。)



「何故だ?」



「何故って……隼人は顔に出るから……」

呆れたかのようにゼリスは言った。


「頑張る気持ちは分かるが、ノルマをこなすための時間も考える必要あるんじゃないか?

時間的にもゴブリンジェネラルにそろそろチャレンジした方が良くないか?」

無駄と知っていたが提案をした。


「なら、この周回が終わったら、ノルマを先に終わらそう。終わらせてしまえば心置き無く練習できるだろう?」

 

(こいつ……あくまで6匹に拘るつもりだ……。)


「やれやれ……。

ただノルマだが……

お前の方が圧倒的に早く終わると思うぞ。

俺がノルマ終えお前を探しだして再びここに戻るまで、無駄(タイムロス)が出るが

勿体なくないか?」


「終えた後俺は小部屋で待ってる。

それなら探す手間は無いだろう?」


「分かった……勝手にしろ。

取り敢えずは……。


ここのゴブリンをさっさと殲滅するぞ」

そう言って俺は駆け出した。


ゴブリンを瞬殺した後、俺達はノルマへと散った。


◼️□◼️□◼️□◼️□


あれから6時間後……

ノルマを終え小部屋へと戻った。


「ハッ! …… ハッ! ……ハッ!……ハアアアア く…ば…や…れ バーバリアン 」


(なんだ?)

中から声が響く。


(所どころ聞きづらいが、何を言っているかは想像がつくな……)


見ると掛け声と共にゼリスがナイフを振っている。

何度も何度も、一つ一つ動作を確かめるよう丁寧に丁寧にナイフを振っている。


汗が流れるまま、一心不乱にナイフを振っている姿に俺は暫し見とれた。


(なかなかやるじゃないか……)


まあ……合間合間に入る呟きさえなければ…………だが。


頃合いを見て『パチパチパチパチ』と手を叩きながら小部屋へと入った。

「随分熱心じゃないか。上達に近道はない。練習あるのみ……だな」


「い、何時からお前そこにいやがった……」


「今来たばかりだ。」

そう言うとゼリスはあからさまにホッとした顔を浮かべた。


「な、なにか聞こえたか?」


「べ-つ-に……?」

と俺は笑い、

「さあ、時間が惜しい。ゴブリン狩りにでかけよう」

そう言って下へ続く階段へと向かった。


「ぜってぇ、こいつ聞いていやがった……」

後ろでぶつぶつ言っているのが聞こえる。


しかし俺は敢えて無視して進むことにした。 


(まったく聞かれて困ることなら言うんじゃねぇよ。)

そう思いながら。


◼️□◼️□◼️□◼️□


仕切り直し後周回7周目にして、とうとうゼリスが6匹狩りを達成する。


「凄いじゃないか。やったな。」

と声をかけた。


それを聞いたゼリスはぽかんとして俺を見た……


「ん?どうかしたか?」


「お、お前、素直に人を褒めることもあるんだな……」


「どういう意味で言っているか分からないが、頑張って努力した奴を褒めないほど俺は狭量ではないぞ?」

と返す。


「なら、マジで褒めてくれたんだな……やった。」

ゼリスは小さくガッツポーズを取った。


「お前も、そうやって素直にしてれば年相応に可愛いんだが……」


そう言ったとたん、何故か蹴りが飛んできた。


(俺褒めていたんだよな?……こいつのこと。

この年齢の子供はようわからん。

まあ分かりたくもないが。)


即座に軸足を払い、横に転がした上で

尻を叩く。


パンパン


と乾いた音がひびく


(躾は大事だからな……

甘やかすと録な大人にならない。)

そう考えた。


結論からいうと、俺はすぐにこの行為を悔やむことになった。


なぜならゼリスはその後まったく口を聞いてくれなくなったばかりか、横を向き目を一切会わせようとしなくなったからだ。


「やり返されたからと言って、女みたいにいつまでも拗ねているんじゃない。

大体、蹴りを最初に入れてきたのお前じゃないか……。

武道において『殴られる覚悟の無い者、相手を殴る資格なし』と言うんだぞ。」

そう諭したがとりつく島もない。


『バカ、野蛮人、脳筋……死んじまえ』

ゼリスはそれだけ言うとひたすら泣きじゃくり始めたからだ……


急に何か悪いことを、したような気になる……。


(なぜだ?)


そして同時に居たたまれない気持ちになった。


お互い無言のまま、小一時間ほどたっただろうか、誰か小部屋に降りてくる気配がした。



ヤルであった。



◼️□◼️□◼️□◼️□


「おお、いたいた。隼人もゼリスもここにいたのか。探したぞ?大事な話がある。」

そう言ってヤルは入ってきた。


入った瞬間、流れる空気に違和感を感じたのかヤルは俺とゼリスを交互に見た。

「これは……一体どうしたんだ?」


「実は……」

と俺は今までの経緯をヤルに話した。


「そりゃ隼人お前が悪いわ。」

とヤルは言い切った。


「えっ?何故俺なんだ?」


「お前のもといた世界ではどうだか分からないが……流石に女の子相手に尻叩きは……」


「えっ……? どこに……?」

(まさか?)


ヤルが顎でしゃくる


その場の雰囲気が一瞬にして凍りつく……


「え、ええっ、えええ~~」

驚きのあまり俺は二の句がつげなかった。


「ま、まさかとは思うが……

これだけ一緒にいて、

今まで気がつかなかったのか?」

とヤルが突っ込んだ。


うんうんと俺は頷く。

頷きながら俺はマジマジとゼリスを見つめた。

(こいつ『俺』と自称していたし、でるところも……でていないし……

どうやって分かれって言うんだ……)


「『ゼリス』って言ったら普通女性の名前だろ……」

とヤルは呆れ顔を浮かべた。


(そんなこと知らんわ。)

と俺は心の中で毒づく。


俺の顔を見て何か察したのか

ヤルがフォローをいれる。

「ま、まあ、下手に女の子らしくして、

野郎どもに襲われたらいけないから、

『多少男っぽくしろ』とは言っておいたが…」


俺はそこでもう一度上から下までゼリスのことを見なおした。

(多少華奢ではあるが、どこをとっても男の子だよな……?)


視線を感じたのかプイっとゼリスは横を向く。


「またこいつ失礼なこと考えていたぜ、兄貴。」

とゼリスは言った。


「まったくもって完璧過ぎる変装だ……」

そう感心して俺が言うと、何故かゼリスは睨みつけてきた。


「髪を……髪を短めにして、『俺』って言ってただけなのに…………

もう嫌だ……」

と泣き崩れた……


「諦めろ。こいつはそう言う奴だ……」

とヤルが慰めた、


(俺は単に変装の出来を褒めただけだぞ……


それより俺はあれか?

今まで女の子相手にすっころばしたり、尻叩きしたりしていたってことか?


それって駄目なやつだろ……)


今までゼリス相手にした所業を振り返り、

俺は頭が痛くなった。


(兎に角まず謝るか……)


「まあ、なんだその……ゴメン。」

そう言って俺はゼリスに頭を下げる。


「こんな言い方では良くないな……

知らなかったとは言えゼリスのこと

女性として扱わず悪かった。許して欲しい。」

そう言って改めて頭を下げ直した。


「ずるい。」


「ん?」


「そう直球で謝られて、もし許さなかったら、俺が悪者じゃないか……」


(また、俺って言ってるし……)


「で……そこまで言うなら責任はとってくれるんだろうね。」

とゼリスは黒い笑顔をした。


「えっ?」


「乙女の大事なところ(おしり)を見ておいて……

まさかしらばっくれるつもりなのか……?」

『よよよ』と泣き真似をする。


(こいつ……うぜぇ。

よし分かった。そっちがその気なら……)


「悪いことしたなゼリス。

そこまで傷ついていたなんて……。

傷つけた責任とってお前を嫁に貰うことにする。」

そう言って俺はにっこり笑った。


それを聞いてゼリスは真っ青になった。

「げっ……。冗談だよ冗談。

許してやるって。バーバリアンの嫁なんて冗談じゃない……」


(よっぽど俺が嫌なんだろうな……

こいつ。大慌てで否定しやがった……)


悪のりしようとして口を開きかけたその瞬間


ヤルがボソリ

「大人気ねぇ」

と呟いた。


「お前ら、悪ふざけはここいらで止めておけ。子供が『責任』なんて軽々しく口に出すもんじゃない。

隼人も隼人だ。悪ふざけにしても言って良いことと悪い事があるだろう?

俺はそう言う冗談は……嫌いだ。

この話はここで終わり。終わりだ終わり。」

そう言ってヤルは話を強引に打ち切った。


(悪のりし過ぎたか)


「ヤル不愉快にさせてしまったようで悪い。」

そう言ってヤルにも頭を下げた。


「その話はもう終わりだって言ったろ。終わりは終りだ。」

ふうっとため息をつかれた。


「それより、じいさんから『つなぎ』が入った。


『明日この場所で12時に会おう』との事だ。」


「今回俺はどうするんだ兄貴?」


「ゼリスも来ると良い。」


「わかった。」

とゼリスも頷く。


「ところで……」


「ところで?」


「お前達二人、ここで何をやっていたんだ?」


◼️□◼️□◼️□◼️□


「『ゴブリン狩り』をゼリスに手伝ってもらっていた。」

と俺は正直に答える。


「ゼリスの腕もかなり上がったんだぜ。」

俺がそう誉めるとゼリスもちょっと得意そうにした。


「ほう?良かったら、その腕を俺に見せてくれ?」


「ヤル、お前戦いを嫌っていた筈じゃなかったか?」


「ああ、気配を消して見てるだけのつもりだ。」



その後ヤルにゴブリン出現パターンと戦闘時にハンドサインを教え、ゴブリンホールへと向かう。


「ヤルは入口付近で気配を殺して見ていてくれ。

俺とゼリスで狩る。」

そうヤルの耳元で囁いた。


ハンドサインでゼリスに方向を伝え、カウントダウンに入る。


4、3、2、1 ゴー



合図と同時に気配を殺し

ゴブリンホールを駆け抜ける。


まず一匹……。

仲間から少し離れている個体にターゲットを定める。

相手の死角に回り込み、不意を突きナイフを振るう。

「ザシッ」

音もなくゴブリンは沈み込む。


そしてまた一匹

同じく死角からのバックスタブで仕留める。

この間僅か数秒。


その勢いで瞬く間に5匹まで狩る。

(前回は気付かれないで狩れたのここまでだったな。)


6匹目に移るところで、近くにいたゴブリンに声をあげられた。

(ここまでか。)


ドームに蔓延するオド(魔素)を取り込み

身体の中のマナ(気)を回す。

(さあ、ギアチェンジだ。)


敵に向かい、捌き、崩し、極め、落とす。

7、8、9、10…….

14を数えるころには、もう立っている敵の姿はなかった。


(ここのところ20匹パターンが多いな。)


ふと見ると呆然としていふヤルがいた。

「ヤル、魔石をとるのを手伝ってくれ。」

と声をかける。 


「ああ……分かった。しかしお前……本当にこの短期間のうちに『気配消し』と『認識阻害』マスターしたんだな……」

ボツりと言った。


その後小部屋で最後の確認をとり、俺とゼリスは『本番』へと向かうことにした。


「ヤル、ゴブリンジェネラル戦お前ホントに見に来るのか?」

と再度確認する。


意外なことにヤルがゴブリンジェネラル戦も見に来ると言い出したのだった。


「ああ、ゼリスにはちょっと荷が重そうなんで見るだけじゃなく、ちょっとは手伝うつもりだ。」


(なんやかや言ってゼリスのことは心配なんだな……)


ヤルとゼリスは手筈通り、ホール反対の口

へ俺は小部屋近くに潜む。


しばらくすると予想通りゴブリン斥候が現れ、そのうち2匹が反対の入口へと向かう。


こちら側の2匹はパターンどうり反対にいる2匹を凝視している。


『バサリ』

反対側の2匹が倒れた。

(ゼリスナイスだ。)


それと同時に

『ゲェッ』

と叫び声を上げ、二匹は反対の入口へと向かった。


伝令役の1匹は巣穴に引っ込んでいった。


(来るぞ……)


前回同様

ワラワラとゴブリンが湧き出し、反対の入口へと向かう。


『ビュン』

と言う風切り音と同時にボーラの投擲が始まった。


(さて、どこだ?)


『グアッゲッゲッゲッ』

と言う一際大きな叫び声が右手30度の方角から聞こえる。


(出たな。)

壁にある、一際大きな裂け目から一際大きな個体と、二匹の杖持ちゴブリンが現れる。


(二匹?前回一匹だった筈だが……

まあ、やることは一緒か……

しかし、奴らのところまでちょっとあるな……。魔法を使うか……)


幸いなことに彼らの意識は反対の口に向いている。


ゴブリンジェネラルだけは


『グアッグアッゲッゲッ』



『グアッゲッ』



『グアアッゲゲッ』


大きな声で矢継ぎ早に指示を下している


オドを吸い込み体内マナの回転を上げ、

空間のオドに向けてマナを放出する。


『ヴィーダ·ベーダ·マーナ』

ワードを唱え


同時に空中へ左手に隠し持っていたミスリルの粉を

投げ上げた……


風により舞い上がったミスリル屑は狙い通り、

ゴブリンジェネラルとゴブリンメイジに向け降り注ぐ……


『グゴォォ』


『グゲグゲ』


予想を上回る効果があったようで2匹は目を抑え転がり回る。


(二匹だけ?)


ゴブリンメイジの内一匹は離れていたせいか、

直撃を避けたらしい。振り返り俺を睨む。


(まずい……)


すぐさま発動の準備をする。


『ゴオッ』

ファイアボールが俺に向かって飛んでくる。


そして……


『バンッ』

と言う音と共に炎は消えた。



(よし成功だ。)



魔法を防がれると思わなかったのか

ゴブリンメイジの動きが止まる。


その隙を逃さず俺はマナを回し、一気に駆け寄った。



『ヴィーダ·ベーダ·マーナ』



『バン』



『ヴィーダ·ベーダ·マーナ』



『バン』


乾いた音と共にゴブリンメイジのファイアボールは消えていく。


(軌道が見え見えだな……

直線で来るのならいくらでも対策を打てる。

魔法が使えなければ所詮、貧弱なゴブリンだ。)

ザクッと首を落とす。


次はこいつだ……


ゴブリンジェネラルに向かう。

これもさしたる苦労なくあっさりと落とす。


続けざまに二匹目のゴブリンメイジの首も狩った。


(これでおしまいか……

目が見えぬゴブリンなんぞ、敵じゃあないな。)


ゴブリンジェネラルの首を拾い、左手で掲げる。


「セヤァァァァァァァァァァァァァァ」

腹の底から声を出し、

反対側の通路を凝視しているゴブリンどもの意識をこちらに向けさせた。


そして……

俺が何を持っているのかを知ると、

ホール中は騒然となった。


慌てて逃げだそうとして味方を押し潰す者。闇雲にボーラを投げ、味方の機動力を奪う者。矢を滅茶苦茶に射かけて同士打ちをする者など纏まりの無い烏合の衆と化した。


先程見せた戦術的な行動は最早面影すら残っていない。

そんな中俺はマナを回し、ひたすら駆け抜ける。

そして狩って、狩って、狩って、狩りまくった。


気付くと残ったのは、

いつの間にか合流していた

ヤルとゼリス、俺の3人だった。



「やったな……」



「ああ」



「うぉお----オオオオオオオオオオオオ」

俺は迸る衝動により雄叫びをあげ、



ヤルは引き、



そしてゼリスは呟いた

「バーバリアン……」





しばらくして、興奮から覚めた俺は二人に言った。


「魔石を回収して……」 



「戻るか……」



「いや」



「ん?」



「せっかくだから……」




「げっ、てめえまさか……」



にっこり頷く



「せっかくだから、ゴブリンジェネラル狩りもう少し楽しもうぜ。」


(ジェネラルが湧くポイント、特定出来たし……な。)


二人が目一杯引いていたのは言うまでもなかった……



◼️□◼️□◼️□◼️□



「しっかし、ゴブリンジェネラルって言っても魔石は意外とショボいんだな……」


取り出した魔石を見て俺は言った。


「ゴブリンはFランクの討伐魔物だぜ……ジェネラルっていっても単体だとせいぜいC ~Dだ。」


「ヤルお前、Bランクパーティーが討伐するとか言ってなかったっけ?」



「それはこんだけ数いるからな。」

そう言って辺りを指差し顔をしかめる。



「普通2~3人で挑もうなんてバカはいねぇ」



「まあ、バーバリアンだから……」



(なんでもバーバリアンだからって言葉で終わらすのはどうなんだよ……)



「ちなみにオーガのランクはどのくらいだ?」



「BだB 。あいつらは半端なく強いぞ。」



「ヤルの兄貴、バーバリアンが笑っている……。

嫌な予感しかしないんだけど……」



「奇遇だな。俺もだ。」

とヤルが言った。



(ここで階位をあげたら次はオーガだ。楽しみだな……

目標は大きくいこう。)



◼️□◼️□◼️□◼️□


しばらくの間、俺達はゴブリンジェネラル退治に勤(いそ)しんだ。


ゴブリンジェネラルの出現場所が特定できたお陰で、特に苦労することも無く狩は順調に進む。


「ゴブリンジェネラルを狩る腕も凄いが、その風魔法も……凄いな……

メイジのファイアボール、ほぼ100パーセント吹き消しているじゃねえか。」


「吹き消しているんじゃなく、酸素を遮断して燃焼出来なくしているんだ。」

と説明する。


「なんだ?その『酸素』とか『燃焼』とかってのは?」


「燃焼って言うのは、物が燃える現象を指す言葉だ。

そして物が燃える為には、三つの物が必要とされる。一つは燃える物本体、もう一つは熱、

最後の一つが酸素になる。」


「つまりその酸素って言うのを無くしちまっているってことか?」


「まあ。大体はそんな感じだな。

正確に言うと、俺とゴブリンの間に真空帯を生じさせているんだが……


ファイアボールは一直線に飛んでくるし、速度もそれほど早くない。

だから軌道の予測は簡単だろ?

その軌道上に俺は真空帯を生じさせているって訳だ。」


「良くわからんわ。俺は普通の風魔法で充分だ。」

ヤルはそう言ってそれ以上のことを聞くのを止めた。


「それより、俺は疲れた。そろそろ帰って寝ようぜ。」


(流石に潮時か……)


「分かった。今日はこれでお開きにしよう。また明日な……」



「おう。隼人もゆっくり休めや」


小部屋を出た後二人と別れ、出口へ向かった。


門番にノルマ帳を見せ鉱山から出る。


(飯を食ったら川で久しぶりに水浴びでもするか……)


そう思い立って急ぎ飯を掻き込み、川へと向かう。

衣服を脱ぎ捨て川へと飛び込んだ。

(流石にまだ寒いな……)


10分ほど体を良く洗い、川から上がる。


「ようっ」


振り返るとヤルがいた。

(ヤルも水浴びか)



「隼人も水浴びか?

珍しいこともあるもんだ。」



「…………今日は返り血を結構浴びたからな。洗い落とさないと気持ち悪い。」



「お前でもそういう感覚あるんだな……。」



(あるに決まっているだろうが。こいつの俺への認識一度改めさす必要があるな……)



「……元の世界じゃ、毎日欠かさず風呂に入るかシャワーを浴びるかしていたんだけどな。」



「おまえも貴族だった口か……?」



「違う。単なる平民だ。」



「じゃあかなり裕福な家の出だったんだな。」



俺は首を振って言った。

「至って平凡な家の出だ。

『風呂に毎日入っていた』と俺が言ったことで誤解しているようだが、俺の住んでいた場所では風呂を家に持っていること自体特別な事ではなかったからな。庶民でも毎日風呂に入ろうと思えば入れる環境だった。」



「俺には想像つかんが良い世界だったんだな。」


「ああ……。それより『お前も』貴族だったのかってことは……

ヤルお前もしかして貴族だったのか?」


「俺が貴族に見えるか?」


「いや。ちっとも。」


「なんか少し気に食わんが……

確かに俺は違う。」



「じゃあ誰なんだ?」



「ちっとは考えろよ。俺じゃなけりゃ共通の知人なんて限られるだろうが。

ゼリスだよ。ゼリス。

あいつは正真正銘お貴族さまだ。」



「なら何故お前なんかとつるんでいるんだ?」


「お前なんかは無いだろうが…………。


まあ……お前なら話しても大丈夫だな。


昔、お前に俺が『義賊』をしていたって話したのを覚えているだろう?」


「ああ。」

(もっとも与太話と思って話半分で流していたが……)



「押し入った先に、あいつがいてな。」



「…………それで?」




「ついて来ただ?」

(こいつ盗みだけじゃなく、幼児誘拐まで手に染めていやがったか…………)


「『誘拐した』ではなく?『ついて来た』だ……? もう少しましな言い訳しろよな。」



「まあ、待て。あいつが、俺のこと嫌っているように見えるか?」




(確かに……いない。何故だか分からないが

むしろ慕っているように見える。) 



「あいつ『私をこの家から連れ出してくれ』


そう言って頼んで来たんだぜ。

なんでもするからと言ってな。

まだ幼いガキが……だ」



「…………」

(言葉じゃ何とでも言えるよ……な?)



「俺が押し入った時、ゼリスは鍵のかかった部屋に一人押し込められていたんだ。

理由は知らないがよ。


あいつの兄妹や他の家族はゼリスを一人置いて

城のパーティーに出席していたんだぜ。


俺は盗みに入るに当たってゼリスの家族の予定を事前に調べておいていたから間違いない。


幼いガキんちょがたった一人で部屋に

押し込められるだけでもどうかと思うが、

押し入った見ず知らずのシーフに

『連れ出してくれ、仲間にしてくれ』って

頼むくらいにまで、追い詰めるってのは異常だぜ。


だから俺には拒めなかった……。


隼人よ、お前が俺の立場だったらどうするのか……?

見捨てるか……?


俺は『見捨てる』って選択肢を選べなかった。」


ヤルはそう喋ると押し黙った。


(重い話だ……。)


「ヤルもゼリスも色々あるんだな」

そう言った後俺は寝ぐらへ帰ることにした。

(ちくしょうサブい。身体を温めて寝よう。)


ヤルは服を脱ぐと川の中へと入っていった。

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