たまたま

(ゴブリンホール攻略は、俺一人だけじゃ無理だ……。ヤルとゼリス二人に助けて貰おう。

ただ…大ゴブリンとファイアゴブリンについてはしっかり対策を考えて挑む必要性があるな…。


取り敢えずヤル達をまず探すか。)


小部屋の椅子に座り目を瞑った。


深く息を吐き出し、意識を鉱道に溜まっているオドと同期させ『索敵』を始める。


ここから500mほど先か…。

幸いすぐに二人のマナを見出す事ができた。


早速部屋から出て、オドを身体に取り込みマナの回転を上げる。


『バン』と

踏み込み加速し二人の所へと向かった。



□◼️□◼️□◼️□◼️


会うなりヤルは口を開いた。

「隼人、ノルマは大丈夫か?なんなら俺も少しは手伝うぜ。」

どうやら彼なりに心配してくれていたようだ。


「マナが使えるようになったおかげで、そっちは何とかなりそうだ。気持ちだけありがたく受け取っておく。」


「そう言ったって、ギリギリでだろう?余裕あるとは思えないぜ?」


「それが、どちらかと言えば…

かなり余裕が出来たんだ。」


「もしかしてバーバリアン度がアップしたとか?」

とゼリスが口を挟む。


「まあ、そんなとこだな……」

面倒なので軽くあしらうと


「バーバリアンの癖に生意気だ。」

ゼリスが絡んできた。


(相変わらずこいつ俺に絡んでくるな……。

面倒くさい…)


「マナを習得できたおかげが大きい。二人のおかげさ。有り難うな。」

軽く頭を下げ、礼を言うとそれ以上彼女は何も言わなかった。


「ノルマの手助けじゃないとすると何の用だ?大人しくゼリスに風魔法を習うことにでもしたのか?

お前のことだ『見かけたから挨拶』ってわけじゃないんだろう?」


「ん?挨拶しに来ただけだが?」

ととぼけて返すと


「さっさと要件話やがれ」

と蹴りが返ってきた。

(ははは、お見通し……って訳だな。)



「敵わないな。実は……」



「実は?」

興味津々といった感じで聞いてきた。



(そういや、風魔法であいつの魔法に対抗出来ないもんだろうか?)




「実は……だ。 ゼリス、俺に風魔法を教えてくれないか?」


「…………」


「隼人、お前最初に言いかけた言葉、途中で変えたろう」

とヤルが睨む。


(何故分かった?)


「まあ、最後まで話を聞いてくれ。」

と手で制した。


「今回、周回スピードを上げる為、階位を上げて肉体を強化しようと考えたんだ。

今のままだとヤルも言った通りノルマ達成ギリだしな。」


「そいつはいい考えだ。」


「で、例のホールに行ってみた。」


「待て、なんで過去形なんだ?

まさか既に行ったんじゃあるめえな?

確か『危険なんで封印しよう』と誰か言ってた気がするんだが?」


「ああ……すまん

折角マナが使えるようになったんでチャレンジしてみたくなったんだ。」 


「まさか一人で?」


俺は頷いた。


「まあ、隼人のバカさ加減はいつものことだが……」

呆れかえった声でヤルは言った。


「無事ってことはまあ上手くいったんだよな?」


「序盤はそれなりの数を倒した。」

歯切れ悪く答える。


「ちゅうことは、後半何こあったんだな?」


そこで俺は、

『オーガに再チャレンジしたこと』

『ドームに戻ってみたら前回いなかった大ゴブリンが出現し、指揮をとって俺を殺しにきたこと』

『メイジゴブリンが出てきて殺されそうになったこと』

などをヤル達二人に話した。


◼️□◼️□◼️□◼️□


「相変わらず、まあ……なんだ……」

とヤルが口ごもる。


「相変わらずの馬鹿。」

とゼリスが一刀両断する。


「しかしおまえ、良く無事に帰ってこれたな……。

ある意味『奇跡』だぜ……


話から察するに……大型のそいつは、多分『ゴブリン将軍(ジェネラル)』だ。

しかも他に『ゴブリンアーチャー』や『ゴブリンメイジ』までいたんだろ?

普通『ゴブリンジェネラル』の討伐案件だとB ランクの死にたがりが最低6組は必要と聞く……

しかもご丁寧にオーガ相手にも喧嘩も売って来たって言うし……。」

完全に呆れかえっているのが分かった。


「でも、ゴブリンなんて雑魚じゃあ?」

ゼリスが聞く。


「一匹、一匹はまあ、雑魚だな。

ただそれにユニーク個体……いわゆるJOB 持ち個体加わると格段に難易度が上がる。

実際『統率能力』を持っているゴブリンジェネラルやゴブリンキングが出ると、難易度そのものが格段に上がると言われるからな。


まあ、実際戦った隼人ならその辺のことは分かるだろう?」


「ああ、軍隊のように統率が取れて、戦術らしきものまで使ってきた。

単発のゴブリンと上位個体に統率されたものとは完全に別物と考えた方が良い。」


「で、何処に風魔法が絡んでくるんだ?」


「奴らの中にゴブリンメイジがいる。

仲間がいようがいまいが構わず、魔法をぶちかましてくるクレイジーな奴だ……。

そいつ対策として風魔法を覚えておきたい。」


「そいつ『風』持ちなのか?」


「違う。『炎』持ちだ。」


「『炎』?それは厄介だな……

炎に風は相性が悪いぞ。

風は炎に力を供給するとされるからな。」


「風でファイアボールの軌道を反らすとか出来ないのか?」


「不可能とは言わないが……

お前、飛んでくる球体に風を当てることが出来ると本気で考えているのか?」


「練習すれば……なんとか?」


「魔法ってのはそんな簡単なもんじゃないぜ……。覚えるのに数ヶ月、場合によっちゃ数年かかる。しかも飛んでくる火の玉にピンポイントで風を当てるなんぞは……」

とヤルが呆れた表情を浮かべた。 


「でも…教えてもらったシーフの加護魔法

何とか習得できたぞ。細かい点がヤルのと微妙に違う気もするが……」


「マチスの加護がお前にも下ったのか?」


「いや?気合いで……

気合いで何とか……。」


「……………………」

しばらくの沈黙のあとヤルが再び口を開いた。


「大体お前、教えたのってたかが数時間前だぞ?ゴブリン退治もやってたって言ってたよな?いつ覚える暇があったんだ?」


「ぶっつけ本番でなんとかした……」


「…………」



「バーバリアンは頭じゃなく身体で覚える。だから普通と同じに考えては駄目」

と何故かゼリスがヤルを慰めている。


(なんか遠回しに非常識と言われている気がする……)


「まあ、実際覚えられるかどうかも分からないが……取り敢えず教えてくれ。」

と俺は頭を下げた。


■□■□■□■□


「バーバリアンは、もう『マナ』と『オド』が使える。だから風魔法習得はすぐできるはず。」

とゼリスは考えを述べた。


「それは有難い。具体的にどうすれば習得できるんだ?」


「前に言った通り、あと『魔法陣』と『ワード』を覚える必要がある。」


「魔法陣は、都度都度魔法を使う度に描かないといけないのか?」


「基本魔法陣は書いた方が安定する。なので描く魔法使いが多い。」


「というか……お前らが魔法陣を書くのを見たことないぞ?

それに……考えてみれば、ワードすら唱えているのを見たことがない。」

とゼリスに尋ねた。


「バーバリアンは質問が多い……」

バーバリアンの癖に…という呟きとため息が聞こえた。


「まず、第一の質問に対する答えだけど、魔法陣は象徴具や想像力で賄うこともできる。

なので慣れば魔法陣を書く必要がそもそもなくなる。」


「象徴具?」


「象徴具は必ずしも、物である必要はない……

例えば『右手の人差し指と中指をクロスさせる行動』を『風の第一魔法陣と同じものとする』と定義しイメージを定着すればそれで代用できる。


行動に定着させると『ついうっかり』となりかねないから……

魔法使いは敢えて物、特に宝石などにイメージを定着させる者も多い。


宝石に複雑な魔法陣を定着させて、杖に組み込むなどしている者も多い。

そして僕らシーフ職が風の魔法陣を描かないで済むのは、それが加護として与えられたものだからだ。


そしてワードを使わない理由は……」


「それぐらい、隼人に考えさせろ……」

とヤルが口を挟んだ。


「ワードを相手に聞かれることによって、どんな魔法を発動するつもりか分かってしまうから……なんじゃないか?」

しばらく考えた後俺は答えた。


「当たっている……」

とゼリスは驚いた……


「実際は『唱えていない』のではなくて、『聞こえないよう呟いている』のだけど……」


(なるほど……。色々分かった。

しかし、加護って本当に便利なもんだな。)


「ともかくこれからが実践だバーバリアン。

第一魔法陣はこう描く。」 

そう言って空中に魔法陣を書いた。

そして、続けて

『ヴィーダ·ベーダ·マーナ』

と唱えた。


唱えると同時に魔法が発動したらしい。

『ピュッウ』

と言う音と共に風が俺に当たった。


(ゼリスは加護を持っているのになぜ魔法陣の描き方を知っているんだ?)


そう考えていると


「ぼやっとせず、一つでも魔法陣を覚える。」

と急かされた。


(一つでもって……)

「魔法陣はいくつあるんだ?」


「魔法の数だけ」

当たり前のこと言うなという顔をゼリスはした。


(俺は今魔法使いになるつもりは無いんだが……)


暫くして俺はゼリスに切れられる羽目になった。


「少しは真面目にやる!!」

(不真面目にやっている訳ではないのだが……)


ゼリスが呆然とした顔で俺を見ている。


「わっはっはっはっはっ」

そして横ではヤルが何故か楽しそうに笑っている。


(そんなにおかしいか?……

昔から美術のセンスがないのは良く分かっていたが……)


教わり始めてはや4時間。俺はまだ『第一魔法陣』を突破出来ないでいた。


「いやあ、ここまでセンスないやつ見たの始めてだわ……」

涙ぐみながらヤルは笑っている。


「頼むから、頼むから……第一魔法陣だけで良いから描けるように……」

目の前には肩を落としうなだれたゼリス……


流石の俺もゼリスに対し申し訳ないと思い始めていた。


ただ……ただ、本気でもって上手くかけない。なんというか、センスが恐らくないのだろう。未だに最初歩の魔法陣すら描ける様子が無かったのだ。


(魔法を覚えるのにまさか絵の才能が必要になるとは……盲点だった……。)


「円のこことここ、ちゃんと結ばないと魔力が駄々もれになる。それとこの円、真円じゃない。これだと制御出来ずに明後日方向へ飛んでいくことに……

それと、それと、この真ん中の変な山羊は?僕こんな魔法陣、教えていない。

もしかして、もしかして悪魔(デーモン)でも呼び出すつもりとか……」


隼人ならあり得る、隼人なら……とぶつぶつうわ言を言い始めた。


(あっ駄目だこいついっちまった……)

「おーい戻ってこい。山羊なんて描いてなんかないぞ。それどうみても三角三つ繋げて書いているだけだろう?」


「…………」


へっと言う顔を二人ともした。


「僕は負けない、絶対負けない……バーバリアンなんかに負けないぞ」

とうとう『へへへっ』とゼリスは呟き始めた。


「そこまで酷くはないと思うが……?

まあ、多少は……見にくいのは認めるが?」


そこで今まで横でへらへら笑っていたヤルが口を開いた

「おい、ゼリスこいつ駄目だ……自覚がねぇ。諦めるか、他の方法考えた方が良いぞ。」


「そこまでか?」

と俺は聞く。



「そこまでだ!」

と二人ハモりやがった。



□◼️□◼️□◼️□◼️


暫くの間、休憩を挟むことにした。

二人は何やらこそこそ話している。


正直まる聞こえだが……


「だから、無理だって。この方法はやめた方が良い。」

とヤルが言っている。


「だけど、『メロウ』の名にかけてここまで虚仮にされて引っ込む訳には……」


(メロウ?マチスじゃないのか?)


「まあ、なんだ、教えることを止めるんじゃなくて、やり方を変えてみたらどうかって話しだ。」


「でもヤル兄、ここまで酷いの見たことない……他の方法取ったとしても……」


「ならいっそアレをしたらどうだ?」


「あれって?」


「ほら、字書けないガキに『マナ』と『オド』の感覚を教える為に使う方法あるだろうが……」


「あれだと細かい制御出来ない上にマナの消費も……」


「まあ、お前の立場だとしたら嫌だろうな……」


「でも、あいつはバーバリアンだし、意外と感覚で……」


「なるほど……でも始めはしっかり基礎を…」

何かまだ揉めているようだ。


「よしっ。」

ふいにヤルが大声を上げ、


「俺様がじきじきにレクチャーする。ゼリス選手交代だ。お疲れ。お前はそこでちょっと休んでいろや。」

そう言って選手交代を宣言した。


「隼人ワードは覚えたか?」


「ああ、『ヴィーダ·ベーダ·マーナ』だろ?」


「なら大丈夫だ。

言いかこれからやり方を説明する。

良く聞けよ。

お前のマナを大気中にあるオドにぶつけろ、その際こう願え『こっちから、あっちに風よ吹けっ』てな。


で……ワードを唱える。それだけだ。」



(まさか?)



実際やってみる。



『そよっ』とした風が流れる。


(なんだ簡単じゃん。でもなんで?)


「『なんでこの方法を先に教えなかったんだ』って顔をしているな……じゃあもう一度やってみろ」


『バサバサ』とした感じで風が揺れた。


(ん?……)


もう一度やってみる



『ビュー』



(あっ……)



「どうやら分かったようだな。

『人のイメージだけ』で発動させた場合、ほぼコントロールが効かない。

例えば家の中でローソクの火を消すのに毎回突風が発動したならどうなる?

結果は悲惨なものにしかならないわな……


ある意味致命的だと言える。」

ここでヤルは口をつぐんだ。


「飛んでくる火の玉にぶつけるなんて芸当は無理ってことか。」


「そうだ。そう言うこともあって魔法を習得しようとする者は、『魔法陣』の基礎を徹底的に練習するんだ。」


「で、俺にその制御技術である『魔法陣のセンスは無し』と……」


「今から、数年みっちり勉強すればあるいは……な。

それか、どっかの神さんの加護を受ければ……」


(数年?明日をも知れぬ身としては無理だ……。守護神選別もここでは無理……と)


「とりあえず、二人のおかげで魔法が発動できた。これだけでも感謝だ。

今日は時間をとってもらいありがとう。ここでいったん切り上げようか。」

そう言うと二人も頷いた。


(やれやれだ……)


◼️□◼️□◼️□◼️□

二人と別れた後ノルマに戻る。


最後の周回を終え、鉱道を出ようとしたところ

番所から例のびっこの男が出てきた。


「ふん、お前ザナル様に逆らったんだって?……

バカな奴だ……

地べた這いつくばってでも、ザナル様の靴を舐めてでも良いから、許してもらえ……。

じゃないと間違いなくお前死ぬぞ。

ノルマ2倍なんぞできる訳がない。」


(親切から言ってくれているのか?ただ何故俺のノルマが倍になった事を知っているんだ?……)


俺は黙ってノルマ帳を見せた。

受け取りのサインはすべて今日の日付で埋まっている。


「まさか……

誰かに手伝ってもらったんじゃねえな?

それか、野営地のやつらでも買収したのか?」

と聞いてきた。


「この鉱山で、人のノルマを手伝ってやろうなどと考える奇特な奴はいると思うか?」


「いない。」


「そして買収するような貴重品を俺をが持っているとでも?」


「それも、無いな……じゃあ何故だ?」


「死ぬ気で頑張ったんだよ。」

そう返した。


「まあ、そう言うことにしといてやる」

そう言って彼は頭を振りながら番小屋へと引き上げて行った。


きっとたまたまだ、たまたま……

そう呟きながら。


(ここには、本当ろくなやつがいない……)

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