Muscular pain

魑魅魍魎な妄想録

第1話 出会い?



「さっきの子可愛いね。」

「だろ?あんな可愛い子女子でもなかなかいない。」

「え〜、私は〜?」

「え〜お前はな〜…ってお前なんでこんなとこにいんだよ!!ここ男子トイレだぞ!?」

「えーダメ?」

その前屈みで人差し指を下唇に当てる悩殺ポーズをやめなさい。

「ダメです。」

「ケチッ!」

はぁ。なぜこんなことになってしまったんだ。

昨日、いや、一昨日までは普通の高校生活を送っていたはずなのになんで?

そうだあれはたしか昨日の夜…


結局俺は高校になっても野球を辞められない。

それは『100マイルを超えるストレートと落差とキレのあるフォークを投げるジャイロボーラー』のような闘志もやる気もなく。

なんとなくクラスで『アウトローな存在』になりたくないから続投している。

ただ、それだけなのだと思うと虚しくなってくる。

こんな自分でも昔は

『100マイルを超えるストレートを…略』に憧れていたこともあった。

「なんてつまらない人間になったんだろう。」結構な頻度でこんなことを考える。

「るいす〜、そろそろ整備はその辺にして帰ろうぜ。」『るいす』とは俺の名前だ。塁に住むと書いて『塁住』親が野球好きなこともありこの名前に…

そして今の声の主は小田桐 采斗、新チームのキャプテンであり、ただのイケメンである。小学校から一緒に野球をやってきたがその頃からチームでは上手い方だった。天に何物与えられたら気が済むのだろうか。

「ごめん、今日は先帰っててくれ俺はもう少しやってくよ。家近いし。」

「そうか?俺は先に帰るぞ。」

「おう。」

采斗はレイキを置いてエナメルを担ぐとすぐに帰っていった。

実際、一緒に帰っても良かった、普段の部活の日は一緒に帰っている。

ではなぜか、これは自分と同じ年頃の人なら共感してくれる人もいると思うが、なんとなく一人で考え事したくなる時があるのだそれがたまたま今日だったというだけだ。

しょうもないあるあるを披露したところで俺もそろっと帰ろう。

一人で帰るときは決まってコンビニに寄る。

そしてこれも一人で帰る理由の一つ、ジュース(コーラ)を摂取したくなったのである。

これは野球部あるあるなのだが、体づくりに悪いという理由でジュースやお菓子に制限がかかっていることが多い。

ウチの場合はコーラなどの炭酸飲料含め、着色料がきつい物は基本的にアウトということになっている。

だがアバウトなので基本的にみんなお茶や水、スポーツドリンクに落ち着く、当たり前だがこんな口約束破ろうと思えばいくらでも破れるのだが、なぜかみんな破ろうとはしない。何かの暗示がかけられたかのように。

最初は背徳感があったが、だんだんと薄れてきた。

『犯罪を犯すやつの心理状況のようだ。』

こんなことを思いながらコンビニの自動ドアが開き外へ出ると、なにやら視線を感じる。

ここで知り合いに合えば1発アウトだ。

心臓が大きく跳ね上がる感じとともに冷や汗が出る。

覚悟を決めて恐る恐るあたりを見渡すと、喫煙ゾーンのあたりに立つ女性と目が合った。女性に縁が俺は違う意味でドキッとしたが、知り合いではなかった。

「ふぅ。」ホッとして思わず声に出る。

自転車の場所まで戻りコーラのキャップを開ける。

変な汗をかいたら喉が渇いた。

そしてコーラを口に近づけ、練習の後というのもあり悲鳴を上げている喉を潤そうとしたその時だった。手からペットボトルの感覚が消える。

「ヴェ!?」謎の擬音と共にコーラを下に落としてしまったと察した。

希望が絶望に変わった瞬間である。

下には溢れている…はずのペットボトルがない。

ん?どういうことだ?

「あれっ?なんか、ごめん!!」んっ?横から女性の声がする顔を上げるとその声の主であると思われる女性は俺に背を向けて走り出してた。

(片手に蓋のないペットボトル握りしめて、バシャバシャと中身の液体をぶちまけながら)

俺は唖然とした。

引ったくりにあった人間の心情を理解する日が来ようとは…

140円のコーラを引ったくられた。

バイトをしてない高校生にとってはかなりの痛手だ。

部活を終わりの疲れた体を狙った犯行だったとしたらかなり悪質極まりない。

怒る気力も湧かず、そのままぼーっと立ち尽くすしかなかった。


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