13:潜入、その前にデザート
「っと、呑みすぎたかな」
食事を終え、青年たちと別れたジュードは、軽いめまいを感じながら部屋に戻った。
扉を開けると、カルスのいじけた姿が目に入る。ベッドの上で、大の字になりながら、ふてくされていた。
「うー! ジュード、遅い!」
不満だという意志を隠さぬ青い瞳が向けられる。ジュードは、はいはい、と手を振りながら答え、
「飯は運ばせたろうが。食ったんだろ?」
「食べたよ。でも、一人で食べてもつまらないもん」
一人できちんと待っているように豪勢な食事を運ばせたはずなのだが。カルスはふくれっ面を直そうとしない。よほど一人きりの食事が嫌だったらしい。
適当にいなしながらローブを片付けていると、カルスが後ろから、
「だからこれ、一緒に食べて!」
「ぐおっ!」
腰に飛びついてきた。思わず杖を落としそうになる。
「いてて。これってなんだよ」
「これ!」
振り返った先にあったもの、カルスが指さすのは、色とりどりの果物が盛られた皿だ。
この皿だけは食べずに残しておいたらしい。
「食わなかったのか」
「ジュードと一緒に食べるの!」
そういうことかと、ジュードは皮のむかれた果実を一つ、適当につまむ。
「ほれ」
「はむっ」
それをカルスの口に放り込んでやってから、自分も食べた。
酸味の強い果物だった。酒を呑んだ体には染みる。
「ジュード、美味しくない?」
「んなこたねーよ」
今度は赤い物を選んで食べた。こちらはこちらで甘すぎた。
よくみれば、砂糖漬けのようだ。ジュードは喉が渇いたのですぐさま水を飲む。
ジュードの様子を見たカルスは、機嫌を直してくれたのか砂糖漬けの果物盛りをぱくぱく食べ始めた。味にご満悦なようで、あっさりと笑顔に戻っていた。
よくもまあここまで機嫌も表情もころころ変わるものである。人間でいう子供そのままだ。
「なあ、カルス」
コップを傾けてから、聞いてみる。
「お前って、千百歳なんだよな?」
「う? うん、たぶんそれくらい」
「それって、
カルスは以前、群れの長は自分の百倍は生きていると言った。
人間では寿命の百倍など比べることすらできないが、
「うーん」
カルスは果物を食べる手を止め、悩みだした。首を傾げて、うんうんと唸りだす。
人間ならば、何歳だと言えば大人か子供かなどの判断などすぐにつく。見た目でもだいたい分かるが、
「
生きている
素材として発見される
カルスは真剣に考えていたようだが、結論としては、
「わかんないや」
で終わってしまった。
「群れではボクが一番若かったけど、自分が若いかどうかなんて、全然考えたことなかったよ」
「長はお前の百倍生きてるって言ってたのにか」
「長だって、別にほら、ディルビナみたいじゃなかったし」
ディルビナとは、つい今朝まで世話になっていた、ソド村の老婆である。
千百歳の百倍、十万年以上生きても、
じゃあ、とジュードは話を続けようとする。寿命で死んだものはいなかったのか、と。
言おうとして、ジュードは口をつぐんだ。さすがにこれは品の無い問いかけだ。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
誤魔化すように、砂糖漬けの果物をつまんで食べた。口の中に広がる甘みを水で流し込み、息を吐く。
考えても、仕方のないことだったろうか。
正体や歳がどうであれ、カルスは子供そのままだ。ジュートの態度一つで喜び、怒り、悲しみもする。ならば子供に接するようにするのが一番だろう。
「風呂入るわ」
服を脱ぎながら言うと、カルスは、ボクもボクも、と手を上げた。
砂糖でべったりの手で服を脱ごうとするので、ジュードはすぐに止めた。買ったばかりの服を、いきなり汚されてはたまらない。
丁寧に服を脱がせ、たたみ方も教えてやる。
「今度からは、自分でやれよ?」
「わかった!」
カルスは素直にうなずいて、先に風呂場に入っていった。手早く自分の服を脱いだジュードも続く。
なんにせよ、まだしばらく面倒を見なければなるまい。そう自分を納得させて、ジュードは、
「またかよ」
湯船の中に沈んでいたカルスを引き上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます