第34話 いざ決戦へ

 一時間後。


 サエペースの南門前には、30人ほどの冒険者が集まっていた。


 胸板の厚さが成人した人間の男性の3倍はありそうな獣人の冒険者もいれば、細身ながらもしなやかな筋肉を纏ったアマゾネス、そして、自身の5倍はある巨大な戦斧を丸太のような腕に持つドワーフなど。


【シルバー】ランクまでの冒険者だが、それでもこれだけの冒険者が集まるのは圧巻の一言だった。


 というか、俺はこんな人たちと同列か、それ以上だと思われているのか。ただのプロデューサーなのに、過大評価もいいところだ。


「は~い。皆さん、注目してくださ~い!」


 ぱんぱんと手を打って、シュエットが冒険者たちの視線を集める。


「私シュエット・シアンが『冒険者協会』から今回のサエペース防衛戦の指揮を任されました~。皆さんのことを精いっぱいサポートさせていただきます~。それでは時間もありませんので、早速ですがサエペースを防衛するための作戦をお伝えします~。あちらをごらんくださ~い」


 シュエットが林のほうへと視線を投げかけ、皆もつられるようにそちらを確認した。


 林の出入り口には、パイプ椅子が山のように積み上がり、バリケードのようになっていた。


 体当たりされれば簡単に崩れてしまうが、こちらが魔法やら矢を放つ時間を稼ぐためにないよりはマシだろうと俺がさっき突貫工事で作ってみたものだ。


 まだまだいけそうな気もしたのだが、あんまり作り過ぎると魔力が枯渇して戦えなくなるとロフィンに止められたので、高さ5メートルほどの壁を三重に作るくらいしかできなかった。


「あのように現在林の前を封鎖しております~。あの防壁が破られる前に、魔法で林を焼き払い、矢の雨を降らせてくださ~い。それだけでもサナトス・ヴァイラスの数は減らせるはずです~」

「なるほどねー。それで、あの壁から出てきた連中は、オレたちが接近戦で狩ればいいということだな?」


 獣人の冒険者が不敵に笑うのを、シュエットは笑顔で頷いて返した。


「その通りです~。群れはおそらく100体ほどの個体で構成されています~。そのすべてを倒すか、サナトス・ヴァイラスの本体を倒せば、私たちの勝利となります~」

「理解したわ。前衛のメンバーなんだけど、できれば見知った者たちで組んで戦いたいんだけど、いいかしら?」


 質問してきたのは、薄手の布のような装備しか纏っていないアマゾネスの女冒険者だ。


 シュエットが俺のほうへと「大丈夫ですか~?」と視線だけで訴えてきたので「問題ないです」と首を縦に振った。


 この作戦の最終目標はモンスターを一匹たりとも街へ入れないことである。


 時間さえあれば簡単な連携を模索することもできたかもしれないが、今からでは難しい。各自で最大のパフォーマンスを発揮できる方法があるならそうしてもらうしかない。


「モンスターを倒すことができるなら問題ありませ~ん。ただ~、他の冒険者を見捨てるのはやめてくださ~い。ピンチに見えたら助けに入るなど~、援護はしっかりしてくださいね~」

「それはもちろんよ。あくまでも連携はやりなれた同士でってこと。各々やり方が違うんだから激突を避けるためにも、そうしたほうが得策だと思ったの」

「ほっほっ。それを聞いて儂も安心したわい。こっちもこっちでやりやすいようにさせてもらおう」


 アマゾネスの隣にいたドワーフの冒険者も納得したように、それぞれ仲間を連れて林から少し離れた位置に陣取った。


「皆、準備を始めているようだね。貴族として僕からも一言挨拶をしたかったところだけど、すぐ始まるならば仕方ない。僕らも準備しよう」

「なんであんたが仕切ってるのよ。逃げ出す指揮官の下についたつもりはないんだけど?」


 歩き出すヘーブルの背中に文句を言いつつ、ラチェリが続いていく。


 前回から引き続き、俺たちはヘーブルのパーティーと組むことになっている。


 ヘーブル頼みというよりも、ヘーブルのパーティーにはゴーグルをつけたサブリーダーをはじめとして、熟練の冒険者がいるので、こちらが何かミスをしてもフォローしてもらおうという魂胆だ。反対に向こうが何かやらかした場合はできるだけ助けるつもりだ。


「…………」


 視線を感じて振り返るとアメリアが俺のほうをじっと見ていた。


 今日のアメリアはいつものフルアーマーではなく、袖なしミニスカートの魔法少女の衣装に、西洋兜を被っている。首から下はひらひらなのに、首から上はがちがちの装備だ。元の世界で街を歩いていたら職質されること間違いなしの格好だが、本人はそれよりも素顔をさらすことに抵抗があるので気にしてはいないようだ。見た目は奇抜ではあるが、後方から魔法を打つだけで接近戦をするわけではないので問題はないだろう。


 アメリアの魔法が今回のサエペース防衛戦の鍵だ。余裕を持って魔法を使えるように俺たちで前衛を維持する必要がある。


「アメリア、肩の力を抜いて詠唱するんだ。君の力ならやれる」

「…………」


 アメリアは無言で俺の傍までやってくると囁いた。


「頑張る。イセもやられないでね」

「剣を無事に返すまではやられないよ」


 アメリアから借り受けた大剣を掲げてみせた。


「行ってくるよ。レフィンとロフィンのことも頼んだぞ」

「…………」


 アメリアが無言で頷くのを見て、俺はラチェリとヘーブルのいるほうへと走っていった。

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