第31話 作戦会議 

 作戦会議をすることになり、一部を残して、冒険者たちは街の住人たちへ隣街まで避難するよう呼び掛けにいった。


 俺もそちらに加わりたかったが、ラチェリに呼び止められて叶わなかった。


 残ったメンバーは、俺、アメリア、ラチェリ、レフィン、ロフィンと、ヘーブルにシュエットだ。


「それで~確認しておきたいんですけど~、イセさんは何かいいお考えをお持ちなんですか~?」


 会議のときも笑顔を絶やさないシュエットが俺に提案するよう促してくる。


 さっき冒険者たちがいる前で「罠とか張って」なんて言ったのがまずかったのかもしれない。


 身から出た錆のようなものなので、ひとまず提案だけはしておこう。通るとは思えないが。


「やることは変わりません。街が落とされないように冒険者の方々で防衛線を張ってモンスターの大群を待ち構えるだけです。ただ少し工夫します」

「工夫ですか~?」

「街の外に広がっている林の中につまずくくらいの落とし穴を掘ります」

「つまずくくらい? 深くなくていいの?」


 ラチェリがすかさず疑問を挟んできた。


「浅い落とし穴でお願いします。深く掘っている時間はありませんし、落としたところで再生してしまうのでダメージも期待できません。目的はあくまでモンスターの群れを林の中で足止めするためのものです」

「林で足止めしてどうするの?」

「燃やします」


 急所以外に弱点がなく、火が有効であるならば広範囲で足止めして燃やしてしまうのが一番だ。


「念のため聞いておきたいんですけど、あの林は何かしら意味のある林だったりしますか?……たとえば、先祖代々守ってきたものとか……。そういう曰くがあるのであれば、別の方法を取ったほうがいいです」

「いや、そういうのはなかったはずだよ」


 質問に応じてくれたのはヘーブルだ。


「モンスターから街を見えにくくする役割で残してあるみたいなんだけど、単純に開拓が追い付いていないという理由のほうが大きいね。いい案じゃないかい? 林一つで街が救えるなら安いものだと思うよ」

「ああでも~、延焼は防いでくださいね~。他の林や街まで燃えちゃうと~せっかく助かっても住むところがなくなったって街の方々に怒られちゃいますから~」


 シュエットの指摘はごもっともだったので、簡単に延焼を防ぐ案を伝えておく。


「燃やす箇所を選定して、火が燃え移らないように木を切り倒して水を撒いておきましょう。そうしておけば想定外の場所を燃やす心配は少なくなるはずです」

「それなら大丈夫そうですね~。さすがはイセさんです~、本当に【プラチナ】も夢ではありませんね~」

「当然よ! イセはあたしが認めた冒険者の一人だもの」

「僕も一目置いているというのも忘れないでくれ。庶民の中には嫌う者もいるけど、貴族のコネというのもなかなかいいものだよ。ぜひ、僕のパーティーに入ってくれ」

「ちょっと! イセはあたしたち『魔戦夜行』パーティーなの! 勝手に勧誘しないでよね!」

「ならば君も一緒に入ったらどうだい? 僕は雑種さんの力も買っているんだよ?」

「お断りよ!」


 ヘーブルとラチェリが言い争いをしている脇でシュエットが俺を手招きすると、机の上に大きな紙を広げた。


「街の周辺の地図になります~。燃やす範囲を教えてもらってもよろしいでしょうか~。皆さん今日はお疲れのようなので~、これが終わったら会議も終わりにしましょ~」

「いいんですか? すぐに取り掛からないとモンスターの群れが来てしまうのでは?」

「偵察の役割を持つ個体が街まで来ていないのであと二日は大丈夫でしょ~。群れを動かすのはそれだけ時間がかかるということです~。一番まずいのは作業を焦って人員を割いていない最中に偵察の個体が来てしまうことです~。偵察といっても~、サナトス・ヴァイラスの支配するモンスターは通常のモンスターよりも凶悪ですからね~。黒いので夜だと見づらいという問題もあります~。明日の朝からしっかりと守りを固めたうえで日中に作業していきましょ~」

「わかりました」


 確かに、見通しの悪い夜は危険も多い。急がば回れともいう。俺はシュエットの提案に頷きつつ、南方の林の範囲に印をつけた。


 これであとは実行に移すだけだ。


 まさか俺の提案がそのまま通るとは思わなかったが、犠牲者を出さずにモンスターを足止めできる方法もなかなかないのだろう。


 決まったからにはしっかりやろう。

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