第21話 戦うアイドル候補生

 入浴してホカホカになったアメリアは、宮ちゃんからもらった星柄のネグリジェを着ると、『にへら』とでも形容すべき緩み切った笑みを浮かべて応接間のソファーでくつろいでいた。


「水がぽかぽかしてとっても気持ちよかったよ」

「それはよかったです。私としてもアメリアさんが風邪を引かずにすみそうで安心しました」


 宮ちゃんには今、アメリアの濡れた服を洗濯してもらっており、事務室には俺とアメリアだけが残る形になっていた。


 アメリアはかなりご機嫌らしく、膝を抱えてソファーの上でゴロゴロし始めた。健康的な太ももが存分に露出していて目のやり場に困るはしゃぎ方だ。


「毎日入りたいくらい」

「入りに来ても構いませんよ。同じパーティーにいるんですから、助け合っていきましょう」

「……覗かれそう」

「覗きませんよ……」

「嘘っぽい」


 寝そべっているアメリアに半眼で睨まれる。


 ずいぶんと警戒されているようだ。実際アメリアが裸でいるところに声をかけてしまったし、アメリアからしたら俺が水場を覗いたように思うよな。


「そういえばあの水辺のことなんですけど、最初に私とアメリアさんが出会ったとき何か変なものとか見かけませんでしたか?」

「わたしの水浴びを覗く変態がいた」

「その件は申し訳ありません。すみませんでした」


 俺は深々と頭を下げた。


 まあ誰かが水浴びしていると気づいた段階で目を逸らすべきではあった。そうしておけば、興奮して「アイドルになってください」とか口走る変態にもならずに済んだだろう。


「……覗き以外はわからない。でも……」

「でも……?」

「あの辺りは、昔何かを封印してた場所だって、お母さんは言ってた」

「ほう……」


 何かを封印してた場所? いわくつきの土地だってことか。アメリアの育ての親はドワーフの英雄でもある。封印された土地の一つや二つ知っていても不思議ではない。


 本当に何かを封印していた土地なら、俺があの湖で目を覚ましたことにも関係がありそうだ。


「あの辺りのことについて詳しくわかりますか?」


 俺の問いにアメリアは首を横に振った。


「わたしは何も聞いてない。昔っていうのも、お母さんが生まれるよりも前の話みたいだから。眉唾ものの可能性だってある」

「御伽噺とかそういった類のものだということですか?」

「その可能性は高い」


 いわくつきの土地ではあるが、そのいわくを証明できる材料はなくなっているわけか。


 そうはいっても、俺が異世界に召喚された場所だから何かありそうな気はするけどな。


「……あなたにも訊いていい?」


 アメリアはソファーの上で体育座りしながら俺のほうをじっと見ていた。


 俺は「どうぞ」と先を促した。


「あなたは、もしかして……この世界の人じゃない?」

「……どうして、そう思いますか?」

「この部屋がその証拠。結界魔法っていうのは、術者が想像した空間を作り出す魔法でもある。単純に物理攻撃や魔法攻撃を防ぐ結界魔法もあるけど、特殊な技能を発揮するための空間を作成する魔法の場合もある。あなたの場合は後者、特殊な技能を発揮する場所としての結界魔法。でも、これだけ珍しい結界は初めて。この場所にはわたしが見たことも聞いたこともないものばかり。だからあなたはこの世界ではないどこかから来た魔術師」


 異世界には存在しないものがこれだけ置いてあれば当然の解釈だろう。


 それにしても、この世界の魔法は本当に色々できるようだ。


 俺自身が無意識でこの事務所を作ってしまっているせいか、魔法であることすら確信は持てなかった。事務所が最初にできたときも驚いたしな。


 その点アメリアは普段フルプレートを着こんで戦士のような立ち回りをしているのに、魔法についても知っているようだ。


「アメリアさんは魔法に詳しいんですね」

「本でいっぱい調べた」


 フン、と鼻息を荒くして自信ありげな表情をするアメリア。


「本ですか……ロフィンとは魔法の話をしたりはしないんですか?」

「……この街、いや、『この世界』の人とはあんまり会話をしたくない」


 自信ありげな表情から一変、アメリアは表情を消して俯いた。


「ロフィンは優しい子ですよ。きっとラチェリみたいにいきなり怒ったりはしないと思いますが」

「……そういうことじゃない。優しいか優しくないかは関係ない。やっぱり、あなたは違う」

「どういうことですか?」

「あなたがこの世界の人じゃないと思ったもう一つの理由。そうやって言えること自体が、あなたがこの世界の住人じゃないってことの証明」


 アメリアは自分の長い黄金の髪をかき分ける。


「この耳を見ても、あなたは何も反応しなかった。誰かに告げ口したりもしなかった」


 髪の中から現れたのは先端の少し尖った細い耳だった。


 ファンタジーの物語には定番のエルフの特徴だが……。


「アメリアは、エルフなんですか?」

「……うん。嫌われ者の種族」

「嫌われ者?」

「魔王を討伐する大戦で、参戦しなかった種族。だから嫌われ者」


『ゴードンハウス』で聞いた話にあったな。前に大きな戦いがあって、それで魔王が勇者に討伐されたなんてことを言っていた。


「前の大戦は、魔族対他種族の戦争。魔族は魔法の素養が高く、身体能力も他種族と比べても高くて、一部の魔物も操れて、この世界で一番強い種族だって言われてる。魔王はその魔族の中で一際強くて、魔族を統括して他の種族が暮らす領地に攻め込んできた」

「魔族の王だから魔王ですか」


 物語の多くでは、魔王は悪さをする代名詞みたいな感じで扱われているが、この世界でも結果としてそうなったようだ。


 しかし……気になるな。


「そんな魔族が、どうしてわざわざ他の種族の領土を侵略したんですか? それだけ強ければ、武力を盾に交渉をすれば戦わずに領地を手に入れられるはずだと思いますけど」

「それは、わからない。元々魔族は気性が荒くて、強い力を持っているけど繁殖能力が低くて、数も少ないって話だから。その辺りが関係しているんじゃないかな?」


 なるほど、強くても数が少ないなら他種族に徒党を組んで攻められると負けてしまうということなのかもしれない。それならなおさら他の種族の領地を侵略するために戦いなんて起こさないと思うが。そこまで考えられない、戦いが大好きな種族だったのだろうか。


「その大戦を魔族がどう思っていたのか知らないけど、彼らは襲い掛かってきた。国を一つ滅ぼして、その場所を魔族の国にした。それからも他の場所に勢力を拡大してきたから、魔族以外の全種族が協力して、魔族を撃退した。勇者とそのパーティーが魔王を倒して、魔王に従っていた魔族を討ち果たして、最終的には元々住んでいた領地のさらに奥まで魔族を追いやった。激しい戦いで魔族もいっぱい死んだけど、こっちの被害のほうが10倍あったらしい。でもその戦いにエルフは参加しなかった」

「多大な犠牲を払った戦いにエルフだけが参加しなかった……だから様々な種族に嫌われ者として扱われているわけですか?」 

「うん。戦争の原因になった魔族よりは風当たりは強くないけど、それでも前の大戦を知っている人からしたらエルフは臆病者だと思われても仕方ない。だからお母さんもわたしが街の人と話すときは素顔を隠すようにっていつも言ってた」

「そうだったんですか。だとしたら……もしかして、あのフルプレートアーマーは……」

「お母さんのお古。全身隠しちゃえばわたしがエルフだってバレないから。でもドワーフ用だから、最近はちょっときつくなってきた。鎧の中でちょっと屈みながらじゃないと動けない」


 それでいつも動きにくそうにしていたのか。よく転んだり、物を落としたりするとは思っていたが……。


「そのことをラチェリたちは……知らないんですよね?」

「うん、チェリちゃんは知らない」


 鎧の中にエルフが少し屈んだ姿勢で入っているのを知っていたら、ラチェリだって重いものを持たせたりはしないはずだ。


 というか、「チェリちゃん」ね。ラチェリのことだろうけど、そんなふうに呼んでたのか。俺が知っているだけでもアメリアはよく怒られているはずだが、ラチェリに対しては意外と好意的な感情を持っているようだ。


「お母さんにも顔を出しちゃいけない。外にもあまり出ちゃいけないって言われたんだ」

「でも、街までフルプレートを着こんで来ていますよね?」

「うん、本当は行っちゃいけないけど……わたしも何かやらなくちゃと思ったから。お母さんが帰ってきたときに、成長したところを見せてあげたいなって」

「それでラチェリたちと一緒に行動していたわけですね」


 血は繋がっておらずとも英雄の娘である。お金には困っていないはずだ。


 それでもエルフだとわからないようにフルプレートまで着こんで街で冒険者をやっていたらしい。


「……それで、やっぱりあなたはこの世界の人じゃないんだよね?」


 蒼い瞳が正体を知ろうと俺の顔を見つめてくる。


 ここで誤魔化しても無意味だろう。アメリアには色々見せたし、話してしまった。


 俺が元の世界のことを今まで黙っていたのも、「どういう理由かは知らないけど異世界から来ました」と言って周囲を混乱させたり、変な奴だと思われたりしないようにするためだ。ここまで知られていて、これ以上隠しておく必要もない。


「たぶん、そうなんだと思います。気が付いたら、この世界──知らない世界に私はいました」

「……日常のことは覚えているのに、この世界の常識を知らなかったのはそういうことだったんだ」

「すみません、今まで黙っていて」

「気にしてない。きっとあなたが異世界から来たなんて言っても混乱していたと思う。みんなも同じ」


 アメリアも俺と同意見のようだ。


 今まで無口で意思疎通できなかったが、話してみるとかなり物分かりがいい子のようだ。


「でも、この世界の言葉はわかるんだね」

「ああ、それは……」


 待った。この世界の人にゲームのことをどう伝える?


 ゲームなんてあるわけがないし、かといって『おもちゃ』とか『遊び』と伝えても誤解を招くだろう。


 そもそもなぜプロデューサー・イセの能力が使えるのかもわかっていない。この世界の理屈でどれだけ『アイドルセイヴァー』内の能力が置換されているかもわからない。


 この世界でも通じる言い方にして伝えよう。


「そういう特殊能力みたいなものです。【マルチリンガル】といって多くの言語を聞いて理解し、話すのはもちろんのこと、筆記することもできます」

「す、すごい……言語を解読する魔法があるのは知ってたけど、そんな魔法もあるんだね。イセの世界だとみんなそうなの?」

「えっと、みんなというわけではないです」

【マルチリンガル】は『アイドルセイヴァー』の中でだけ使えるスキル。ゲームから出てしまえば伊瀬孝哉は日本語も満足に使えないだろう。

「それじゃあイセが特別なんだね。すごいよ」

「……ありがとうございます」


 なんだか素直に褒められるとむず痒いな。元の世界だと無視されたり、怒られたりするほうが多かったからだろうか。


「……よし」


 俺が照れくささをどうにか誤魔化していると、アメリアが何かを決心したかのように大きな胸の前で両手の拳を握った。


「ねえ、イセ。お願いがあるんだけど……」

「なんでしょうか?」

「よかったらでいいんだけど…………わたしを、鍛えてくれないかな?」

「え……?」


 鍛える? 鍛えるってどういうこと?


「イセを見て、思ったんだ。わたしもイセみたいに、ちゃんとみんなの役に立てるようになりたいの」


 アメリアの瞳は蒼い炎のように強く輝いていた。


「どうして、私なんですか?」

「だって、イセはとっても強いから。わたしなんかじゃ全然歯が立たなかったモンスターも倒しちゃうし。わたしもあんなふうに輝きたい」


 アメリアの顔を真剣だった。


 俺への頼み事は彼女にとって一大決心だったに違いない。


 裸を見られたり、夜に驚かされたり、異世界から来たと言われたり……そんな胡散臭い奴に鍛えてほしいと頼むのだから。


 しかし、困った。


 俺がこの世界でもモンスターを倒せたのはひとえに『アイドルセイヴァー』のプロデューサー・イセの能力がそのまま使えたからだ。キャラクターを育てるためにイベントなどをこなす関係でゲーム内のステータスを鍛えてはきたが、生身の肉体を鍛えてきたわけではない。


 仮に俺がアメリアの稽古相手になり、組手などの指導をしたとしよう。


 確かにプロデューサー・イセの攻撃を受け続ければある程度強くなるかもしれない。しかし、その程度だ。イセの攻撃を受けたり、かわしたり、反撃したりできるようになったとして、それがアメリアの求めるものであるとは限らないのだ。


 それ以上に危険なのは、俺に鍛えられたからといって凶悪なモンスター相手に強気で立ち回ってしまう可能性があること。


 プロデューサー・イセは、あくまでトップアスリート並みの身体能力があるだけでそれ以上はない。だがグラウンドファングのように、身体能力だけならプロデューサー・イセを上回るようなモンスターもこの世界にはいる。


 さすがにそこまでは責任を持てない。


 アメリアには悪いが、ここは丁重にお断りしよう──そう思ったときだった。イレギュラーが飛び込んできた。


「もしかして、アイドルになりたいんですか!?」


 大きな声と共に事務室に飛び込んできたのは、アメリアの服を抱えた宮ちゃんだった。


 NPCの異世界の理解度が現状ではわからなかったので、クリーニングという仕事を与えて遠ざけておいたのだが、最悪のタイミングで戻ってきてしまったようだ。


 これはかなりまずい。


 宮ちゃん『アイドルセイヴァー』のナビゲートキャラクター。プレイヤーと同等か、下手をすればそれ以上に『アイドルを育てる』という使命感に燃えた設定を与えられているキャラクターなのだ。


 今、その使命感の導線に点火されそうになっている。 


 アメリアが、『アイドル』に興味を持つ前に止めないと大変なことになる!


「宮ちゃん、やめ──」

「あいどる……? 『アイドル』って……?」

「アイドルっていうのは、みんなに夢を与える人のことですよ」

「夢を……?」

「そうです! 困難なこの時代、夢も希望もなく、途方に暮れる人々に勇気をお配りするお仕事なんです!」

「み、宮ちゃん! ちょっとストップ」


 アイドルという単語に反応したNPCを急いで止める。


 この宮ちゃんの反応は、「アイドルとはなんぞ?」という質問をすると返ってくるものだ。パターンによって数種類の会話が存在し、ものによっては話し相手を洗脳するがごとく、ゲームのホーム画面で5分以上もアイドルについて語り出すことがある。ゲームの一人のキャラクターのボイスで絶え間なく5分以上だ。


『アイドルセイヴァー』では、アイドルが夢のある仕事だと強調するために収録されたボイスだとネタで通せるが、異世界だと意味が変わってくる。


 というのもこの世界は、魔物が出たり、今日食べるご飯のために命がけの戦いをしたりと死と隣り合わせの生活をしている人が多い。アメリアだってそうだ。


 そしてこの世界には勇者もいる。勇者とは勇気を持って魔王を討伐した者だ。


 その話が広まっている異世界の住人に、勇気を配るお仕事なんて言ったら……!


「『アイドル』……勇気を配るお仕事『アイドル』! わたしその『アイドル』になりたいです!」


 やっぱりめちゃくちゃ誤解してる!?


「ま、待ってください、アメリア。『アイドル』というのは歌や踊りを見せて、お金をもらうお仕事なんです。決して勇気を配ったり、夢を与えるわけじゃない、現金な仕事なんです」


 なんで俺はアイドルを卑下するようなこと言ってるんだろうな。俺だって語りたいよ! アイドルって素晴らしい! あの笑顔が、あの声が、そしてあの姿が見る者を魅了し、心の中にたまった鬱憤などの負の感情を浄化してくれる素晴らしい存在なんだと! 


 でも、今は言ったらダメなんだ! 


 だってこの世界にはモンスターが出る。歌や踊りや演技を覚えたところで、モンスターには勝てずに殺されてしまう! 


 モンスターを倒せなくてアメリアが俺を幻滅するくらいならいいが、アイドルが勇者のような存在だと勘違いして、今日のラチェリのように格上のモンスターに挑んで返り討ちにでもあったら、目も当てられない。


 だからここで彼女を食い止めなくてはいけない!


「何言ってるんですか、プロデューサー!」


 宮ちゃんは俺の前で仁王立ちすると、眼鏡をくいっと持ち上げて鋭い眼光を飛ばしてきた。


「アイドルは素晴らしい! みんなを感動させて、みんなの心を救ってくれる、そんな存在だといつも言ってるじゃありませんか! そんなアイドルに夢も希望もないなんて言ってたら、アイドルを育てるプロデューサーとして失格ですよ!」

「アイドルを育てる……?」


 いけない。宮ちゃんのセリフがまたアメリアを刺激してる! 


 やめて、本当にやめて! 


『アイドルセイヴァー』のプロデューサーは確かにアイドルを育てる役目があるけど、それを今のアメリアに聞かせたらダメなんだ!


「イセ、お願い! わたしを育てて。アイドルになってみんなの力になりたい!」


 だが、俺の心の叫びは届かず、アメリアは俺への懇願をヒートアップさせていた。


「いや、ですからそれは違うと……」

「歌えて、踊りもできて、それでイセみたいに強いんでしょ? だったら、なりたいよ! もう『ストーン』なんて言われて、みんなのお荷物にはなりたくないの!」


『ストーン』か。確かラチェリたちにも言われていたな。新米であるクリスタルの輝きもなくなった『ただの石ころ』だったか。ラチェリのあれは発破をかける意味合いもあっただろうけど、他の冒険者には嘲笑として使われていたのだろう。ヘーブルに絡まれて何も言いかえせていなかったしな。


 だからといって、アメリアが戦うのをやめて歌ったり踊ったりし始めたら、それこそ余計に笑われてしまうだろう。それにやっぱり勘違いさせておくのはよくない。


「アメリア、もう一度言います。アイドルというのは強くなったり、戦うための職業ではなくて……」

「お願い、プロデューサー!」

「なっ!? なんで……俺をプロデューサーなんて……」


 いや、原因はおそらく宮ちゃんだ。宮ちゃんは俺のことをプロデューサーとしか呼んでいない。


 アメリアは『プロデューサー』が特別な敬称だと気付いたのだろう。


 その通りだよ。


 そして、その敬称は俺の心には効果抜群なんだよ……!


「……本当にやるのか、アイドル? すごく厳しいんだぞ? 元の世界ならそれなりに知名度のある職業だったけど、こっちの世界だと笑われる可能性もあるんだ」

「それでもやりたい。イセが育ててくれるなら、きっとわたしは強くなれる」

「だからそれは違うって」

「そうじゃなくても……もしも、強さだけじゃなくても、みんなに勇気を与えられることができるなら……わたしはやってみたい。それにイセは言ったでしょ?」

「何を……?」

「『俺の……アイドルになってくれませんか』って」


 アメリアの瞳は宝石のような強い輝きを放っていた。


「まったく……ゲームの中のアイドルよりもきれいな瞳をしてるんだから……」

「え……?」

「何でもない。わかったよ、アメリア。ずっと前に約束もしちゃったからな。俺が、君をアイドルにしてみせる」

「ほ、本当っ!?」

「ああ。でも、つらいからって決して逃げ出すなよ?」

「わかってるって。ありがとう、イセ!」

「どういたしまして……でいいのか?」

「うん。それと、イセって普段はそういう話し方するんだね」

「……ん? ああ、そういえば口調が戻ってるな」


 自然となっていたな。


 プロデューサーと呼ばれた辺りから、俺の中でも何かスイッチが入ったのかもしれない。


「まあいいや。とりあえず、アメリア。君をこの世界でのアイドル一号にする。といっても、歌って踊るのは二の次だ。この世界ならではの特別なアイドルに育ててみせるよ」

「特別なアイドル?」

「戦うアイドルだよ」


 自分で宣言してからなんだか戦隊モノの女性戦士のポジションみたいだなと思ったが、モンスターもいるし、犯罪率も高そうな世界では戦いに役立つ技能を覚えるほうが先だ。むしろ、そちらをメインに鍛えるべきだ。


「戦うアイドル……わかった。わたし、なるよ。戦うアイドルに」

「楽しみにしてるぞ。それじゃあ改めて、よろしくな。アメリア」

「うん。こちらこそ、よろしくお願いします。プロデューサー!」


 エルフのアイドル候補生が俺の事務所に所属した瞬間だった。

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