4/表裏ノ試練 其ノ一






 胸の内を冷たいモノが通り抜ける感覚を覚える程、強い水気を感じる。

 周囲の木々や岩に侵食するように生える苔、水はその深緑を写し込んで緑色に見えるが、良く良くみれば自然界ではあり得ないほど透き通っているのが分かるだろう。

 何よりその泉が纏っている空気は、清涼さに加え、体の疲れを真から取るような優しさを持っていた。水の中の魚はどれも心地好さそうに泳ぎ、遠目でも分かる鹿の親子は、侵入者である此方を見向きもせず、警戒する事もなく連れ合っている。

 エレメンツ・フォレストの中心地にして、森を生み出した原点。

 世界に数少ない特大の霊孔にして、精霊達を束ねる精霊王のお膝元。



 美しの泉。



「世にも美しいと聞いてはいたが……こいつは、噂以上だな。勇壮さとは少し違うが、綺麗だ」


 トウヤは泉の中心に桟橋のように作られた地面を歩きながら呟く。

 サシャはその言葉に、言葉を返さずに同意した。

 アンクロに拾われてすぐの頃に連れてこられて以来だが、あいも変わらず美しい。雄大な山脈などと比べれば勇ましさや、人を圧倒する姿をしているわけでもない。

 だが、この場所は純粋だ。

 何にも犯されず、ただそこにあるという清廉さは来た人間を圧倒する。


「私はここで、第二の試練を賜ってくるわ。精霊王にご面会して、試練を受け、戻ってくる」

「帰りはどれくらいになりそうだ?」

「そこは、私にも分からない。精霊王が物質界に姿を現わす訳じゃなく、私が精神界に入るから、時間感覚が違う可能性が高いの」


 この世界は三つの界層から成り立っている。

 一つ目は物質界。今サシャやトウヤがいる、物質的な存在が住まう世界。

 二つ目は精神界。魔力物質の肉体を持つ精霊や、一部の妖精族だけが歩む事の出来る世界。人も時たま夢の中で 入る事が可能だ。その領域の主人たる精霊や妖精に区分けされ、独自の領域を形成する身近な異世界だ。

 三つ目は魂魄界。凡ゆる生命体が死に、器を捨て魂魄だけの存在になった時に向かう死後の世界。存在は確認されていないが、一説には魂を分解し、大我にして世界に放出する場所なのだと言う。

 サシャが今から向かうのは、精霊王自ら構成する精神界だ。その中では時間の流れも変わり、精霊王の意思一つで凡ゆる事が可能になる。


「つまり、オレはそこに行っている間にアンタの体を守るって訳だな」


 精神界に肉体は持っていけない。ある意味眠っている状態にし近いサシャの肉体は非常に無防備だ。その為に、眷属候補はその肉体を守護し続けなければいけない。


「そういう事ね……しっかり守りなさいね。じゃないと、《勇者》になるどころか、肉体を失って精神界に生きる、浮遊霊になってしまうから」

「そりゃあ怖い。精々気合いいれて守らせてもらうよ」


 トウヤはいつも通り軽い言葉で返事をするが、サシャはそれに苦笑するもののもう怒る事はしなかった。

 彼のそれはもはや癖のようなもので、他意はない。

 というより、軽い言葉で言ってはいるが、少なくとも大事な所で嘘を吐いたり、適当にする人間ではないのだと、この二日間の旅と、昨日の夜の会話で分かった。


 トウヤ・ツクヨミ。


 最初は傭兵という言葉に反応していたが、しかしそれも自分の中のトラウマと意固地さが原因。それを取っ払ってしまえば、それこそ彼は頼れる人物だと理解出来る。

 言葉が軽いというのも、ある意味フラットな気持ちでいてくれているという事。大事な所で踏み外さなければそれで良いとすら思える。

 相当の変化というか、まるで惚れっぽい町娘のように言っているが、別にサシャにとってそれは矛盾しない。

 基本的に性善説を支持しているサシャは、傭兵という引っ掛かりさえ解けてしまえば、それほどトウヤという存在を嫌いになれない。

 むしろ、人としてそれなりに好感が持てる人物だと理解する。

 それに……彼と話している時、サシャは普段難しい事を考え続けている頭を休め、素の状態で話す事が出来るのに、昨日の夜、寝る直前に思い至ったのだ。

 それが、あの惨劇を経験する前の自分と同じなのかどうかは、分からない。

 分からないが、少なくとも心を許せる相手が一人でもいるというのは、サシャの心に思った以上の力をくれた。

 ……もっとも、普通に名前を呼ぶ事に関してだけは、サシャも、そして恐らくトウヤ自身も機会を逃しているのだろうが。


「……なあ、アンタのその試練っていうのは、準備にどれくらいかかるんだ?」


「え? いえ、別にそれほど必要ないわ。

 ほら、あそこ見えるでしょう。泉の真ん中」


 サシャ達が歩いている桟橋のような道は途切れ、泉を形成している中心を指差す。

 この美しの泉は不思議な構造をしていて、中心に行けば行くほど水深が浅くなる。道の先から中心に歩いて行く事も出来るし、中心の深さは膝ほどしかないので、浮く事は出来るが立った状態では沈む事も難しい。

その中心に寝転がり、意識を静め集中すれば、精霊王が精神界に引っ張り込んでくれる。

 準備などない。

 強いて言えば服が濡れるので、着替える為の服を用意する程度。


「ようはあそこに浸かるだけで試練開始よ」

「……泉の端の深さは?」


 「大の男二人が肩車したって水面に上がれないような深さよ。それにそもそも、美しの泉は精霊王の守護の力と大量の大我を備えているから、森の動物も容易には近づかない。

ねぇ、さっきからその質問なんなの?」


「いやなに、大した事じゃない。




 団体客が来ただけさ」




 その言葉をまるで待ていたかのように、泉の周りが騒がしくなる。

 木々をなぎ倒し、踏み潰す音。

 森の動物達が警戒の叫びをあげ、鹿の親子は逃げ出し、魚達はどこかに逃げ去り、密かに木々に留まっていた鳥達は激しい羽ばたきで泉から離れて行く。

 何なのか、最初は分からなかった。しかし時間をかけず、それは姿を現した。

 最初に襲って来た餓狼達が二十数体、唸り声を上げて泉の岸に走り込んでくる。

 巨大な猿のような姿の魔獣――魔猿エイプが、目に見える限り十体、木の上で独特の吠え声を上げている。

 そして木々の奥には、昨日襲って来た擬似精霊の影が、これも見える限りでは五体。

 五十近くの敵が、美しの泉に集結していた。


「なっ――」


 なんで、という言葉は音になりきれずに消える。

 第一の試練は、道中だけのはずだ。つまり泉に到着してしまえば終了なはずなのに、何故ここに来て、そんな疑問が頭を過る。


「こりゃあアレだな……ようは、ここでアンタを守れるかどうか試そうって事だろう。

 ったく、あの趣味の悪い婆さんならではだよ、本当に」


 トウヤは冷や汗一つかかずに、剣を抜く。

 サシャは震えているのに、彼は震えている様子もない。


「とっとと行って試練を終えて来い。それまでアンタの体は俺が守ってやる。

 なに、嫁入り前の女の体を傷つけさせはしない。お前はちゃんと試練を乗り越えて帰って来い」


 振り返りながら、トウヤは笑顔で言ってくれた。

 それに、サシャは答えない。


「おいおいなんだよ、まだ疑ってんのか? 別に傭兵だからって逃げやしないって、」

「違っ、」

「勝てないって訳じゃない。これ以上の修羅場だってキッチリ納めて来たんだ、心配なんか、」

「そうじゃなくて、」

「じゃあなんだよ、チンタラしてると、アンタ《勇者》になる前に魔獣の餌、」


「装うのはいい加減にして!!」


 魔獣達の唸り声と、擬似精霊の岩が擦れ合う音。

 盆地の中で鳴り響いているそれを掻き消すほどの大きな声を上げて、サシャは叫ぶ。


「貴方、人の事言えないじゃない! 貴方の方こそ、嘘が下手くそじゃない!

 余裕ぶってカッコつけて――でも、目までは誤魔化せてないわよ」


 余裕の笑み、

 自然な体運び、

 手も体も震えず、

 口調は軽い、





 だがその目の奥で言っている。

 『死ぬかもしれない』と。





「正直に言って――勝率は?」


「……五分、いや、下手をすれば六対四でこっちが負ける可能性は、ある。

 だが、アンタが気に掛ける必要性はない。アンタは試練に集中しろ、これは俺の領分だ」


「ダメです。森の中での殺しはご法度のはず。それなのに、手加減の利かない魔獣や疑似精霊を持ってきて、しかもこれだけの量……棄権を、」


「いや、ダメに決まってんだろう。それじゃ、アンタの努力も何もかも無駄になるだろうが」


 《勇者》候補が試練を受ける機会はたった一度だけ。

 どんな理由であれ一度棄権すれば、当然の如く《勇者》になれず、隠遁者になるか、村の住人になるか、あるいは全てを捨てて一人で生きるか。

 それは、サシャにとって恐怖でしかない。

 生きた自分の義務が果たせない。それは自分の命を失う結果になっても、起こしてはいけない。

 しかしそれでも、その義務の為に人ひとりを危険に晒し、最悪死に追い込む可能性を、サシャは看過できない。

 なにより、


「ダメ、それじゃ、ダメ、全然良くない! 貴方が良くても私が許せない、私が私を許せない!

 ――私はもう、私の所為で誰かを死なせる事だけはしたくない!!」


 父は、母は、サシャを守る為に死んでいった。

 村の人々を犠牲にして、サシャは生き残った。

 そんな事を二度と起こさない。自分は犠牲にした人達の分まで生きて、善行を為さなければならないと。

 その最大級の答えが《勇者》になる事。

 それなのに、それを行う為に犠牲を増やす何て、本末転倒だ。

 認められない。

 そんな事をサシャは――、


「――ほれ見た事か。やっぱ、オレの事信用してねぇじゃん。

 やれやれ、本当に愛想の良い女だよ、アンタ」


 その言葉はいつも通りの皮肉なのに、声色はサシャを慮る気持ちに溢れていた。

 今までの軽かった言葉が嘘のように、その言葉には重みが増し、心地よくサシャの心の中に沈んでいく。


「言っただろう。傭兵の誓いってのは重いって。剣になるって。

 剣ってのは、主に襲い掛かってくる存在を斬り、主の前に立ちはだかる障害を払いのける。主の為と思えば切れ味は鈍らない、折れないし曲がらない。

 アンタが前を向き続ける限り剣であり続けてやる。




 いい加減信じろ。こちとら、最初から死ぬ気なんて毛頭ない」




 確かに、普段の言葉に重みはないだろう。

 しかしだからこそ、大事な場面での彼の言葉には重みがあり、それを信じたいと思えた。


「っ――『――《勇者》の名に於いて、我が剣に告げる』」


 自然と口から洩れたのは、《眷属》に大我という力を分け与える為の至鍵の祝詞キーワード

 不利な状況もひっくり返す、《勇者》が許される中でも最高峰の助力。

 《勇者》から《眷属》へ大我を渡すのには、限定条件が必要だ。条件付けをする事で、限定的に大我の膨大な力を操作する形を生み出すと同時に、それは強大な力を受け取った《眷属》が暴走しないような枷となる。

 命令や願望、様々な思いをこの祝詞に込める事によって初めて生まれる〝繋がり〟。

 サシャが、


「『私が戻るまで私を守り――死ぬな』」


 絶対に戻って来るから、それまで絶対に死なないでという希望だった。


「――ハハッ、最高だよ、アンタ」


 まるで湯を注ぎ込まれるように、トウヤの体が内側から火照る。力が漲り、どんな事でも出来るような万能感が宿る。呼応するように、右手の紋様が光り輝く。

 だがそれ以上に、サシャに預けられたその希望は、トウヤが何よりも欲したものだった。





「――気張りなさい、トウヤ」

「ああ、――サシャもな」





 そこで初めてお互いの名前を呼び合ってから、サシャは泉の中心に走り出す。

 水に濡れる事も、背後でトウヤが剣の刃を起動させた事も今は考えない。中心に辿り着き、寝転がり、眠るように目を閉じる。


(お願いです、精霊王、本来アナタとの面会は、心清らかにしなければならない事は分かっています)


 逸る心を静めながら、それでもその心の中で焦る声が木霊する。


(無作法で、我儘です、礼儀知らずなのも分かっています。

でもお願いです、私は急がなければいけないんです)


 外で戦っている、自分の剣になってくれると言った青年に報いる為に。

 歪んでいると自覚している自分の気持ちを、否定しなかった青年の優しさに報いる為に。

 これからきっと一緒に歩いていく《眷属》になる青年を死なせない為に。




(私に、試練を下さい! 精霊王!!)





『――ええ、では始めましょう。

 第二十三代勇者・アンクロの要請に従い、貴女の試練を始めましょう』


 その声は、昔どこかで聞いた覚えがあるような気がした。









「――なんだ、お前ら良い子ちゃんかよ」


 主人であるサシャが泉の中心に向かった後、にじり寄ってきた魔獣はまるで「まて」された飼い犬のように、その場でうろうろしているだけでまだ襲ってこない。

 多分、まだサシャが精神界に入っていないからだろう。

 目の前の魔獣・疑似精霊はサシャが精神界に入ってから、オレがその身体を守り切れるか試すための存在。いったい誰が操っているのかは知らないが、少なくとも乱暴に殺そうとする事だけは避けるのだろう。

 水の中は突破出来ないというのは本当だろうが、頭の良い賢獣ならいざ知らず、ただ人を傷つける事しか考えられない魔獣がその中に突っ込んでいかないのは妙だ。

 最初からこの泉の水が危険だと知っているような動き。

 恐らく、オレが今いる細く伸びた陸から攻めてくるだろう。

 ――まぁ、好都合だけどさ。ご都合主義という言葉が頭の中に浮かび上がるが、そりゃあご都合主義にもなろうというものだ。

 何せ、これは試練。あくまで試験の一環。

 突破口がない試験なんて悪辣だろう?


「そんで――オレはそれを待っているつもりはない!!」


 片手で《飛鱗》を投げ放つ。

 距離はそれなりに空いているから、弱い部分に当たれば御の字。ダメージにならなくても、相手がこっちに怒りを向けてくれれば、サシャに攻撃が行く事もないだろう。

 そう思って投げたソレは、


「■■■!?」


 まるで弾丸のような速度で飛び、餓狼の内一頭の頭を〝貫通〟した。


「…………ハァ!?」


 驚いて思わず間抜けな声が出る。

 それほど力は入れていなかった筈だ。いや、そもそも力を入れたって弾丸のようになんて誇張が過ぎるし、貫通なんて以ての外。オレはゴリラじゃないんだから。

 そこで、漸くオレは《眷属》の優位性に気づく。

 この世界の生き物の体には、多少の差はあっても大我が含まれている。

 大我は自然の力そのものだ。体により多く大我を含んでいる種族は小我が多かったり力が強かったりもするし、大我を多く取り込み過ぎれば普通の獣だって魔獣に変化する。

 オレの体に通された大量の大我は、オレの体に、多分魔術で言う所の《身体強化フィジカルブースト》を掛けてる状態に等しいんじゃないだろうか。

 つまり、





 今の俺は、伝承で伝えられている《眷属》本来の姿になったという事だ。





 「ハハッ、こりゃあ、ちょっとした不利でも払い除けられるな」


 《竜尾》を抜いて振り払えば、旋風が起こるように地面の土を巻き上げる。

 クレイモアの作りをしているし比較的軽い部類の武器だが、片手で普通と文字通り片手落ちだった威力が、両手の時以上に強くなっているのを感じる。

 《顎》を抜いて振るい上げれば、まるで空間そのものを引き裂くような鋭さを感じる。

 片手で扱う事を前提としていても、魔力物質の刃であっても斬れないものは存在する。だが今の状態であれば、どんなものも両断出来る気さえする。


「さぁ、掛かってこいよ魔獣共に擬似精霊共。

 主人が帰ってくるまでここは誰も通さない」


 その言葉を合図とでもするように、最初に動いたのは頭を撃ち抜かれた魔獣と同種の狼型だった。

餓狼の厄介な所は、狡猾だという所だろう。

 一匹で掛かってくる事は絶対にあり得ず、五匹同時に襲い掛かってくる。一匹一匹なら簡単にあしらえても、五体同時にご対面するのは狩猟者でもリスクは無視出来ない。

 まるで一個の生命体のように、絶妙な連携でオレに襲い掛かってくる。

 素早い速度で回り込んだのが三体、正面から飛びかかって来たのが二体。

 挟み撃ちだが、横に避けた時の対策にいつでも後ろに回り込んだ二体が反応出来るような位置どりをしている。見えなくても分かる。

 それを、


「オラァ!!」


 独楽のように回転し《竜尾》を振るう。

 全力で振るわれたそれは、五匹の魔獣をまとめて両断した。

 叫び声も上げられない程、唐突に訪れた死。

 血を撒き散らし、泉の水を汚すが、その汚れすら綺麗に浄化されていくのが見える。


「■■■■!!」

「っ!?」


 文字通り隙間のような隙をすり抜け、鋭い猿叫と共に脇腹に強烈な衝撃を感じる。

 餓狼は囮、本命は魔猿の強烈な拳だった。

 いくら体の強化されていても、肉の薄い脇腹にその強い打撃は防ぎきれず、体の内側から生木がへし折れるような嫌な音が聞こえる。


「〜〜〜〜〜〜っ! っ!!」


 痛みを無理やり噛み締めながら《顎》を魔猿の腕に振るう。

 まるで水飴でも切れるような手応えのなさで、あっという間に魔猿の腕を斬り落とした。


「■■■■■■!?」


 何故。

 爪も牙も、身を守る毛皮すら持っていない生き物のからの想定外な攻撃に動揺の叫びを上げるが、すぐにそれも《顎》で両断される。


「プッ、肋が、」


 口から溢れる血痰を吐き出してから腹に触れようとして気がつく。

 傭兵稼業に携わっていれば、当然傷なんて珍しくなく、肋だけではなく様々な箇所の骨折を経験している。折れた骨が内臓に刺さる事だってあり得る。

 だから、その痛みがその時の経験よりも痛みが少ない事が直ぐに分かった。

 どころか、今この時もどんどん痛みが引いている事が理解出来る。

 身体強化と同じ、膨大な大我を用いて行われる《自動治癒オートヒーリング


 ――『《眷属》とは一騎当千。技がある人間が眷属になれば、軍隊すら相手にする事も難しくはない』。


 どこかの本に書いていた、当時は胡散臭い話だと鼻で笑ったが、今は分かる。

 身体強化と自動治癒だけでも、十分。

 丸一日戦い続けても問題ない程の力だ。

 そりゃあ、世権会議が《眷属》の数を制限し、《勇者》に軍隊を持つのを禁止した理由が分かる。こんなのが何人もいれば、そりゃあ国とも真性竜とだって喧嘩出来る。


「……悪いな、こっちだけチートコード使っちまってよ」


 魔獣達が唸る、吠える。しかし声ばかりで、その足は一向に動こうとはしていない。

 魔獣といえど動物だ。

 自分より強い存在に挑みかかりたいとは思わない。


「でも、悪いな。こっちは勝てば十分な傭兵様なんだよ。

 邪魔する要因は排除する以外に選択肢はない」


 魔力物質で編まれた刃だからなのか、血糊が付いていない剣を、魔獣達への威嚇序でに振るう。

 ――オレだって殺したくはない。

 戦わなくて良いならそれでも良い。





 でも、目的の為なら、手段は選ばない。









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