始まりの世界

 青い世界を見上げながら、暗い世界へ落ちていた

 耳に伝わる音は鈍く、体を包むそれは重く

 待っているのは、冷たく苦しい世界のはずなのに、なぜか暖かく、懐かしく感じた

 僕の頭には無い記憶なのに、僕の身体は覚えている


 ここは、全てが始まった場所

 多くの命がここからできて、世界へ広がっていった

 命はやがて連鎖し、世界を留める鎖となった

 世界は、命があるから存在すると、誰かが言っていた

 世界は、それを見るものが居るから存在すると、誰かが言っていた

 だから命は、世界を繋ぎ止める鎖なのだと


 命は、自らを生んだ母なるこの場所を愛している

 同時に、全てを奪っていくこの場所を恐れている


 始まりの場所であり、終わりをもたらす場所

 そして、僕が終わる場所

 僕はここで、泡となり、世界に溶けていく

 今まで得たものも、失ったものも、思い出も、苦しみも、全てを忘れて、原初へと還る

 

 ふと、歌が聞こえた

 女性の声で 綺麗な声で

 目の前に影が落ちる

 ああ、これが僕を迎えに来た死神なのだろう

 死神は、ゆっくりと手を伸ばし、僕のほほへ触れた

 その手の暖かさを感じながら、僕は眠りについた


 目覚めると、どこかの浜辺だった

 そばには、一人の女性がいた

 美しき髪、吸い込まれるような瞳

 でも、その体は、人魚のそれだった

 

 ああ、やはり海は始まりの場所だった

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