竜の宝物

 深い森の中、コケとツタに覆われた遺跡がある。

 中には古代人たちの遺産と言う名の、お宝があると噂され、数多くの冒険者たちが挑戦したが、それを手に入れて帰ってきた者はいない。

 そして今日も、一人の冒険者がやってきた。

「ここが古代人の遺跡……」

 見た目は10代の少女、だが明らかに人には無いものを持っていた。

 銀色の髪が流れる頭からは、二つの獣の耳が生え、腰からはフサフサの尻尾が揺れている。

 彼女は人狼、ライカンスロープなどと呼ばれる種族の少女だ。

 冒険者には、この手の獣人は多い。なによりその身体能力を活かすことが出来るからだ。

「よし、行くか」

 装備を確認し、いざ中へ入る。

 何人もの冒険者が挑戦しているので、実はかなり情報が出回っている。

 仕掛けられている罠も、彼女の人ならざる身体能力からは危険にもならないものばかりで、難なく奥へ奥へと進んで行く。

「たいした事無いな……なぜ誰も宝物を取って来れないんだ?」

 彼女よりも身体能力に優れた獣人の冒険者は山ほどいる。だが実際何かを持って帰って来た者の報告は一切ない。

 何かここまでの罠とは比べ物にならない仕掛けがあるのではと、彼女は警戒する。

 しばらく進むと、謎の広い空間に出る。

 今まで進んで来た道は狭くて暗い通路だったが、ここだけは天井から太陽の光が差し込み、一際明るい。

 だが、彼女に取ってはそんなのは些細なことだった。なにせ重大なものが先に目についてしまったからだ。

「ああ……そう言う事か……」

 広間の中心、猫の様に丸くなって眠る、翼の生えた巨大な爬虫類。いわゆる伝承や言い伝えなどに聞く龍、ドラゴンそのものだった。

「うーん、起こさず行けるか?」

 龍の後ろに大きな扉が見える。おそらくあの置くがお宝の眠る部屋と見て間違いは無いだろう。

 そろり、そろりと、その鱗まみれの巨躯の横を抜ける。

 が、宝物を狙う賊の気配に気づいたのか、唐突にその身を起こす。

「やっばっ!」

 逃げるか進むか。

 その一瞬の判断の間に、龍は少女を捉える。

『ほぅ……混じりものの獣か、しかも雌が来るのは珍しいな』

 体の中に響く様な声で、龍は言う。

『この奥の物を取りに来たのだろう? 娘よ』

「……そうだ、と言ったら?」

 下手な嘘や命乞いも無意味と判断し、そう答える。

『はっはっは、本来の我の役目を考えれば、ここは汝を貪り食らうか焼き払うところだろうな』

「……出来ればそう言うのは勘弁してほしいな」

『然り、我も娘を殺す趣味は無い。ここは一つ、その綺麗な銀の髪で許してやろう』

 龍は大きな指の先に伸びる鋭い爪で、彼女の髪を指差す。

「龍が女性の髪を欲しがるのは本当だったんだな」

 彼女にとってこの髪はお気に入りではあったのだが、命には代えられない。それに髪はまた伸ばせばいい。

 持っていたナイフで、髪を束ね切り取り、龍に差し出す。

『いさぎよいな。気にいった、汝にはこの奥の物について教えてやろう』

「へぇ?」

 噂は広まれど、それが何かは誰も知らなかった。それだけでも、彼女には十分な収穫になる。

『この奥には、本がある。それも人間の女の裸体ばかりが描かれた薄い本ばかりだ』

「…………は?」

『我に守らせるものがただの本と言うのは呆れるが、頼まれたのであれば仕方あるまいしな。うむ』

 そう言いつつも、龍はまんざらでもないと言った様子であった。

「……くっだらねぇ」

 彼女はつくづく、髪を差し出した事を後悔した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る