ドラゴンとゴブリン

ある森に、一匹のドラゴンが住んでいました。

 ドラゴンはその森で静かに暮らしていましたが、森には他にも、ゴブリン達がいました。

 ゴブリン達は毎日大騒ぎをし、ドラゴンの眠りを妨げました。

 いい加減頭に来たドラゴンは、ゴブリン達に勝負を持ちかけました。

「どちらが速く飛ぶ事が出来るか、勝負をしよう。お前たちが負ければ、この森から出て行ってもらう」

 飛べないはずのゴブリン達は、二つ返事で受けました。

 しかし変な所で頭の働くゴブリン達。

 勝負当日、ある崖の上に集まったドラゴンとゴブリン達。

 ゴブリン達は、木で造った造形物を持ってきていましたが、ドラゴンはそれを気にせず、開始の合図と共に崖から飛び立ちます。

 風を切り裂くような速さで飛ぶドラゴン。負ける筈がないと確信していました。

「ぎょぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁっぁっぁぁぁぁぁ!」

 しかし背後から、断末魔のような叫び声が迫ってきます。

 ドラゴンは、何かと思い振り返ると、一匹のゴブリンが生身で飛んで、いや吹っ飛んできていました。

 ゴブリンはドラゴンを追い越し、かと思いきやそのまま眼下の森に落ちて行きました。

 しばらくドラゴンは唖然としていましたが、やがて我を戻し崖へ戻ります。

「い、今のは何事だ!?」

 驚き問うドラゴンに、一匹のゴブリンは答えます。

「この木の造り物は、石を遠くへ飛ばす為の物。これを持って我らを飛ばせば、あなたより速く飛ぶことも叶いましょう」

 勝つ自信しか無かったドラゴンは、負けたと言う事実に憤慨しました。

「な、ならば我より高く飛んでみせよ!」

 そう言ってドラゴンは空高く飛びあがります。

「流石に上には飛べぬだろう」

 そう思っていたドラゴンですが、再び下から断末魔が……。

「にょわぁぁぁぁぁぁぁっぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁっぁぁ!」

 今度は背に樽のようなものを背負ったゴブリンが一匹、ものすごい速度で垂直に飛んできます。

 樽からは、白い煙が出ていました。

 そのままゴブリンは空の彼方まで飛んで行きました。

「ななな、なんなのだ今のは!?」

 崖へと戻って来たドラゴンは、再びゴブリン達を問い詰めます。

「ろけっとと言うものです。これは空高く物を飛ばす為のものです」

「……ま、まだだ、まだ負けてはおらぬ!」

 ドラゴンは再び別の勝負を挑みますが、また謎のアイテムを使われ負けてしまいます。

 その後も何度も挑みますが、ゴブリン達が使う謎のアイテム達には勝てませんでした。

 しかし、勝負を行う度に、ゴブリン達の数が減って行きます。

 そしていつの間にか、ゴブリンは最後の一匹になっていました。

「もう、諦めてはいかがですか?」

 残ったゴブリンは言います。

 ドラゴンは、そのゴブリンを見下ろします。

「ああ、そうだな、これで終わりにしよう」

 ドラゴンはもう勝負をするのを止めました。その代わり、手っ取り早い方法を取る事にしました。

「そう言えば、もう日暮れだな。夕日が綺麗だ」

 唐突に、ドラゴンはそう言います。

「そうですね」

 ゴブリンは、崖の上からは一際良く見える夕日の方を向きました。

 その瞬間、ドラゴンは自慢の長く強靭な尻尾で、最後のゴブリンを夕日の方へふっ飛ばしました。


 ゴブリンが居なった森。

 ドラゴンは、その森で静かに暮らしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る