饅頭こわい

夏休みのある日、仲の良い大学生五人が集まっていた。

「悪い、遅れた」

「おう佐藤、遅かったじゃねぇか。なんかあったか?」

「いやそれがさ、チャリこいでたらセミが顔面にシュートしてきてよ、ビビって避けようとしたら植え木に突っ込んじまった」

「絵に描いたようなダサさだな。セミくらいでビビってどうすんだよ男だろ」

「いいや村田、そう言ってやるな、虫はキモい」

「お前もかよ中島、情けねぇな」

「そう言う村田は何が怖いんだよ?」

「俺か? 俺は……幽霊、とか?」

「お前も大概だな」

「うるせぇ! 普通に怖いだろ幽霊はよ! 高校の時に心霊スポットに連れてかれて死ぬ思いをした俺の気持がお前らに分かるか!」

「お、おぅ……」

「なんか、悪かったな……」

「でもそうだな、誰にでも怖いものはあるよな、馬鹿にするもんじゃないよな。うんうん」

「虫以外には怖いもんとかあるのか?」

「クモ」

「佐藤、それも一応虫だ。昆虫ではないらしいが一応虫だ」

「俺は犬だな、小さい頃に噛まれた」

「あー、犬好きとしては何とも悲しいが、そう言われてしまうとなぁ……」

「ああ、悪いが今みたいに村田の家に集まってるうちは、犬は買わないでくれ」

「中島一人の為にするのはなんか嫌だが仕方ねぇな。木村、お前はなんかあるか?」

「彼女」

「え」

「彼女」

「いや聞こえてたから、あまりの言葉に理解が遅れただけだから」

「ん? 木村、彼女と仲良いと聞いていたが?」

「仲悪いそぶりなんて見せらんねぇよ。俺はあいつほど怖い女を知らない」

「なんだ? なんかされたのか?」

「ああ、クラスメイトの女子と話した事を言ってきたり、他の女を見てた事を責めてきたりする内はまだ可愛かったんだけどよ、最近エスカレートしてきてよ……この前なんか包丁取り出してきて、危うく無理心中される所だった……ヤンデレって本当に居るんだな」

「そ、そうか……」

「強く、生きろよ……」

「ところで加藤、ずっと黙ってるけどお前は怖いのなんだ?」

「えっ? いや……その……」

「ん? どうした?」

「その……笑わない?」

「? なんだか分からねぇが、怖いもんがある事は恥ずかしい事じゃねぇ。笑ったりしねぇよ」

「……カード」

「カード? トランプとかのか?」

「いや、トレーディングカードゲーム」

「ああ、それって佐藤がやってるやつ?」

「うん」

「え、なに、つまりそれをやってる俺も嫌いってこと?」

「い、いや、そう言うわけじゃないよ!」

「なんだ、小さい頃にカードゲームがらみでいじめられたとかか?」

「いや、何と言うか、カード自体が怖いって言うか、絵と文字がびっしりかかれてて気味が悪いというか、とにかくダメなんだ……思い出すだけでも嫌になってくるよ……」

「なんか本当に具合わるそうだな、ちょっと横になるか?」

「うん、ベッド借りて良い?」

「ああ、構わないぞ」

「ありがとう」

「ああそうだ、コンビニ行って飲み物買って来てやるよ」

「俺コーラ」

「コーヒー」

「アイス」

「欲しいならお前らも来い、そして自分で買え」

「うぃー」

「仕方ない」

「やれやれ」

「お前らなぁ……んじゃ加藤、ちょっと俺ら出るけど大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

「よし、じゃあ行ってくる」


「にしてもカード怖いとか不思議なやつだな」

「なんか俺の人格否定された気がする」

「お前にとってカードゲームはそんなに重要なものなのか……」

「本当に怖いのか、どれだけ怖いのか少し気になるな」

「確かに、見てみたい気もする。よし、ちょっと買って行ってみようか!」

「……なあ」

「ん? どうした中島」

「ちょっと思ったんだが―――」


「加藤、戻ったぞー」

「ああ、お帰り」

「そして、くらえカードアターック!」

「え? うわぁ!? な、なにすんだよ! て、あれ……? な、なにその顔」

「いや……中島の言った通りだなって」

「驚いたふりしてちょっとにやけてたな」

「嬉しそうだったな」

「これがリアル饅頭こわいか」

「え、いやその……あの……」

「いや、いいんだよ、大した出費じゃないし」

「仲間が居たのは嬉しいぞ!」

「俺はそもそも払ってないしな」

「饅頭こわいが現実で見れて面白かった」

「……ご、ごめんなさいっ!」

 みんなの温かい目に囲まれ、加藤はいたたまれなくなった。

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