猫神様の墓

 むかしむかし、猫と人間は長く争っていました。

 最初は漁業権の奪い合いによる小競り合いでしたが、いつのころかそれは血で血を洗う大規模な海戦になりました。

 あまりにも悲惨で残虐な戦争は、いつしか海の生き物たちにも影響を及ぼしました。

 このままでは、どちらかが戦争に勝利しても、新鮮で美味しいお魚はとれなくなってしまうと思った猫の若者は、人間と和平交渉をするようにと、猫の王様に言いました。

 もちろん王様は耳をかさず、若者は猫の国から追われる身になりました。

 猫の国から逃げ、人間の国に入りこんだ若者は、そこで一人の人間の少女と出会います。

 猫の国からの追っ手により怪我をしていた若者は、その少女にかくまわれ、看病をしてもらいました。

 若者は、少女に海の生き物たちの話と、和平交渉の話を持ち出し、追われている理由を話します。

 それを聞いた少女は、自分の父親にその話をしました。

 なんと少女は、人間のお姫様で、その父親は人間の王様だったのです。

 人間の王様は、すぐに猫の王様に、海の生き物の話をし、和平交渉を持ちかけました。

 それから七日の時を経て、和平交渉は成立されました。

 その朗報を急いで猫の若者に教えようとした少女ですが、彼は客室のベッドの上で、もう二度と目覚める事の無い眠りについていました。

 若者は、追っ手達に毒を盛られていたのです。

 猫の若者は、戦争を終わらせた英雄として、海の真ん中にある猫の形をしたお山がある島に埋められ、お墓が建ちました。

 いつまでも、若者が海の平安を見守れるようにと。

 そしていつしかそこは、猫の神様が眠る島と言われるようになりました。


 ですが、そんな猫神様のお墓に、奇妙な訪問者の噂がありました。

 毎年、夏の最初の日の夜、そこに黒い服、黒いシルクハットをした猫がやってくると。

 そしてその猫が帰った後、お墓にはツナ缶が必ず置かれているのです。

 お墓が建ってからもう三百年は経ちましたが、未だにその猫は目撃されます。

 多くの人と猫がその猫の正体を突きとめようと、島に張り込んだりもしました。

しかし姿は確認できても、近づこうとすれば突然強い風が吹いたりと、誰もその顔を見る事が出来ず、謎のままでした。

いつしか、その猫はその若者の友人の亡霊や、その若者自身の亡霊など、さまざまな説がささやかれるようになりました。


そこまで聞いた人間の若者は、話をしていた猫のおじさんに言いました。

「ふーん、あんたはどう思うんだ?」

「私? 私はそうだねぇ……実はその猫が死んでいなくて、別の猫として長生きして、そのお墓に通っている、とかはどうだ?」

 すると若者は笑いだす。

「それはさすがにねぇよ! 例えその時死んでなかったとしても、猫も人間も三百年も生きられねえって!」

 だがそんな若者に、おじさんは気を害したようすも無く、淡々と言う。

「どうだろうね? 君はこんな話を知っているか? 人間の王様は、不死の薬を持っている。だがそれは王様のためではなく、お姫様が、愛する人と永遠に暮らす為に、人間の神様が与えてくれたものだと」

「ん? それがなんだ?」

「もし、その少女が、その猫の若者にその薬を飲ませていたら、あり得るかもね」

「そんな話信じられるかよ」

「ふふっ、まあ、信じなくてもかまわないさ」

 すると、遠くから女性の声が聞こえてくる。

「ああ、すまない連れが呼んでる。では、失礼するよ」

 猫のおじさんは、黒いシルクハットをかぶり、黒いコートをひるがえして、彼を呼んでいた人間の女性の元へと去っていった。

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