魔王がマルチ商法にハマったんだよ、なんとかしろよ
ちびまるフォイ
紹介すればあなたも魔ネーがもらえるよ!
魔王がマルチ商法にハマった噂はすでに魔王城内で知られていた。
「ガーゴイルは、今の自分をどう思う?」
「どうって……別に満足していますよ」
「魔王的には思うんだよね。
ガーゴイルは普段は石像として頑張ってるじゃん。
だからもっと幸せになってもいいはずだって」
「はぁ……」
「でね、魔王の家臣であるガーゴイルだけに教えるんだけど
この『チューチュー会』の会員にならない?
会員になったら、家臣や友達を紹介するだけで利益がもらえるんだ」
「魔王様、それってマルチ商法なんじゃ……」
「魔王もね! 魔王もね! 最初は思ってたの!
それ犯罪なんじゃないかって。魔王的にも犯罪に加担するのは嫌じゃん。
でも、コレよく見て。ココ」
「キレイで……おいしい……水?」
「そう! このチューチュー会では水を紹介しているの!
あ、別に買わなくてもいいよ。そういうのじゃないから。
魔王はこの水をいろんな人に紹介したいから会員を集めているの!」
「いや、俺は……」
「わかる! 怪しいよね! でも大丈夫!
この水って飲めば冒険者を遠ざけるっていう効果がどっかの学術都市で認可されて
効果が保証されているし、このチューチュー会も大きな組織だから心配ないよ!」
「あのーー……」
「とりあえず、入ってみようか! だって損しないんだよ!?
水も買わなくていいし、会員になるだけで、魔ネーがたまるんだよ!
ガーゴイルも魔王と一緒に幸せになろうよ!」
断れば魔王城の居場所がなくなってしまうのではと恐れたガーゴイルは
なし崩し的に、というか半ば強引に入会へと進められた。
ガーゴイルはこのことをほかの魔物たちにも話した。
「正直迷惑だよ……。魔王様じゃなかったら断ってるし」
「何とか魔王様の目を覚まさせるしかないな」
魔物たちは力を合わせて、魔王が肩まで使っているマルチ商法の危険性をフリップで説明した。
魔王もチューチュー会にかかわることだと言われれば無視できない。
「……というわけで、魔王様、マルチ商法はファンタジー違法なんです」
「うん、よくわかったよ。でもチューチュー会はセーフだよね」
「は?」
「違法なのは、魔王みたいな人だけが儲かって、
家臣のみんなが損をするようなシステムの場合だよね?
チューチュー会はみんなが同額で幸せになれるから問題ないよ!」
「あの……」
「それに、魔王が集めた紹介料は魔王のもの。
家臣が集めた紹介料は家臣のもの。魔王は1魔ネーも入らない。
この形式なら大丈夫だよね!」
「いや……」
「家臣のみんなありがとう! これでもっと安心して入会してもらえるよ!」
魔王はふたたび草むらに出かけてスカウトというなの布教活動を開始した。
魔物たちは徹夜で実施されたお通夜のような空気だった。
「ダメだ……魔王様、全然わかってないよ……」
「表面上だけ取り繕っても、中身の構造が一緒だからヨユーで違法なのに」
「俺たち、魔王様もろともファンタジー裁判かけられちゃうのかな!?」
「うわぁぁん! 勇者でもなんでもいいから、魔王様をぶっ倒してくれ!
そうすれば、しょうもない魔ネー儲けから目を覚ますのに!」
魔物たちの期待はまだ見ぬ勇者へと一心に注がれた。
けれど、勇者は一向にやってこない。
魔王はストッパーがいないことをいいことに、ますます布教活動を続けていた。
「魔王の配下になれば、ずっと幸せになれるよ!!」
・
・
・
それからしばらくたったころ。
「おおーーい、ケルベロスーー。どこにいるんだーー」
魔王は城をうろうろとさまよっていた。
側近であるコウモリが見かねて声をかけた。
「魔王様、いったいどうされたんですか?」
「たまにはスカウトせずに魔王城で過ごそうかと思ったんだが
ケルベロスがいなくて散歩もできないのだ」
「ケルベロスなら昨日家臣を辞めましたよ」
「えっ!?」
ケルベロスの犬小屋には骨に「痔表」と書かれていた。
「おしりの病気か何かで?」
「いえ、単にここにいるのが嫌になったそうです」
「おい、ガイコツ剣士! どうしてケルベロスがいなくなったこと
魔王に教えてくれなかったんだ!」
「魔王様、ガイコツ剣士は先月辞めています」
「うそ!? それじゃ門番のドラゴンは?」
「辞めてます」
「入り口のガーゴイルたちは!?」
「辞めてます」
「なんで?! なんでみんな辞めるんだよ!」
「お分かりにならないんですか?」
コウモリはあきれていたが、魔王はまだ理解が追い付いていなかった。
「魔王様、家臣のことをなんだと思っていますか。
スカウトするのはどうしてですか?
魔ネーのために家臣が必要なんですか?」
「そんなつもりじゃ……」
「魔王様はそう思っても、家臣たちはそう思いませんよ。
まるで、儲けるための駒のように扱われたんじゃ
家臣たちも命をかけて勇者と戦うわけないでしょう」
「そんな風に思われていたなんて……」
「魔王様、これがマルチ商法ですよ。
しょーもない儲け話に目がくらんでいるから、見限られる。
魔王様は大切な信頼を失ってることにすら気づいていなかった」
「すまなかった……魔王はちょっとどうかしていたみたいだ……。
この魔王城に来てくれた家臣たちも、魔王のために来ていたのに……」
「わかってもらえましたか」
「ああ、もう二度とこんなことはしない」
魔王はマントをひるがえらせると、かつて魔物たちが憧れたカリスマの面影を取り戻した。
「フハハハハ!! 我こそはこの世界の魔王!!
おごり高ぶった人間と、我をだましたチューチュー会を壊滅させてやるぞ!!」
威厳を取り戻した魔王のもとへ、ついに勇者がやってきた。
「来たか、おろかなる人間よ!!
死にゆくものへの慈悲で言い残す言葉を述べるがよい!!」
勇者は答えた。
「あの、ここにいい儲け話があるって聞いてきたんですが……」
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