第20話 撒餌

 芝水先輩と氷上のちょっとした出来事から既に一ヶ月以上が経過していた。それまでの間、僕たちに変化はなかった。

 いつもどおりになった敵の出現予測から、出現地に赴き排除する日々だ。幸いにもあれからレスク神父の出現はなく平穏な日々だった。だから僕たちは徐々に戦いのなかでちょっとした心の余裕が生まれていた。

 そんなある日、いつものように訓練を終えて娯楽室で休憩をしているときだった。

「艦内のクルーに告げます。パイロットおよび整備班長はただちに作戦室へ集合せよ。繰り返す――」

 僕たちは疑問に思いながらもただち指定された場所へと向かった。



「皆さん、突然召集のなか迅速に来ていただきありがとうございます。さて、こちらの映像を見ていただきます」

『ごきげんよう、銀河連合の諸君。私はオーバード教、教祖のレスク神父である。今日はキミたちに洗礼を機会を与えるため連絡を行った。

 これから48時間後のこの地点に大量のUEが沸くことを教えよう。大規模な戦いになるだろう。くれぐれも注意して戦ってくれたまえ。諸君たちの健闘を祈る』

 映像が途切れて、変わりに先ほど映像のなかで告げられた座標が映っていた。

「現在、この地点にUEの出現兆候が確認されています。映像で言われていたように大規模戦闘が発生が予測されます」

 艦長の発言とともに該当エリア周辺のデータがモニターに表示される。

「おそらくオーバード教の罠でしょう。彼らがどうしてUEを出現させられるか、あるいは利用できるのかわかりませんが、だからといって行かない理由にはなりません。

 無視すれば必ず戦えない人々に被害が発生し、軍の批判や不信が発生します。また離れた地点での待機も規模関係上で現実的ではありません。

 そしてなによりも、皆さんは戦えない全ての人々の代わりに戦っているはずです」

 艦長は周りの反応を確認して、氷上と芝水先輩のほうに視線を一瞬だけ向けた。

「これより軍はこのUEの進行を食い止めるために出現地点に向かいます。この艦も迎撃に向かいます。間違いなく激戦になるでしょう。

 この部隊からも何人か戦死してもおかしくないでしょう。既に書いているでしょうが遺書の用意と、作戦日までに後悔のないない日々を過ごしてください」

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