第8話 エピローグ

 次の日の、おやつの時間。


「ここにいさせて!」


 コーヒーゼリーが蘇った。寸分違わぬ小学生くらいの男の姿で。元気いっぱいだ。


「泣くくらい、おいしくなかったんだよね」


 驚きながらも事情を聞けば、男の子は私が作り置きしておいたコーヒーゼリーにまた宿ったらしい。

 理由は、私が前の彼を食べたときに泣いていたからだという。

 泣いてないのに、断じて。


「僕! 絶対おいしいコーヒーゼリーになるから!」


 そんな決意表明をして、男の子はうるうると瞳を潤ませた。

 

「……」


 なんて荒唐無稽なファンタジーなのだろう。思わず笑ってしまう。

 だいたい、おいしくなるって、どうやって? 具体的な案をおそらく男の子は考えついてない。それに君は私が作ったコーヒーゼリーで、私が一番おいしいと思っているコーヒーゼリーだ。

 だから、これ以上美味しくなることはない。美味しくならなくていい。

 そばに、いるだけでいい。

 

「……いいよ」

「ありがとう!」


 ぎゅうっと抱きしめられた冷たさは、初めての時よりずっと心地よかった

 

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恋するコーヒーゼリー もおち @Sakaki_Akira

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