第7話 コーヒーゼリーが食べられた

 玄関の扉を開け、家の中へ入った瞬間、男の子がその場に倒れた。


「待ってて。今、エアコンつけてリビング涼しくするから。あとアイス食べて」


 ホットミルクの熱で、男の子は溶けそうだった。触れていた手が、柔く、ぐねぐねとしていた。

 男の子にアイスを渡そうと、ショルダーバックを肩から下ろす。

 男の子がゆるゆると首を横に振った。


「言えたから、満足だよ」


 最後にね、と弱々しく続ける。それなのに、笑った顔をしているのはなぜなのか。


「おいしく食べてね、僕のこと」


 辛いじゃないか。



「……」



 冷やしすぎたくらい、冷房の効いた部屋に、呼吸しているのは私だけ。

 テーブルの上に、ミルクのかかりすぎた半壊したコーヒーゼリーが一つある。


 一匙掬い、口に含む。


「……」


 お世辞にも、美味しいとは言えない。舌触りも悪く、甘さが苦さを上回っている。


「……」


 けれど、私は食続けたべた。一匙ずつ、丁寧に。

 満腹中枢の満足感は満たされない。美味しくない。美味しくない。

 

 それでも――


「言えて、よかったね……」


 なぜかぽっかりと空いてしまった、心の隙間を埋めるように私は食べるのを止めなかった。

 最後の、一掬いまで。

 途中、塩辛さを感じたのは、気のせいだ。

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