第2話 コーヒーゼリーが伝える
家の中に入った男の子は、冷房の効いた部屋で涼んでいた。
「すずしー。かいてきー」
ソファーで四肢を伸ばしながら、至極、気持ちよさそうな顔をしていた。
その顔に、私は問いかける。
「その……君は、コーヒーゼリーで合ってる?」
すると、男の子ははっとした顔をして、私から距離をとった。
「た、食べないで!」
怯え切った顔をされ、私の食欲がどんどん落ちていく。
私はコーヒーゼリーに関してはやや偏食であることは自負している。だが、たとえ元がコーヒーゼリーだったとしても、人間を食べる嗜好はないはずだ。カニバリズムは専門外だ。
現時点で、だが。
「食べないよ……」
「……本当に?」
私が静かに頷けば、男の子の顔がぱあっと輝いた。
「ありがとう!」
男の子は、ソファーから飛び起きると、私に抱き着いた。冷房で体が冷えたにしては低い体温に、私はややびくりとしする。ゼリーゆえだろうか。
「あのねあのね! 創造者様! 僕のお願い聞いて!」
なんともまあ、尊大な名前を付けられた。
私は、手を額に当て、うーんとやや呻く。
擬人化して、走り回って、驚いて、怯えて、笑って、願う。
脳のキャパシティが超えそうだ。
でも、どうしてだか驚きはしているが、恐怖はない。ファンタジックな現象が現在進行形で起こっているにも関わらず。
それは、男の子が私の好きなコーヒーゼリーゆえなのだろう。好きなのだから、姿形は関係ないという、好きな苦さとは程遠い、甘酸っぱい考えゆえなのだろう。
コーヒーゼリーへの愛ゆえなのだろう。
「なにかな?」
私は訊ねる。
「僕、気持ち伝えたい!」
私は身構える。
「あの人に!」
私の肩の力が抜けた。がっくりと。
私に対してじゃなかった。どうやら、私の愛は一方通行らしい。
「誰のこと?」
でも、それでもいいか。私は、食べる専門なのだから。
愛では、お腹いっぱいにはなれない。
男の子が満面の笑みで、答えた。
「創造者様が僕を買った喫茶店のマスター!」
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