第4話 『ハイフェッツ様』その1

 録音を聞き得る限りでは、たぶん、人類史上最高のヴァイオリニスト。


 ハイフェッツさま(1901~1987)は、『しべこん』を公式には2回録音しています。


 モノラルと、ステレオで。


 モノラル録音は、1935年。 ステレオ盤は1959年録音。


 ここでは、1935年盤のお話しです。


 なお、ハイフェッツさまは、この録音の少し前、1934年の12月に、レオポルト・ストコフスキーさまと組んで、すでに「しべこん」を録音していました。


 しかし、ハイフェッツさまが、どうも、指揮者さまが、少し出過ぎるところがあるから、控えめにしてほしいと言ったところ、ストコフスキー先生が拒否したらしく、結局、ハイフェッツ先生が発売を認めず、録音も廃棄するよう要求したそうです。ところが、原盤だけはご本人が保管していたようで、以前、フィラデルフィア管弦楽団の自主製作記念CDで、一度だけ復活されていました。また現在は、一般CDも発売されています。さらに、他に、ライブの録音が、もうひとつ、いくつかのレーベルでCD化されていました。


 さて、そこでご本人が認めなかった録音のCDは、省略にいたしまして、公式にはこの曲の世界初録音となったのが、この1935年11月26日付の録音です。


 指揮は、イギリスの名物おじさま、サー・トマス・ビーチャムさま。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団です。


 とにかく、ハイフェッツさまは、もう、気絶するくらいに、上手いです。


 技巧は、たぶん完璧無比で、音はすらりとしたハンサム系で、かすれやよじれなどは、皆無。


 この時代では、今のような録音修正はできなかったでしょうけれど、そうしたことは不要としか言いようがありません。


 非常に情念が渦巻くヌヴー様とは違い、あくまで冷静で客観的。テンポは全体的に速い。


 といって、機械的と言うのでもなく、人間にしかできない表情も織り込みながらも、まったく揺るがない。


 このきっと、もんのすごく難しい曲も、軽々と弾いてしまいます。


 まあ、あまりに完璧すぎて、嫌う方は絶対に嫌いのようですが・・・。


 でも、第一楽章の終結部は、それでなくともソロとオケが合わせにくいところなのですが、ハイフェッツさまがぐいぐい早くゆくので、フルート様がほんのちょっとだけ遅れがちになっている様子。


 さらに、第三楽章の終結部も、ちょっと他では聞かない位のスピードアップに、ビーチャムさまとオケの皆さんが、顔色かえて追っかけてる感じがあります。


 こういうところは、コンピューターには出来ない、微妙に面白いところです。


 『ハイフェッツさん、ぐんぐんスピード上げる! ビーチャムさんおっかけるぞ。逃げる逃げる! 追いつくかあ!? なんとか、くっついてるぞ。行きます。行きます! 逃げる! あああ・・・両者、ほぼ同時に終着しましたああ!!』


という、感じですな。


おもしろいです。


これは、歴史的な意味でも、内容でも、極めつけの録音と、みました。


ビーチャムさんも、シベ先生が得意だったので、興味深げに、おもしろそうに、ソロに付けてます。いい感じで協奏曲しています。




【ここからは、追記です!】


 書かないと、言いましたが・・・


 いやあ、それにしても、なぜストコフスキー先生バージョンは駄目だったのか?

 やましんが勝手に、聞いて思うのには・・・


1 確かに全体的に、ソロの音とオケの音が均衡に録れていて、またオケ内のソロとも互角の扱いに聞こえる。奥様にも、『ミスター・ハイフェッツ』と呼ぶように要望していたというハイフェッツさまには、少し許せなかったかもしれない。


2 さらに、オケだけの部分については、ストコ先生の方がかなり個性的な表現で、結構、目立って聞こえる。


3 たとえば、第3楽章の第2主題の再現部分では、むしろストコ先生の方が引っ張っているようにも感じる。


4 第2楽章の3小節目で、ティンパニさんが♪音符分早く入ったように聞こえる。



 で、やましんの、判断はといえば・・・・・


1、については、現在の録音は、むしろこの方が普通で、ソリストだけ、ど・アップにするようなやりかたは、たぶん古いやりかたでしょう。(むかしのソビエトの録音には、ちょくちょくみた気がします)だから、このストコ先生盤の方が、普通っぽいです。ただ、もちろん録音自体が古いので、ちょっとアンバランスではあるけれども。です。


2 これは、自分の流儀が際立って個性的で、楽譜の改編もいとわなかったストコ先生ですから、ここではむしろ、おとなしいくらいですが、でも、ビーチャム先生より、なんだか聞いていて、面白いです。


3 これは、さすがにこの演奏でも、ソロはもう完璧ですが、オケとの合わせにはちょっとずれてる部分もあります。しかし、全体的には、ソロへの付け方が、ストコ先生の方がうまくて、すくなくともこの曲の録音に関する限り、フィラデルフィア管のほうが上手ですし、全体的に落ち着いて聞けるように思います。


4 まあ、これはそういうこともありかなあと。指揮者の指示ではなさそうな気がします。どうも、意味があるとは思えないし。 


 そこで、結論・・・


 ハイフェッツ先生、ごめんなさい。


 やましんは、ストコフスキー先生盤のほうが好きです。


  ・・・ああああ、すみません・・・・・・・。謝ります。お許しくださあい。



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