第3話 『ヌヴー様』

 伝説の名ヴァイオリニストによる、伝説の録音。


 しかし、現在になっても、次々にあの手この手で復刻盤CDが現れるのですから、いまだに人気がある証拠です。


 ジネット・ヌヴーさま(1919~1949)は、悲劇の天才ヴァイオリニスト。


 パリ生まれの、超天才少女。


 5歳半で公開演奏会を行い、7歳でブルッフさまの『ヴァイオリン協奏曲第1番』を演奏してデビュー。


 戦争中、ナチスから高額の報酬で誘われたが、演奏を拒否したとか。


 女性ヴァイオリニストの地位を男性と同格に引き上げ、これからが絶頂だと言うとき、1949年10月28日、搭乗した飛行機がアゾレス諸島に墜落して亡くなりました。


 そこには、ピアニストのお兄さまも乗っていました。


 また、やましんには親しみがないけど、ボクサーとして有名な、マルセル・セルダンさまも乗っていた、と。


 このかたは、エディット・ピアフさまの恋人として有名。『愛の賛歌』は、ピアフさんからセルダンさんへの贈り物だったようです。



 『しべこん』は、ブラームス先生の曲と共に、このヌヴー様の貴重な、協奏曲の録音です。


 1945年11月2日という録音。


 ちょっと古めですが、音そのものは決して悪くないです。


 第1楽章はいいなあ。ラプソディーのような感じでみっちりと聞かせます。


 第2楽章もいい。


 まあ、全体的にオーケストラがあと一歩というところはありますが、ふっるい録音だし、そこは文句言わない。 


 ちょっと、好き嫌いが別れそうなのが第3楽章。


 わりと、ゆったりとしたテンポで進めますが、批評家の方によっては、遅すぎと嫌う方もあったような。でも、これだってぼくにはけっこう魅力的。


 なんだか、お仕事じゃなくて、音楽の殉教者のように、全身全霊で弾き切るのがこの方の信条で、ここでも、そうです。


 何回も重ねて聴くことが必要な種類の演奏。


 しかし、マニアからは、音のくぐもりとか、ソロの音程がちょっと異様にずり落ちるところとか、なにやら気になるところもいくつかあるようで、前述のように、さかんに、よい状態のSPやLPなどを探し出しては、CD復刻する活動が続いてきています。


 またその、初発売された時の輸入盤LPは、ネットで見るところ、現在大体6万円~10万円程度の値が付いているようです。


 ただし、ある程度、良い機械でないと、あまり音そのものの差は出ないかも・・・。とも、思います。


 ただし、持ってるぞ、と言う、満足感は、たぶん、ちょっと別のものなのでしょう。


 我が家の機械では、日本盤の昔のLPも、現在のCDも、それほどの差は出ないです。


 まあ、マニア垂涎のLPレコードのひとつでしょうけれど、CDでも一般的には十分かと思いますが、


 それでも、これは、『しべこん』演奏史では、決して落とせない名録音です。

 

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