8-2交渉後

 静謐な執務室に、アルベド以外の守護者が頭を垂れて控える。賢者は一人だけでいい。

「以上が交渉の流れだ。デミウルゴス、この後どう展開するか述べよ。アドリブは指示通りに部下が動かなかったという想定だ。」

 言い訳と共に、期待の眼差しを向ける。主にシャルティアに。


 デミウルゴスがソファーから立ち上がり語る。僅かに恍惚の笑みを浮かべている。

「3ヶ月以内、6ヶ月以内、一年内の想定を順次述べます。他国支配せずに動かすと言う前提から、ナザリックからの介入はない事とします。

 まず、3ヶ月以内に両国の和平への手筈が整うでしょう。竜王国は竜王女の支持獲得、国宝殿の解放が大きな課題です。一方、ビーストマンの連合ではあの老将の求心力が課題です。」


 シャルティアが手を挙げた。アインズの読み通りに。

「質問いいでありんすか。その老人の派閥はあの野猿のより、小さいんでありんしょう。」

「現状は関係無いのだよ。最大の支持を持つ騎士の派閥が潰れれば、大勢の民がどちらかに流れる。その時の勝者が実権を得る。

 騎士を潰すは問題ない。スキャンダル、買収、脅し、何でも効く。だが老将の人脈は強固で古い。成り上がり者には汚い手を使う力が有っても、信用がないんだ。」


 主君が頷くだけで皆即座に反応する。

「だが、手助けはしない。無能な猿ならば、老将を傀儡にする。人的コストと隠蔽費用がかかる、悩ましい結論だがな。

 シャルティア、いい質問だったぞ。」


 アウラ達の目に羨望がみてとれる。いい流れだ。

「次いで6ヶ月以内に双方の和平と、賠償の為の宝物について交渉が完了。一時ナザリックにて保管され、その後ビーストマン達に引き渡されます。

 これと同時に魔導国は平和を希求する法を発表。」


「ハイ。ハイ。あのさ、平和を望むってのは、介入の仕方にも触れるのかな。解釈によっては、武力鎮圧も平和の希求だけど。」


「触れない。疑われるだろうね。だが軍事力格差が、公言させない。

 そして平和が実現される。時と共に我が国の友好国が増えるだろう。増えて、依存し、牙を失う。そして平和裏に祖国を失うのだよ。」

「見事だ、アウラ。そこに気付くとは。確かに武力での制圧は強力で時間がかからない。だが不安定さと敵を生む。醜い解決策だ。それに、我らに時間など大した代償じゃないだろう。」

 いい質問は何よりも有難い。シャルティアでは出来ない部分だ。


「ところで、財宝のリストのなかで面白い物はあったか。パンドラズアクターの管轄だな。」

「ええ、中々に。ステータス上限を越えて強化させる装備品など...」

「同様の外見は作れるか。」

「ほどなく。どちらの国にも見抜ける者はおりません。

 最後に、一年内の達成予定について。ビーストマン連合と竜王国、その中間で我が国が貿易と冒険者を司ります。

 我が国は平和と繁栄をもたらすメシアとなりましょう。」

 コキュートスが興奮し冷気を吐く。

「我ガ経験ガ活カサレル時、トイウ分ケダナ。」

 皆、銘々に意気込みを見せる。


 死の王は空間を抱く様に手を掲げた。

「良い。実に良い。万事上手く行っている。皆のお陰だ...なにも謙遜じゃないさ、私など。皆が居ればこそ、ここまで出来たのだ。

だから...

 さて、報告と情報共有はここまで。皆、予定通り打ち上げだ。アルベドも誘ってピクニックにいこう。」



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