2-1 すれ違う思い 後

「「偉大なる死の支配者、アインズ・ウール・ゴウン陛下!陛下の為なればこの身の何が惜しかろう。我らが命は陛下の為にあり。何なりとお使い下さいませ!」」

 事前に議会で決定された文句だ。悪魔女の好みを分析した上での口上。奴も気に入るだろう。顔を上げる要求も2回無視してから、対話に入る。最大限の臣下の礼。

「...ジルクニフ。この隊列は?」

「無論陛下に命を捧げるための部隊です。何なりとお使い下さい。喜んで死ぬでしょう。」

「いっ、いやッ。そ、そんな...ふぅ。そんな事はしないし、必要もない。私が殺すのは我々に歯向かう者だけだ。既に貴国は我が属国。であればそんな必要は無い...だろう?」

 早速脅してきやがった。歯向かえば皆殺しだと言うのだろう。そんな脅しを堂々と公に言うのだから冗談ではない。先手を打って士気に関わる発言をするとは。嫌味のつもりか?こいつを兵士たちから離さねば。


「無論です。陛下に忠誠を誓った身。ああ、この様な場所では失礼に当たります。どうぞ質素で申し訳ありませんが、我が城へ。」

「いやいや、大変立派だよ。前からじっくりと見てみたいと思っていたのだ。特にグリフォンのタペストリーなど欲しいくらいだよ。」

「...!ええ、私の自慢の品です。よろしければお持ち帰りください。執務室に掛けておりますので。」

「ハハ、それでは強盗みたいじゃないか。それに今から引き返すのも面倒だろう?」

 確定だ。奴はこの城を監視している。タペストリーなど悪魔女にも見せていないし、執務室の位置を知っているのも城内の者だけだ。それを暗に告げている辺り実に陰湿。先程から反乱を警戒しているのか...?

「ああ!これは失敬。私としたことが。お手を煩わせるわけにはまりませんな。ではどうぞ、こちらの応接間にお入り下さい。」




「では改めて感謝を述べさせていただきます。我が国を、属国にして頂き非常に光栄であります。国民も皆、幸福に暮らせております。」

 属国になってから初めての会合。絶対の服従を示すため、不満は無いと明言しておく必要がある。頭を垂れ、上目遣いに魔導王を伺う。と同時に魔導王の異変に気づく。

(魔導王が躊躇いがちに手を出そうとている?)

 理解できない出来事に体が強張る。

(何か魔法を掛けられる...?奴が恐れる程の魔法を?まずい、何が間違いだった?まだ、帝国を支えていかねばならないと言うのに...)

 とっさに座っていた椅子から離れ、膝を折る。全てを捧げるつもりで祈る。


「陛下、なにとぞ、なにとぞ私を信じて、この国をお任せてください。全てを捧げさせて頂きます故、なにとぞ、ご容赦を!」

「う、うむ...ジルクニフよ。もとよりそのつもりだ。しかし...その、なんだ。我らの仲じゃないか。もっと気軽に話せないか?」

 気軽に、とは策を弄するなという事だろうか。監視しているのだから、どんな策も無駄だと?しかし、それは帝国を売る行為。たとえ無駄であっても道具になる訳にはいかない。あの悪魔女の言葉を使って返す。

「至高の御方にそのような無礼は出来ません。どうかご容赦を。」

「...そうか。実に残念だよ。まあ、時が経てばいずれは腹を割って話せる時も来るだろう。」


 どうやらいずれ俺はただの操り人形にされるようだ...先程の魔法はそれだったのだろうか。今では無くなった事に安堵する。今こいつに乗っ取られれば、帝国はどうなってもおかしくない。せめて後一国、他に属国が出来るまで耐えねばなるまい。

「仕方ない、本題に移ろうか。今回来たのはな。竜王国についてなんだ。かの国から救援要請の使者が来てはいないか?」

「いえ、来ておりません。来た場合、救援を送ればよろしいので?」

「いやいや、逆だよ。出来るだけ留めておいて欲しいんだ。それとウチからの増援も期待できないと暗に告げてくれ。」


 次は竜王国を乗っ取るつもりか。属国序列争いは竜王国との国力差からして問題無い。有り難くすらある。うちの方が有用性を示せる限り、帝国は酷い扱いを受けないのだから。


「は。承りました。」

「後、竜王国の国勢や切り札となり得る者などの情報は知らないか?」

「そうですね...竜王国の権力は中央に集中しております。王家は長命らしく、長きに渡り支配をして居りますし、ビーストマンと対抗するためにはそうならざるを得なかったのでしょう。

 それと切り札と言うほどでは無いですが、アダマンタイト級冒険者セラブレイト、そしてそれに匹敵するワーカーのオプティクスが居ります。」

「ふむ、それはどの程度だ。ビーストマンを押し返す力を持っているか?」

「いえ、法国を頼っている所から察するにさほどでは無いようです。応急処置的に各地を飛び回って居るのでは無いでしょうか。アダマンタイト級冒険者は希望をもたらしますから。」

 この魔導王を知らなければ、だが。


「なるほどな。いや、非常に助かった...っとまだ有ったな。えーと、3ヶ月以内に戸籍登録制を改正し、将来有望な者を探し出せ。あと、コロシアムでうちのの参加を認めて欲しい。」

「戸籍は現在進行させておりますが、まだ時間は必要です。ですが魔導王陛下に指導して頂いた連絡網の整備が整い次第順次完了していくでしょう。それで...コロシアムの件は理由を聞いてよろしいですか?」

 

 連絡網、つまりソウルイーターによる定期便など魔導王にしか出来ないだろう。現状ソウルイーター便は忌避されているが、その速さから非常時には不可欠になりつつある。ジルクニフ自身もやんわりと拒否し続けていたが、ソウルイーターの速度無しでは悪魔女の求める仕事をこなせなくなっている。

 仕事をこなせなくなる事は帝国の自立上避けなければならない。しかし、受け入れるならば帝国は各地にスケルトンと言う爆弾を抱えさせられた上、物流も握られている事になる。どちらを引いてもジョーカーと言う悪魔的謀略だった。


「こっちは個人的な願いだ。国家の命令ではないから、ジルクニフの意思を尊重する。もちろん、叶えてくれたら報酬はその都度払おう。

 知っての通り我が国では、冒険者を新たな存在へとしようとしている。その一環だな。自信の獲得と問題点の発見、そして勝利の喜びと敗北の苦さを味合わせる目的でな。」

「その、冒険者はアンデッドとかでは...」

「もちろん違う。れっきとしただ。」

 わざわざ本人が頼む事とは思えない。書面で良いような案件だ。何かを隠している?だが、何を。

「ちゃんと意思疎通が出来る者達ですよね?」

「くどい。意思疎通もできるともさ。それで、認めるのか?認めないのか?」

 

 糞、読めなかった。何を聞けば良かったんだ。もはや否定出来ないに等い。


「大変申し訳ありません。是非、お受けさせて頂きたく。」

「そうか!ありがとう。早速我が国のの混成チームを2,3送ろう。」

「なっ、それは...どうゆう...」

「何、亜人とは言えキチンと共存できるのさ。貴国でもきっと人気が出る。人間と仲良くしている姿を見るのだからな。」


 !やられた。文化的に支配しようとしているのか!亜人の勇者を宣伝し、亜人を認める法律を望ませる。都合の良い法律を命じるのではなく、自発的に作らせるように。

 まずい。これでは魔導国の影響の元に法律を作る癖が付いてしまう。何とか回避は...


「ああ、何も亜人を住まわせてくれって訳じゃあない。ただ貴国は我が国の国賓として受け入れるだけで良い。何も難しくはないよな?」

 

 出来なかった。何も言えないジルクニフに止めを打ってくる。やはり、こいつほど恐ろしく頭の回る化物は居ないに違いない。

「...承りました。」

「それは実に結構。さすが我が友よ!ではこれにてさらば。またな。」

「はっ。」

 (我が奴隷、の間違いだろう?もう来ないでくれ。)


 アインズを見送ったジルクニフの抜け毛問題はもはや城内の下女にまで知れる程となっていた。


 


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