2-2 武王

2-2

 (うーん。ジルクニフも何だか守護者達みたいになっちゃったなぁ。ただ仲良くしたかっただけなんだけどなぁ... 抜け毛を気にしてるみたいだし、そこを何とかしてあげたら仲良くなれるかも。一番いいのは抜け毛の原因を何とかしてあげる事なんだけどなぁ... )

 握手もタイミングをうまく測れなかったし、気さくに話すこともできなかった。ジルクニフとの対話する機会を増やすべきなんだろうか。

(でもまあ、アインザック達とはある程度、気さくに喋れるしな。ただ、友達じゃあ無いからなぁ。

 友達になるなら、武王がいいな。ガゼフに通じる何かがある。罪滅ぼし...の意識はないけど、彼に似た輝きを持つ者に惹かれる様になったのは何故だろうな。)

 いろいろと思い悩みながらオスク邸へと馬車を向ける。皇帝の面談の次は最も期待出来る未来の冒険者との面談だ。




「よくぞいらっしゃいました。」

 相変わらずまるまると太ったオスクが迎え入れてくれた。彼はこの前から割りとあからさまにポイント稼ぎを狙っている。こちらとしても交渉し易い態度なので有り難い。

「ああ、お前も相変わらずな様子だな?オスクよ。」

「ええ、お陰様で。一層やる気と希望に燃えておりますよ。無論、武王も同じようです。」

 武王ゴ・ギンには後継を作り次第こっちに来てもらう事にしている。武王の相手をデミウルゴスに尋ねれば幾らでも見繕ってくれた。

(ふふ、交配実験などと言っていたが、ウルベドさんも動物が好きだったもんなぁ。ちゃんと受け継がれているのかもなぁ。)


 ふとアインズの気が緩んだのを満足したと捕らえたのか、オスクが軽快な足取りで武王の元へと先導していく。

「あ、オスクよ。ルーンの方は順調か?」

「ええ、愛好会のオークションにバラ撒いてやりました。しかし、あれだけの売上、本当に頂いてよろしいので?」

「うむ...あー、あれは魔導国由来のルーン武器であると、そして安く手に入れたお前がボロ儲けしたと皆に知ってもらいたいのだ。

 ふふっ、今回改めて思ったものだが、商人程決断が早い者は歴戦の高位将校位の者だろうな。こちらが驚くほどに注文が殺到したよ。」

「左様でしたか。なるほど、ルーンの宣伝としてですか。しかし、そんなに注文が多ければルーンの質、値段が下がり、ルーン全体の価値が下がるのでは?」

「えーと、それも、確かそう。狙いの一つなのだよ。きっと量産品の悪質なルーンまがいが蔓延るだろう。だが、アインズ・ウール・ゴウン印のルーンはそうならない。不動のブランドと成る。更なる宣伝と言う訳だ。」

「流石は...それではウチの者達に、優先して陛下のルーンの一部を買い取らせて頂けませんか。コロシアムで使われた、それも勝者の武具は流行りと成ります。きっと陛下と私、双方に利となるでしょう。」

「よろしい。早速帰ったら議題としよう。」


(まあ、結局全部アルベド達の言う通りになるんだけどな。このルーン宣伝もアルベド達への試験、と言う建前での丸投げだしな。)



「陛下、この部屋です。普段の応接間はサイズ的にゴ・ギンには無理でしたので。」

 スッと、横を抜けたウサギ耳のメイドが扉を開け、オスクが先に入る。アインズも続いて中に入ろうとした。が、驚きに動きが止まる。

「陛下、ご無沙汰しております。」


 武王が巨体を屈め、臣下の礼をしている。その姿が昨日王城で見たジルクニフの姿に重なる。

「......ゴ・ギンよ、止めよ。お前はそれをしてはならない。私は誇り高き戦士には敬意を払う。たとえその者が如何なる背景を持っていても。...あのガゼフとはその誇り故に友に成れなかった。しかし、お前は違うだろう?友にその様な態度をとらないでくれ。」

 武王の巨体が揺れたように見えた。

「友と、呼んで下さいますか...」

「ああ、公式の場でなければ、その言葉遣いも良してくれないか?」

 視界の端の方でオスクが商人の顔をしているのが見える。武王の価値を改めて居るのだろう。

「承知した。我が友よ。...とは言え、あなたの様な強者に砕けて話すというのは中々に気恥ずかしいな。」

「構わないさ。友ならば細かく気にする方が変だろう?話しやすいように話すがいい。それで、奥方はいかがかな?」



「お陰様で仲良くやれて居る。ただ、アベリオン丘陵での記憶が矛盾する事があると言っていた。病気かと思ったが、オスクが調べても何も出無かった。」

「そうなのです。帝国の神官らに詳しく調べさせたのですが、全く不明でした。陛下のお力で何とかしてやれませんでしょうか?」

「ふむ...うちで調べた時にバッドステータスは確認出来なかった。だがそうだな、酷い様ならこちらで検査してみよう。」


「陛下、よろしく頼む。ああ、それと息子の件だが、あと一年位でモノになりそうだ。」

「そうか!リザードマンもそうだが、成長が早いな。」

「亜人は全般に成長が早いですからね。即戦力になる為と言われておりますが。」

「うむ、成長が早いぶんには結構だ。それで、一年っ経った後は武王になるのか?」

「いや、武者修行をして対応力を身に着けさせたい。ウォートロールとして産まれたのだ。そう簡単には死なないだろう。」


「なるほどな。万一死んでしまっても、私がなんとかしよう...いや、武者修行ならうちの冒険者にならないか?いずれは武王を継ぐ事になるだろうが、人脈が出来るのは悪いことじゃない。」

「なるほど。それは名案ですな。武王、陛下の冒険者が近々格闘場コロシアムに参加する。そこでお前の息子と気の合う者を見つければいい。」

「いや、非常にありがたいのだが、人間とそんなにすぐ打ち解けられるだろうか。はっきり言って、オスクは特殊な人種だぞ?」

「ゴ・ギンよ。魔導国は全種族の融和を目指している。種族の隔たりはないさ。実際、うちの冒険者チームは各種族の特性を活かす混合構成だ。」


「分かった。では陛下の冒険者チームを楽しみに待とう。」

「ああ、期待してくれ。ん、もうちょうどいい時間だ。時間を取らせたな。また会おう。友よ。」

 アインズが立ち上がり、出口へと体を向けると既にウサギ耳のメイドが扉を開けていた。やはり商人と言う人種は侮れない。

「俺もまた会う時を楽しみにしている。」


「陛下、お送り致します。」

「ああ、頼む。」

 武王と別れ、廊下に出たアインズを商人顔のオスクが待っていた。

「それで陛下。武王との関係はどうなさいます?」

「公にして構わない。亜人の英雄と個人的な友になった魔導王。実にキャッチーじゃないか。」

「承知しました。あと、帝国の市場の流れと新米冒険者への根回しは...」

「...書面で送ってくれ。」

「はっ。」


 様々な応答をしながら、ようやく玄関に辿り着く。

「...オスクよ。諸々は書面を通して決めるとしよう。今日は歓迎有難う。」

 まだ言い足りない様なオスクを置いて馬車に乗り込む。

(俺に言われても分かんないよ...アルベドが何かしてくれてるんだなぁ。)

 オスクの使用人に見送られながら馬車が走り出す。

(まあ、俺は俺に出来る事をやろう。確か次は...漆黒聖典の引退組を抹殺、と。あの法国の捕虜の言い分からしてそこそこ強い様だけど...)

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