2-1 すれ違う思惑 前
久々の帝都はやはり活気に溢れていた。アインズが前訪れたのは確か去年の初夏だっただろうか。
(いやぁ、一時期溢れかえってた反乱軍を何とかするとは。市民に動揺は無いみたいだし流石だなぁ。にしても何であんなに援軍を断ってたんだろう。こっちへの配慮?スケルトンの労働力を貸したげたんだし、今更だと思うんだけどなぁ。)
帝国はその教育研究機関の充実具合と高い食物生産性を見込まれ、魔導国がアシストしながら一部を徴収するというシステムに落ち着いていた。割りと多めに穀物類を徴収しているし、研究成果も全て報告させているが、一般の生活水準が向上しているため不満の声は少ないそうだ。
魔導国側も穀物だけでなく、見えない形で得をしている。魔導国は土地の狭さ、交通の便の悪さ、大きな水源地が無いことを無理矢理魔法で解決している。そのため、広くて海にも面しているカッツェ平原の開拓が望まれている。帝国を援助して得られる経験は必ずや開拓に役立ってくれるはずだ。
(まさしくwinwinの関係!流石、アルベド達。ジルクニフもきっと喜んでいるだろう。今日会えば早速お礼を言ってくるんじゃ無いだろうか。鷹揚に頷くのがいいだろうか...いや、こっちも頂いているんだし、握手だろうかな?)
最近、遠隔視の鏡で覗くとジルクニフが楽しそうに宝鉱を選別している事がある。どうやらプレゼント用らしかったが、彼が嬉しそうに何かに熱中しているのを見たのは初めてだった。属国になって良かったというのは間違いない。
(これで、ジルクニフとも仲良くなれたらいいなぁ。)
アインズは新しき友との会合を楽しみにしながら、王城へと流れてゆく風景を見ていた。
奴が会合を申し込んできたのは属国となってから初めてであった。王が自ら会うとなれば、それは国家レベルの方針を提示すると言う意味に違いない。何か問題が有っただろうか。しかし、 属国となってより、必要以上に服従の姿勢を取ってきたはずだ。
というのも奴のスケルトン・ワーカーの存在は各地に駐屯している魔導国の軍に等い為だ。ジルクニフは常に、帝国を人質に取られた綱渡りを強いられていた。
今回の会合でも気を抜いて踏み外せば、こちらに残る物は髪の毛一本程のものだろう。
(そう。奴が会合を申し込んできてより、また抜け毛が増えた。ああ、リユロはこんな時どうするだろう。彼が再び来てくれた時、帝国がただの廃墟となってしまっては居ないだろうか...神よ、もし居るならばどうかこの帝国に安寧を。)
無論奴らにその気が有るならば既に廃墟なっているだろう。奴らは魔導国に屈した者は幸福に成れると言いたいはずだ。その点で帝国は安泰だ。だが同時に、価値を持つ者に限る、とも言いたいはずだろう。その点では帝国は哀れだ。
価値のない者には制裁を下すのが宗主国である。帝国の場合、自治権の一部剥奪が制裁と成るだろう。そして課題をこなし続ければ、今度は次第に要求を大きくしてくるのも宗主国だ。帝国なら出来ると思った、という言い分を盾に。
しかし、この先の見えないマラソンを耐えねばならない。優秀である限り使い潰されはしないのだから。奴らもそれを知っていて、常に越えられうるギリギリの新たなハードルを用意するのだ。
まるで神であるかのように。神は超えられない試練は与えないと言う。
そういえば奴を神と崇める宗教団体が出来たそうだが、本当にそうなりかねない。アインズ・ウール・ゴウンは神として人々に成長を促す。それは慈愛に満ちた救いの手。しかしその実は搾取の魔手。結局得をするのは奴らだけ。それは奴らのためだけの永遠のデストピア、閉じた終わりの世界。
そんな世界で皆幸福な家畜のように奴らに搾取し続けられるのだろう。一部の賢者もただ本当の事に気付けるだけ。不幸な賢者として苦しみ続ける事しか出来ない。或は気づいてしまった者こそ、真の愚か者なのかもしれないが。
(...もう直ぐ刻限。城門で臣下の姿を取らねば。)
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