4-3 王の姿

 体が凍り付いていた。知っている感覚、麻痺だ。目の前の不死者に気を許してはならなかった。また一つ、我が愚かさを悔いる。

「まったく。なにもしないし、出来ないっちゅうに。まあいい。行くぞ、わが城に。受け入れろよ?グレーターテレポーテーション。」

 世界がゆがみ、視界が切り替わった。


 転移の先は美しい応接間のようだ。赤い壁紙にソファが置いてある。

「まったく。ヒステリーを起こすほどでも無かろうに…むう、私がアルベド基準になっているのか?」

 独り言をつぶやきながら不死者の王が手を振る。解除。その言葉とともに。


「私を辱めて、どうする気だ。お前も変態ロリコンなのか!?」

「違う…はぁ。取り敢えず、服を用意させる。それから俺も出ていく。メイドが残るから何かあったら言うがいい。」

 いやに落ち込んだように、人間らしい動きでとぼとぼと去ってゆく。本当になにもしないのか?


「お服、お持ちしました。」

「ほわぁッ?」

 ふいに背後から声を掛けられる。見ると何とも美しいメイドだった。同性に見とれることなど初めてだったが…

「メイドのシクススでございます。お召し物をお着せしますので、どうぞお立ちください。」

 美しい笑顔ながら、有無を言わさぬ気迫があった。

「え、ええ。分かったわ。」

「ありがとうございます…一つ、よろしいでしょうか。」

 無駄が一切ない動きののまま、張り付けた笑顔で語りかけてくる。そこには底知れぬ怒りがあるように思えた。

「…どうぞ?」

「アインズ様は非常に寛大な方でございます。それゆえいかなる愚かな発言も許していただけるでしょう。ですが分をわきまえぬ者に、その慈悲をいつまでも与えられる訳ではないのです。

 愚かなもの、価値なき者。それらに生かす意味が無いのであれば、いずれ代償が求められるでしょう。」


どこまでも冷たい声。怒りというより、それは殺気だった。

「…それは、脅し?」

「いえ、私の勝手な推測です。決してあなたに代償が求められるとは思ってませんし、そうならない事をねがっていますよ?」

 あくまで配下の勝手な意見と言う事か。以外にあの王は慕われているのだろうか。魔導王に対する評価を少し変える。

「すまない。分かった。私も失礼の無いようにしよう。忠告、受け取ったよ。」


 少し派手な服を着せ終わると、メイドは相変わらずの笑顔で頭をさげた。魔導王を呼びに行くようだ。あれでも部下思いの賢王なのかもしれない。確かに私もモンスターの血を引く王と言える。アンデッドが王であっていけない道理はない。

 ふと、今までの会話を思い返して、いまだ王として対応している自分がおかしくなった。

(もう、いらない演技だ。あの王に臣民を託して、素の自分で頼ってもいいかもしれない。もし、あれが変態ロリコンなら、我が身と引き換えに、なんてな。)


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