4-1 死者の都市
4-1
夏特有の奇妙な静けさが瓦礫の上に横たわっていた。隔絶された異世界を思わせる静寂。だがそれは平穏故のものでは無い。死と絶望が満ちた静寂だった。
始原の魔法が行使され、王都の人々は魂を抜かれた。事切れた人々から吸い上げられた光の尾は上空で巨大な彗星と成り、城壁に陣取っていたビーストマン達に降り注いだ。逃げ惑うビーストマンを正確に、執拗に撃ち抜いていく。
その威力は超位魔法、メテオフォールに負けないものだった。周囲の建物はもちろん、中央部にある貴族の家も吹き飛び、王城すらも一部が崩れていた。
「危ない所であったな...いや、失礼。無事とは言えぬ様相ではあるが...」
アインズは吹き飛んできた瓦礫から庇うよう、幼女を背にして立っていた。
「あ...あ。私も死んじゃったんだ...そうだよね。私、生きてて良いはずないもんね...」
「何?貴女は生きている。死んじゃあいない。」
「でも...貴方は死神なんでしょ?私、地獄に行くの?」
「なッ...アインズ・ウール・ゴウン魔導王だが...知らないか?」
「死神の王様?...そうよね。大罪人だもんね。」
(駄目だ。生きていく気力を無くしている。いや、生きていると思いたくないのか。)
状況を伝え、王女としての
そしてこの娘に教えていいのは、アウラの事。それから幾人かは復活させてあげられる事。周囲のビーストマンは
言うべき事を大体まとめ、改めて王女を観察してみる。可愛そうな程に憔悴しきっている。目は虚ろ、手足に力は無く、ただぼんやりと座っている。
(これは、ペペロンチーノがいつか言っていた依存フラグ...じゃないか?)
人の心が極限まで追い込まれた時、そこから救い出してくれたモノに依存する。 精神的に無防備になった相手を説得すべき、という格言が有る程だ。
「ドラウディロン・オーリウクルス王女。貴方は王だ。王ならば、逃げてはならない。しっかり目を見開き、頭を働かせろ。貴方は生きている。」
「でも、私は...もう、王の資格なんか...」
「傲慢だな。資格なぞ、思い上がりの産物に過ぎん。逃げてはならない。臣下が、貴方の導きを求めているんだ。王を失えば、道を失い、皆がバラバラになる。
今、私の部下が生存者を探している。同時にビーストマンの生き残りも。生存者は発見し次第、我々が保護する。貴方は他の都市の臣民をまとめ、戦線を整えてくれ。ビーストマンも暫くは動けんだろう。」
「そんな事...皆、私を認めてくれるはず無い。民を生け贄にした王なんて...」
「だろうな。贖罪はいずれ求められる。だが、今は君が必要なんだ。全ての悪意からは私が守ろう。この名にかけて。だからどうか、今一度立ち上がってくれ。全ての民の為に。」
「民を助けられるなら...」
「大丈夫だ。信じてくれ。」
アインズは骸骨の顔に笑みを浮かべ、ドラウディロンを見据えた。彼女の目に、僅かな光が宿ったことを確かめながら。
「...皆を助けられるなら...何だって...」
そこまで言って、彼女は気を失った。顔に僅かな希望を浮かべて。
(やったー!やれたよ、デミウルゴス!約束を勝ち取ったよ。えーと。それじゃ、次は...ビーストマンの側との交渉、か。)
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