3-3 序章
3-3
「糞ッ!法国は何をしているッ!」
王城に ドラウディロン・オーリウクルスの絶叫が響く。ここ数日、法国との連絡が取れていない。ただ進行されるのみの日々に誰もが明日を恐れていた。
「陛下、報告です。彼の部隊の野営地跡にビーストマンと争った形跡が有った模様。かなりの強者が現れたのかも知れません。ただし、そこからの経緯は一切不明。蒸発でもしたかのようです。」
「煩いッ!分かっておるわ!もはや......いや、すまん。報告を続けろ。セラブレイトは何と言っている?」
「これ以上の戦線維持は不可能。姫だけでも亡命すべきと愚考する、と。」
「あの馬鹿者...優しいのやら、やらしいのか...いずれにせよ、奴には却下だと伝えろ。戦線はそのまま後退。負傷者や高齢の市民は本陣からずらして、ゆっくりと後退させろ。護衛の人員は最小限かつ、優秀では無いもので良い。口減らし兼囮とする。」
「承知...陛下。少しお休み下さい。いざという時の為に。」
「...分かった。では、任せた。何かあれば遠慮せず起こせ。」
「ハッ。」
もはやドラウディロンは怒りすらも失い、気力のみで動いていた。宰相の言うとおりなのだろう。重い体を引きずって寝室へと向かった。
「おお。随分進んだな。あいつ等が居たら、王都まで進攻出来ないんだもんなぁ。あんな爺さん達もなかなか侮れんという事か。
いやそれにしても、大軍を俯瞰するのは爽快なものだなァ。」
執務室で独り言を漏らすアインズ。しかしそれは意識的なものであった。
(こうして普通の独り言を聞かせれば智謀の王等とは言われなくなる...らしい。)
らしい、というのはラナーから聞いたためだ。デミウルゴスやアルベドに匹敵する頭脳と異形の心をもった王女。そんな者が実践していたという実績のある技術だった。
しかし、相手はナザリックのメイド。ぴくりとも体を動かさないため効果の程は全く分からないでいる。
(まあ、焦っても意味はないしな。ゆっくりと評価を変えていけばいい。それで王城の中を見るには、と。)
魔法を幾つか追加して掛け、龍王国の王城を覗く。アインズが行ったことは無いものの、この城の構造は幾らかは知っている。こうしてよく見学して回いるからだ。
(王女様が可愛いんだよなぁ。支配者の演技と幼女の演技を使い分けしなきゃいけない所とか。頑張って仲間を守ろうとしている所とか。...ペペロンチーノさんが見たら喜ぶだろうなぁ。)
執務室、王座、客間等を見て回り、ようやく寝室に王女の姿を見つけ出した。
(あ、マズい。周りに見られたら
寝室にいた王女は薄いネグリジェをまとい、ベットに伏せていた。
「うっ...うぅう...なんで...なんでこんなに悪いことばっか...起きるのよ...」
確かに龍王国にとって、ここ数ヶ月は不運としか言えない状況だった。
帝国への使者が帰って来ない事。法国の援軍が老人たちでのみ構成される程に見捨てられていた事。そしてそれでも優秀だったその援軍が殺された事。
何かの悪意でも働いているのではと疑ってしまうほどに、不運だった。
(あー、泣いちゃってるなぁ。こっちも仲間達の安全がかかってるから仕方ない事...だけど可愛そうだなぁ。始原の魔法の効果次第だけど、何とかしてあげようか...)
今回のアインズの目的は始原の魔法の観測と検証。次点でそれの修得である。いずれにせよ、ドラウディロンの協力は必要だった。ただし、ドラウディロンのレベルが低い様なので死んでしまったらそれまでだが。
(そうだ!漆黒の英雄の評価を還元できなかったなら、アインズとして同じことをすれば良いじゃないか。聖王国ではヤルダバオト討伐で武力を示したんだし、次は和平交渉の立役者に...)
「助けてよ...パパ。お祖父ちゃん...」
(ぐぅッ!?か、可愛い...良し。頑張っちゃおう!)
幼女の漏らす嗚咽を盗み聞きしながら密かな闘志を燃やすアインズだった。
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