1-4 お約束

「さて、アルベドよ。竜王国の原初の魔法を見てみようと思う。」

「は。精神支配でしょうか。それとも、何か脅しをかけましょうか。」

「いや、待て。早まるな。あくまでこちらは傍観者だ。精神支配では記憶が残る。記憶は私にも弄れるが、それは逆に他者に暴かれると言う危険もあるという事。自発的に使わせたい。」

「は...」

即座に提案せず、考え込むアルベドの様子に少し驚く。いつもならすぐさま代案を出す彼女の沈黙には深い理由があるのだろう。予想外の出来事に注意深く思考を巡らす。


(竜王国の国力、スタンス、敵対国、同盟国、いずれも正確には分からない。もしかするとここら辺の報告を受けていただろうか。自分が報告忘れたのを部下の責任にする上司は最悪だ。ここはそれとなく探りを入れるべきか...)

「ふむ、確か竜王国はさして強くはなかったな?アルベドよ。すまないがその辺りの細かい数字は忘れてしまった。竜王国についての資料はあるか?」

「はっ。前回の報告書を持ってこさせましょう。しかし、帝国とはさほど親しく無いらしく、詳しい数字はまだ調査中でございます。申し訳ありません。」

(勝った。誘導成功!)

「いや、私とて時間がかかる仕事もある。誰しも完全ではないのだ。それ故に、頼りにしているぞ。アルベド。それで、何か案は出たか?」

「一つ、ですが。竜王国は現在東方のビーストマンの侵攻を受け、法国を頼っています。法国の援軍を密かに抹殺し、帝国へ支援依頼を出させるよう仕向けるのはどうでしょう。使者が帰って来ない間にビーストマンが迫ってくる。そして手元に一枚切り札を残している。そうなれば、恐らく原初の魔法を使うでしょう。」


なるほど。納得がいく提案だ。しかしアルベドが悩んだ要素が分からない。確かに合理的だ。だがそれほどの発想は必要ない。アルベドなら直ぐに思いつくはず...

(まあ、俺がいくら考えても分かるはずがないんだけどな。)

「素晴らしいな。アルベド。実に理知的だ。で、その計画に必要な物はなんだ?私がすべき事は?」

「探知能力に優れたしもべ、隠密能力に優れたしもべ、及び帝国への使者、ですね。」

「ほう。ではその使者、私が向かおう。」

「だ、ダメですッ!そんな、アインズ様が自ら動かれるなんて!もし、そうするのでしたら、私を連れて行ってください!」

(あ、なんとなく見えたな...)


「しかしそれでは、ナザリックを管理するものが居なくなる。パンドラズアクターはダメだぞ?今は冒険者達の相手をしている。モモンという記号は新しい冒険者組合の希望なのだ。」

「しかし、しかし、私、我慢出来ません。今年はただでさえお側に置いて頂いていないのに!もう少し時間を下さいませ。もっと良い、アインズ様のお手を煩わせない案があるはずなのです!」


(やっぱり。)

 確かに最近アルベドが普段以上に張り切っていると感じていた。アルベドとの約束で私の自由な外出が認められてからは、些細なことまで気を配り、アインズに尽くしていた。

(外出する気にさせたく無かったんだな。ふふ...あの完璧になアルベドらしく無い、いじらしい作戦だな。)

 しかし、このアルベドの感情はアインズが植えつけたもの。であれば、無碍にあしらう訳にはいかない。

(俺だって多少は進歩しているんだ。こんな時は...ジルクニフ流なだめ術、その12!)


「アルベドよ。お前だから託せるのだ。お前を軽く見ているわけではない。むしろお前たちといる時間は我が至福の時間だ。

 だがそれは絶え間ない努力の上に成り立つもの。この世界の脅威が居なくなるまで、少しの辛抱だ。アルベド。その時は共に世界を見て回ろう。だから、留守を頼めるか?」

 換えが無いと言う特別視と、頼む事による相乗効果の責任感。ジルクニフもよく使う手だ。しかし、相手はアルベド。浅はかな技術など見抜かれるかも知れない。その時は命じるしか無いが...

「あ、アインズ様。それは...新婚旅行、と言うものですね!?」

(ミスったぁァァああ)


だが振られたサイは戻せない。ここでアルベドを傷つけず、曖昧にするには...

「あ、うむ。あれだ。なんか、まあそんなもの、かもな。」

(違うだろぉぉお?何言ってんだ、俺。精神安定は何故起きない!?)

「いやぁぁぁ、アインズ様、私のアインズ様ぁ。」

「よ、よせ、アルベド。エイトエッジ・アサシン!手を貸せ!む!や、やめぇぇぇぇ」


アインズが帝国に向かう日まで、アルベドの謹慎が決まった。

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