1-2 冒険者組合

1-2

 この世界に転移して早くも2年。かつてはモモンとして気軽に行動できていたが、近頃はすっかり自由に動けなくなってしまった。

(ひょっとしたら、この魔導国冒険者組合は俺自身の願望なのかもな...)

「魔導王陛下?」

「あ、いや済まない。少しぼーっとしてしまっていた。それで何だったか?」

「冒険者育成用のダンジョンについてです。諸経費についての負担についてですがーーー」

 モモンとして通っていた冒険者組合。今では魔導国での新たなる冒険者組合として動くための拠点となっている。アインザックらを説得できたおかげで、様々な実験的試みを検討している。

「構わない。私が全てを賄おう。前にも言ったと思うが、冒険者は我が国の未来のために必要な宝なのだから。」

「ありがとうございます。陛下。それと、あともう一点問題が...」

「アインザック、それについては私からご説明させていただきます。陛下が作ってくださったダンジョンな のですが、敵がアンデッドモンスターや悪魔、それにあのゴキブリらのみであるせいか、聖職系統の冒険者が増えすぎているのです。」


 テオ・ラケシル。元魔術師組合長。新しい冒険者組合についての会合に平然と出席してきた。

(確かに誰にも言うなとは言わなかったけど、なんの説明もなく、当たり前みたいな顔で参加されてもなぁ。報連相、彼らにも徹底しないとダメだな。次の機会があればキツく言ってみよう。)

「それについては、これからだな。亜人を受け入れるという国是である以上、知能のある亜人達を連れてくる訳にもいかん。」

「陛下ならば、あらゆるモンスターを召喚できるのでは?」

「確かにそれも考えた。だがアンデッド以外の召喚となると時間で消えてしまう。悪魔達も我が配下のものに召喚させているのだ。私があそこに留まり続けるわけにも行かんし、配下のものも仕事がある。

 やはり、いずれモンスターの家畜化でもせねばならないだろう。帝国のコロシアムでは捕縛してくるという話だったが、こちらは大量に必要なわけだしな。いずれにせよ先の話だ。今は他の職を優遇してやるほかあるまい。」

 

 傭兵モンスターを使うという手もあるが、それでは採算が合わない。アウラたちの建設作業も終わったわけだし、彼女たちに畜産を任せてもいいかもしれない。そういえば、デミウルゴスのキメラ達はどうなったのだろう。どうせ他に使いみちもないのだろうし、処分する個体を分けてほしいが...。


「左様ですか。ではこの議題は後日再び。次に彼らの武装についての件ですが、ルーン武器、防具は非常に 好評でした。駆け出しの戦士にとって、魔法の武具が安く手に入るというのは有り難いですからね。」

「ほう、それは結構。ドワーフ達も皆生き生きとしていた。それに早く強くなってくれるならば、こちらと しても大変有り難い。それで...彼らはどの程度で冒険出来るようになると思う?」

「ラケシルも言っておりましたが、聖職系統以外のものは効率が悪く、戦士たちはエルダーリッチに4人パーティで挑んで何とか、という者が大半です。最も優秀なものもスケルトンウォーリアーと互角程度。

 去年から始まったばかりの試みですので、安全に旅するには少なくともあと1年かと。」

「魔法職のものも似たようなものです。ただ、かのフールーダ様が見分けて下さるおかげで、母数は確実に増えています。

 戦士職を既に習得したものでも、魔法職の才を持つものが意外に多く、魔法剣士を志すと志願してきています。」

「一年、それに魔法剣士か...やはり一度死んでから職を厳選すべきだと思うんだが...アインザック、まだ志願者はいないか?」

「...ええ、まだ。いえ、おそらくこれからも現れ無いのでは無いでしょうか。」

「何故だ...デスに痛みは無い。復活もこちらがやると言うのに...生き返るならば死んでいないに等しいではないか。」


 デスペナによる職業ビルドのしなおし。ユグドラシルでは基本テクニックの一つだった。彼ら冒険者の無駄が多すぎる職業構成は見ていてむず痒くなる程だった。大半は才能が乏しいのでは無く、効率化が成されていないだけなのだ。

「ですが...やはりまだ死んだことがない彼らにとって、死は絶対的恐怖なのです。冒険の中で死を経験せねば、難しいのでは無いでしょうか。」

「そうか...」

 (それはつまり、さっさと冒険に出して、死なせればいいと言うことか。しかし、トブの大森林はもう制圧しているし、手近に死なせる場所が無い...いや、ドワーフの渓谷なんかに送ってみるか。何らかのモンスターが居るようだし、恐らく死んでくれるだろう。問題はトラウマになりうることだが...)


「まあ、無理にとは言わんがな。それで話は変わるが、そろそろ実戦を積んではどうだろう。近々ドワーフの護衛に我がアンデッドが同行するんだが、それについていって実戦を積んでもらおうともう。出来れば、ドワーフの渓谷を探索してもらいたいとも思っている。報酬は発見した物に応じて出そう。優秀な者たちから志願を募ってくれ。」

「畏まりました。こちらからの議題は以上です。何か他にご提案は?」

「私からも議題は以上だな。では、ご苦労。次の検討会までに有望な者をリストアップしといてくれ。」


(冒険を続けるならば、いずれは死を覚悟する機会も訪れるだろう。結局そこは本人次第だな。だが、そうだな。ルプスレギナに復活させれば心傷も和らぐかもしれん。)

 アインズはまだ見ぬ新しい冒険者の姿に、いや本来あるべき冒険者の姿に胸を踊らせながら領主館へと足を向けた。

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