1ー1 原初の魔法
夏特有の奇妙な静けさが部屋に横たわっていた。隔絶された異世界を思わせる静寂。だがそれは平穏故のものでは無い。緊張、怒り、あるいは後悔が満ちた静寂だった。
竜王国女王、 ドラウディロン・オーリウクルスはその沈黙の中で、かつてないほど自らの無力を恨んでいた。
彼女は竜王国のため、ビーストマンの侵攻を食い止めるためにあらゆる手を使った。法国の援助を求めて、なけなしの国費を法国に寄進した。ロリコン冒険者を雇うため、ねっちょりとした視線で眺められるのにも耐えた。救援を求めて帝国にも使者を送った。しかし、もうこれ以上は食い止められない。
この王都にまで攻め込まれた今、奴らに大きな打撃を与えなければ、竜王国は崩壊する。そうなればもはや国民を守るものは無くなる。逃げ出そうにもこの頃はカッツェ平原で霧が常時退路を塞いでおり、霧をぬける頃には匂いを辿られ殺される。最悪国民皆がビーストマンの腹に収まることにだろう。ならばーーー
「宰相...原初の魔法の儀式の仕度を...」
「なっ!?女王陛下それはッ」
「もはや猶予はない...この時のため、各都市には通達してある。王都にキノコ雲が登 るとき、その時は国を捨てて帝都への難民となれと。あそこは優良な奴隷制が有る。死ぬことはないだろう。ここで躊躇えば、我々はもとより、彼らもまた死ぬこととなる。ならば、たとえこの王都を滅ぼしてでもッ、奴らを止めなければ....!」
原初の魔法を使う。それはつまり、王都の全住民の命を道具として使う事を意味する。そしておそらくこの王都を灰燼に帰す事になる。決して許されることではない。だが、それでもやらねばならない。より多くの民のために。
「ですが...ですがまだッ、まだ使者が帰って来ておりません!この王都はそれなりに高い防衛力を持ちます。せめて彼らの帰還を待ちましょう。」
「彼らが向かったのは一ヶ月前。連絡が無いことを思えば、まだ交渉に手間取っているのだろう。...夏とはいえ備蓄もいつまで持つか...それにもし奴らが市内まで攻め込んで来てみろ、市民が虐殺されてみろ。儀式すら出来ん。」
「ですが...ですが...」
沈黙。それは反論出来ないという事。ドラウディロンにとって、それは有り難かった。あまり決断を遅らせれば、この決意が揺らいでしまう。
宰相には申し訳ないと思う。儀式を認めるという事は、彼自身の命を捧げる事であり、この王都に住む彼の家族を殺すことに等しい。この決断は悪魔の所業である。ならば、悪魔に赦しは必要ない。たとえ彼が反対しようとも。その時は彼を捕縛してでもーーーーーーー
「女王陛下...手伝わせていただきます。」
兵を呼ぼうとした彼女を制するように、宰相が静かに、強い声で言った。予想外の出来事に心が揺れる。いつも冷ややかで、淡白な男が見せた覚悟。これは私の罪だ。無力である、という。
いつも支えてくれたこの男には、最後くらい自分の弱さを、涙を見せたくなかった。それでも、こらえきれなかった。震える声で、最期に別れを告げる。
「すまない。」
その日、竜王国王都にキノコ雲が登った。
《半ば思いつきで書いているので、気に入らなくなったり、物語的に齟齬が出るようなら書き直します。》
【ジョーカーゲーム信者なので、唐突な導入をやって見たかった。ごめんなさい(_ _;
つまんねーよって位でも良いので何かコメ宜しくお願いします。あと、設定が原作とブレてるかも知んないっす。設定詳しい方、指摘していただければ幸いです。随時修正します。】
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