僕とイモ子さん

まさゑ

イモ子さん

 高校生になって環境が変わり僕は浮いていた。

 自分の席で本読んだり寝たりしているためまともに会話もせず友達もできず中学の頃の友達は知る限り同じクラスにいる二人だけ。

 教室、ふざけあっている男子生徒、会話に花を咲かせている女子生徒。

 諸君らを羨ましく思いながらも今日も今日とて本を開く。


 

「でもさ、、タケ君、挿絵がすごいラノベじゃかっこつかないね、、」


 後ろから喧騒すさまじき教室内でそのぼそぼそと独特な掠れ声はなぜか耳に入ってきた。

 「ふうぅ」

 ひとまず落ち着こう。

 これから僕は久々な会話をすることになるからしっかり考えていこう。

 本にしおりを挟みこみ丁寧にしまう。


 「イモ子さん、どうしたのかな」


 前髪のせいで顔が隠れている女子生徒、通称イモ子。

 中学の頃彼女を気に食わない生徒が前髪で隠れているとこはがニキビとかで赤いから隠してる黒に赤でイモリだ、イモ子だと高度な嫌がらせニックネームを付けたのが初めだという。

あとは眉毛をペンで書いたみたく太いんじゃないかということでというのも一部囁かれているらしい。

 以上のことがあっても本人はこのニックネーム気に入っているらしいから相当な変わり者。


 「なんか、、さわやかに一人してるから、、声をかけた」

 

 「いやいやいや本を読んでいたんですよ」

 

 気持ち爽やかさ十割増しのスタイリッシュボーイで対応。

 本を読もうとしていたので暇をしていたわけではない。

 

 「ぷす」


 小さく引き笑いを上げるイモ子は若干のホラーである。

 

 「も、もう本読むから」


 逃げるように身を翻し読書を再開させる。

 しかし後ろのイモ子の視線があるような気がして本の内容が入ってこなかったのはここだけの話。




 

 イモ子と僕の馴れ初めは高校に入学してすぐ担任により行われたボッチの吊し上げ自己紹介が最初である。

 二人一組を作れという担任の命令に僕は余裕だろと高をくくっていた。

 だってよ俺にはよ俺にはよ中学からの友、モブとノブがいるんだぞと。

 現実は非常でありモブとノブは二人でペアを組み僕は省かれたのです。

 許さねぇ。

 結局最後まで余った僕は一人の女子生徒イモ子と組まなければいけなかった、ここがこれからの高校生活にどう影響するのかも知らずに。

 

 「こ、こんにちは。竹永秋たけながあきといいます」

 

 「伊野森いのもりです」

 

 といったなんの変哲もない挨拶が僕とイモ子のファーストインパクト。

 

 でもなんで今こんなに話せていられるか我ながら不思議です。




【なぜかカラオケ】


ある日の事。

 

「なぁモブにノブ、明日の映画とカラオケ何時に集合してく」


 じめっとした暑さが嫌なこの時期、好きな作品が上映中なので見に行こうと前々から話をしていた。

 今日は金曜、明日朝一で行く予定である。

 授業後教室でのんびりしながら時間を決めていた。

 

 「ごめーん明日部活どうしても休めそうにないわ」


 モブはテニス部に入るガチガチの運動部。

 まぁ大会とか近いし仕方ないか。

 

 「おけー、じゃあノブどうする」


 「あぁああ、そういえば俺も明日用事あるわ」

 

 ノブは週一しかない文化部だし部活はないはず。

 バイトもないし怠いからといってすっぽかすような奴ではないはず。

 

 「は、モブは仕方ないとしてノブはそんな忙しくないだろ。彼女でもできたかおいおい。」

 

 気の知れた仲が相手だと饒舌になるのが僕。

 

 「ほんとごめん。またジュースでも奢るからよ、なっな」


 申し訳なさそうに頭まで下げて奢る宣言、ますます怪しいがここまでするならしかたない。

 クックック、奢るの忘れないからな。

 

 「もういいよー、奢てもらうの楽しみにしとくわ」

 

 「ノブ、もちろん俺もだよな」

 

 「おおいいぜいいぜ、モブも奢ってやりゃ」

 

 自棄気味なノブをからかいながらもこの後に楽しく話し込んだ。

 

 モブは部活に、ノブは野暮用で先に帰り一人さみしい帰路に着く。

 じめじめして暑くてほんとこの時期は嫌だな。

 ズボンは蒸れるしで夏用ズボン作れよまじで。

 暑さにイラつきながら結局明日は一人かと思うとちょっとだけ寂しく思えいながら歩いた

 『ブーブー』

 その時スマホが通知を知らせる。

 『イモ子:ぼっちのタケ君、明日は8時に駅でいいですか』

 いきなりのイモ子からのメッセージ、戸惑い百パーセントでひとまず邪魔にならないように歩道の隅に行きスマホとにらめっこをする。

 『タケ:何言ってんだ』

 『イモ子:最近は体の調子がいいので、たまには外出はと思いまして』

 そういえばイモ子は今のようなじめっとした方が好きだという変わったところがある。

 『イモ子:結局一人みたいなのでどうかと』

 さっきのモブ達の聞いたのか。

 『タケ:おういいぜ、じゃあ明日8時駅な』

 何故いいなんて言ったか自分でもよくわからなかった。

 男子じゃなくて女子だぞ、そう意識がなくてもこれはデート。

 リア充がネタ的に嫌いな僕がこの状況を了承するわけがないのは当たり前。

 ただ、

 『イモ子:はい、お願いします』

 公式アカウントのメッセージだらけの一番上にちゃんと会話の履歴が来たのがうれしかった。

 孤独には勝てないのかもしれない。



 次の日、十分前に集合場所の駅に行くといつも通り前髪隠しで私服のイモ子さんがいた。

 裾口の長いダボっとしたTシャツにひざ丈ほどのスカートで気だるげな雰囲気で彼女に凄く合っている。

 口下手なためそんなこと口に出せるはずもなく、足早に映画館に向かった。

 

 映画といったらポップコーンにジュースだと僕は思う。

 ガチガチのバトルアニメの劇場版、公開から数週間かは経っているため比較的すいており中央付近を指定できた。

 そしてお決まりセットを販売所で買いトイレを済ませ劇場へと入る。

 ちなみにここまでで会話という会話はしてない。

 「映画何見るの」や「食べ物何買う」くらいのものだけ。

 彼氏彼女の関係ならば明日には愛想疲れて別れてしまだろう。

 まぁ、しいてこの関係を言えば友達みたいなもんだから大丈夫だろ。

 色々考えが頭をよぎっていたがすぐに映画のことで頭が一杯になって自分の世界へとのめり込んでしまったのだった。

 

 「あのシーン作画とかやばかったよな。すげぇえよな」

 

 映画視聴後、予想以上の出来にテンションアゲアゲの僕は饒舌に話しかけていた。

 

 「うん、すごいぬるぬる動いていた」


 「だろだろやっぱ力入ってるは。二週目も今度行こうぜ」

 

 「わかった」


 さらっとお誘いをしているがイモ子の方も映画が面白かったのかそれ以外か楽しのかご満悦な様子。

 そのまま次なる第二のイベント、カラオケへと向かった。

 

 個室で男女一人づつ何かあってもおかしくない。

 思春期真っ盛りの高校生とあらば可能性も一気に上がる。

 何がとは言いまい。


 「次、次、何歌う」


 大変楽しんでおりました。

 まずはじめ食べ物を頼み、お互い無言のまま曲選びをしていた。

 頼んだものが来たらひとまず一曲好きな曲を歌ってみようとマイクを持つ。

 実はちょっと緊張してる。

 

 「あーあーっと」


そして歌い終えた後、緊張というたがが外れ次へ次へと曲を入れていく。

 内心は思う存分声を出してスッかとしている。

イモ子はというと笑っていた。


 「タケ君って、、ほんと、面白いね」


 彼女も一曲入れてきた。

 数曲後、挟み込まれた彼女の曲が始まる。

 暗ーい曲の始まりであった。

 

 「イモ子って雰囲気通りに暗い曲を歌うよな」

 

 暗く始まった曲は確かグロアニメとして有名なやつのオープニング。

 いつもの特有の掠れ声だと思ったら高音をきれいに出して正直聞き惚れていた。

 

 「でも歌、うまいな」


 「うん、、たまに一人でカラオケ行くから、、、、」


 それからかなりの数歌いまくったと思う。

 まだ1時間以上は部屋を取ってある時間があるのでまだまだ。

 そう思っていたのだが。

 

 「前髪、邪魔」


 出会ってから初めて彼女は前髪を除けた。

 黒のピンで留めたのだ。

 ニキビ、肌真っ赤で酷いのかなと一瞬視線を向けたら釘付けになってしまい目が離せない。

 暗い奴これがイモ子の印象の九割がたを占めていた。 

 残りの一割、彼女の顔をよく見ると口元とか輪郭とかは美人ぽい気がしないでもない。

しかし圧倒的に 暗い奴という印象がすべてだ。

 今すべてが見えて分かったこと、美人。

 隠れていた二重の黒目が出て彼女は美人となっていた。

 固まっていた僕を訝しむようにこちらを見てきてやがて納得してように頷き小悪魔的笑みを浮かべる。


 「私の顔、、初めてだね、、、見惚れてる、くす」


 やたら映える姿に急に冷める気がした。

 こっちはフツメン、もしくはブスメン。

 対して彼女は万人受けする美人ときたもんだ。

 

 「見惚れてねーわ、さぁさぁもっと歌おうぜ」


 心の中に生まれ落ちた暗い感情をしまい込み誤魔化すように歌った。

 こちとらラブコメを何作も読んできている身、同じような展開は知っている。

 だからか今この瞬間に昔読んだものから最近のまで様々なラブコメの設定が思い浮かんできて気持ちは余計に冷めていく。


 それから時間はすぐ過ぎて解散となった。

 

 「今日は、楽しかった。また、、遊ぼう」


 「ああ、そうだな」

 

 適当な返事に彼女は一瞬寂しそうな顔をしていた。

それを見逃さない僕ではない。

 

 「そうだな。また二週目も行くって言ったしな、カラオケもまた行こうぜ」


 次に続いた言葉に嬉しそうな顔に変わる。

 よかった、僕と彼女は友達なのだ。

 いいじゃないか遊ぶのだって。


 「うん、、また」

 

 「今日はありがとな、ほんと楽しかったわ」


 「大丈夫、、、私も楽しかった」


 そうして僕とイモ子はそれぞれ帰路に着いた。

 

 真っ黒な髪の下にはニキビではなく真っ赤な嘘が隠れていた。


 

 

 

 

  

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕とイモ子さん まさゑ @mamekuro0110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ