【43】不思議な水晶の力。

「お帰りなさい。ホワイス」

「ただいま! あ、イローナ来てたんだ!」


相変わらず元気な様子で姿を見せたホワイス。気のせいだろうか少し背が伸びたようにも見える。


「あれ、ビリーフもいたんだ」

「『いたんだ』とはなんだ。ほら、王様からの本を届けにきたんだぞ」

「え、わぁーありがとう!」


机の上に積まれた本を見て、ホワイスは両手を挙げて喜んだ。相変わらず元気な姿に思わず笑みがこぼれる。それはイローナやクレイスも一緒だった。


「あ、そうだ。ビリーフに良いものあげる」


ホワイスはそう言って、持っていた手提げ籠から丸いガラス玉を渡してきた。


「ありがとう。でも、これは?」


ガラス玉は透明で透き通っており、無作為に光りを反射している。


「それは、魔法の力を込めた水晶だよ。ホワイスの大切な人にあげてるの」

「ということは、イローナも持ってるのか?」

「ええ、だいぶ前に貰ったわ。それ、すごいのよ」


すごいと言われても、もう大抵のことじゃ驚かない。俺はこの目で魔法の力をずいぶんと目にしてきた。何もないところから火を出したり、姿形を全くの別人に変身したり。人をパンと交換したりもできるのだ。この水晶にいったいどんな力が込められていようと、俺は驚かない。


「その水晶を持ちながら、何か願ってみて」


ホワイスにそう言われて、俺は考えた。

いきなり願えと言われてもすぐには思いつかない。それに何でも願いが叶うそんな魔法なんてあったら末恐ろしい。魔法にもいくらか制限がある。それは以前にも聞いていた。

それなら何を願えばいい。願ったところでそれが叶うとは、ホワイスはまだ何も言っていないのだから、適当に簡単なことを願えばいい。


――イローナが、俺に優しくなりますように。


ふとイローナと目線が合い。それはそう願ってみた。

すると、水晶の中に白い波紋が広がったかと思うと、複雑に渦を巻きだした。そして徐々にその渦に色が白から赤、赤から青と色を変えていく。いくつかの色が混ざり重なり合い渦は激しさを増す。水晶を持つ手に、その動きの振動が伝わってこないのが不思議だった。

それからしばらくして徐々に動きが遅くなり、最終的に水晶は綺麗な虹色の状態で光を反射しだした。


「スゴイ! スゴイよ!」


目を丸くしてホワイスが俺の持つ水晶を見つめる。いったい何がスゴイのか俺にはよくわからない。

イローナの方を見つめると、イローナも驚いている様子だった。俺が説明を求めようとするよりも先に、イローナが聞いてきた。


「ねえ、ビリーフ。あんた何を願ったの?」

「は? 教える訳ないだろ」

「これね、願ったことが叶ったときに虹色に光るの。普段は2色とか3色とかで、絶対叶わないような願いのときは、真っ黒になっちゃう。だから、ビリーフの願い、もう叶ってるってことだよ!」


なぜか自分のことのように嬉しそうなホワイス。それを見て、なんだか照れくさくなった。


「私も何を願ったのか気になりますね」


俺たちの様子をずっと眺めていたクレイスさえも、今は俺の味方ではなかった。


「ねえ、ほら、正直に言いなさいよ。どうせ大したことじゃないんだから、隠す必要なんてないでしょ」


少しずつ詰め寄ってくるイローナ。本当に願いが叶っているのだろうかと、俺はこの水晶の力を疑いたくなる。

そしてイローナの圧に負け、正直に話そうとした時だった。ふとイローナが小さく呟く。


「……まあ、いっか。あんたのことだからだいたい想像が付くし」

「想像が付くって、いいかげんな」

「あら、やっぱりお二人は仲が良いのね」


クレイスの言葉に、間髪入れずに俺とイローナは同時につっこんだ。


『そんなことないです!』


思わず声がそろったので、イローナと顔を向き合わせる。なぜか頬を赤らめるイローナ。そしてぷいっとそっぽを向いた。その様子を見たクレイスが声を出して笑った。その笑いにつられホワイスもイローナも、そして俺も笑いが抑えきれなかった。

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