【29】『魔法の国』

魔法まほうの国』 著 デケム


 これはとおいとおいお国のお話。

 その国は皆、魔法まほうというとくべつな力をつかう人々がくらす国でした。国の名前はペポランド。ペポランドの人々は皆、魔法をつかってお空をとんだり、ものを動かしたりして自由にくらしていました。

 そんな国をおさめる王さまも、とうぜん魔法つかいです。とてもつよく、人々があこがれるすばらしい魔法つかいでした。そんな王さまの耳に、ある知らせがまいこんできました。

人間ひとの子どもが生まれた”というのです。

 ペポランドの子どもたちは、生まれてすぐに魔法がつかえる、というわけではありません。生まれた時は人間の子どもと同じように育ち、五さいをむかえた時にあるぎしきをするのでした。それは魔法つかいとしての才知さいちをしるため、大人たちが子どもに魔法をかけてはんだんするのです。つよい力を使う魔法の才知なら魔法をはね返し、きずをいやす力にけているなら魔法を吸収きゅうしゅうする。自我じががめばえた子どもが、親のことばを聞かずに自分でこうどうすることが大切たいせつなのでした。

 その日も、五さいの誕生日たんじょうびをむかえた少年がぎ式をうけました。しかし少年は魔法をはね返したり吸収したりせず、魔法をうけてたおれてしまったのです。

 いのちはたすかりましたが、まわりの大人たちは心配しんぱいをするどころかさわぎだします。なぜならこのペポランドは、人間が住むことをゆるされていなかったからでした。

 国を出る時は他国とのあらそいがある時ぐらいです。それ以外ペポランドの魔法つかいたちが国の外にでること、つまり人間とかかわることなどありえないのです。

 少年とその父親ちちおやは、すぐに王さまの前へとつれていかれました。王さまの目の前に立った少年の父親は王さまに言います。

「王さま、これは何かのまちがいです! きっと息子はびょうきか何かにかかっており、うまく自分の魔法がつかえなかったのです。そ、そう、元々この子は昔からびょうじゃくでした。だから今回もちょうしがわるくて」

 必死ひっしのうったえも、王さまは首をかしげます。

「びょうきなら、魔法でなおせるだろう。それにぎ式は万全ばんぜんのじょうたいでとりおこなうのがルール。それはお主たちもわかっておるだろう」

 王さまのことばに、りょうしんは返すことばがありません。

 すると、りょうしんにかかえられていた少年がひとりで王さまの前へとむかい言いました。

「ボクは、魔法つかいです。ほら、こうやってができるから」

 少年にとって、ペポランドの王さまと会うのはこれがはじめてです。よく見ると、少しふるえているようにも見えます。それでも王さまの前で、どうどうと自分が魔法つかいであると言うその姿に、王さまはあっけにとられてしまいました。

「キミ、どうして人間のふりをしたんだい?」

 人間は魔法つかいにとって、さけてきたそんざい。その人間のふりをした理由を、王さまはじゅんすいに気になって聞いたのです。すると少年は答えます。

「人間がなにを考えているのか、気になったんです」

「ほう、それで何かわかったかい」

「はい。人間はきっとなんです」

「さみしがり屋?」

「だって魔法がつかえないんじゃ、つまらないでしょ」

 少年のことばに、王さまはハハハッと大きな声を出してわらいました。そして言いました。

「おもしろい。この親子をかいほうしよう。もう家にかえっていいぞ」

 親子はそのまま家にかえり、少年は魔法つかいとしてみとめられたのです。その後王さまの側近そっきんが、王さまにたずねました。

「どうして、あの少年を魔法つかいと認められたのですか?」

 そのことばに、王さまはこう答えました。

「わたしたちは、魔法がつかえないということを考えたことすらない。少年はそれを教えてくれた。だってな。だからあの少年は魔法つかいだよ。わたしの心に魔法をかけてくれらからな」

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