【13】仲間を思う気持ちとは。
ジリリリン。
唐突に店のカウンターに置かれていた電話機が鳴りだした。モラーリは小さくため息をついてから受話器を取る。
「あいよ。……うん、…………ああ、それなら明日にしてもらえないか。今ちょっと忙しいんでね。……えっ、あんだよ。……わかったよ。今から行くから」
ガチャンと乱暴に受話器を置いたモラーリは、今度は大きくため息をついた。
「悪いな、これから出かける用事ができた。三人とももう用は済んだろうか帰ってもらえないか」
「それなら仕方ないわね。行きましょうビリーフ」
「ああ」
「ホワイスもおいで」
「えー」
俺たちが情報の取引をしている間、ホワイスは店の中の薬草が入った瓶を手にとっては眺め、臭いをかいだり実際に手に触れていたりしていた。モラーリが何も注意をしなかったところをみると、店内で飾られている薬草にそれ程価値はないのだろう。それにしても、イローナの話では、一度瓶を落として割ってしまっているのにも関わらず、単に好奇心旺盛なのか、はたまた無頓着なのか、ホワイスは薬草に興味津々だった。店を出ることを渋った様子から見て、まだ薬草を見ていたかったのだろう。
「何か面白いものでもあったの?」
さすがのイローナも気づいていて、ホワイスに声をかけた。
「うん。また今度来た時に買ってみる」
「薬草って、そんなに珍しいのか?」
俺はふとした疑問を聞いてみた。
「そうだよ。だって薬草って自然にできるし、ホワイスの魔法じゃ作れないし、それで傷とか病気とか治せちゃうんだよ」
魔法を使えるホワイスにとって、自然に生えている草や花は魅力的に映るのだろう。
人間たちにとっても花は心を癒やし、草は体を癒やしてくれる。この世に欠かせない物。ホワイスたちが使う魔法も、人間たちを癒やす力となるならば、それは最もかけがえのないものとなるはず。そんな時代はいつか訪れるのだろうか。
「これからどうする?」
外はもう星空が覗いている。ホワイスも少し眠たそうだった。
「今日はこの町で宿を探して、一晩過ごしましょう。明日は彼女に会いに行こうと思う」
「彼女?」
「ええ、ビリーフが会いたがってた子よ」
イローナの言葉で思い出した。俺が最初に事件を解決するために会って話を聞こうとした人物。それはレン王子の遺体を発見した第一発見者のメイドだ。
そのメイドの名前はグレメル。レイズ城でメイドとして働いて約一年ほどの経験がある。とはいえ、最初の一年間は花嫁修業のようにそのほとんどをメイドとしての教育を受けさせられ、その教育でメイド長から認められた者だけが、実際に王族のメイドとして働くことができるらしい。
――彼女はね、結構優秀だったのよ。あたしもそんな彼女のことを信頼していたし、頼もしい後輩が入ってきたって思ってたから、正直今回の事は不運でしかないわ。
城下町で見つけた宿の一室で、寝息を立てるホワイスの横で、イローナは声を潜めてそう話した。その悲しげな表情は、俺も初めて見るものだった。
レン王子のメイドは全部で九人ほどいて、三人ずつが日替わりの交代制でお世話をしていた。それぞれが主な役割分担をしており、一人がレン王子の身の回りの世話。もう一人は、体調やスケジュールなどの管理。そして最後の一人が買い出しやレン王子の急な頼み事を請け負うつまりは何でも屋。イローナの担当は、この何でも屋に位置する。そしてグレメルは、レン王子の身の回りの世話を勤めていた。
当然、この役回りは効率を重視して考えられたそうなのだが、王子のメイドとして基本的には何でも熟す。そしてなによりレン王子を慕う“心”が大切とイローナは語っていた。
イローナとは違う組ではあったが、同じレン王子に仕えるメイドとして、他のメイド達よりは交流は深い。そんなグレメルのことをイローナはとても心配しているようだった。
現在グレメルは
しかし、当初はあれだけ会わせようとしなかったメイド仲間を、どうして今になって自ら会おうと言い出したのか。俺にはその心理を図ることが難しく、イローナに直接聞くこともできないまま翌朝を迎えていた。
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