EP18-7 青と橙の競演
アーガシュニラの口腔が熱と光を帯びて赤く染まってゆく――。その眼前に展開される無数の赤い魔法陣。
ジュデーガナン、そしてその後方に続くガルジナのパイロット達は
「カノン砲か?! ――来るぞ、各機散開!」
予測される射線上から一斉に散らばる帝国兵。しかしそんなことはお構いなしに、黒竜の口から最大出力のビームが、魔法陣を薙ぎ払うように吐き出された。魔法のフィルターを通ったそれはシャワーのように広範囲に拡散すると、途中で1本1本が自由に軌道を変えて帝国軍に襲い掛かった。
「こんな兵器は――うわぁぁぁッ!」
想定外の光の乱舞、為す術も無く穿かれ爆散していくガルジナとジュデーガナン、そして破壊の光線は遥か後方のステーションにまで及んだ。宙域の闇はそれらの無数の爆発によって、イベントのフィナーレを飾る花火の如く、一時の儚い明るさに照らし出された。
「………………」
リ・オオもタウ・ソクもアグ・ノモも、その凄絶な光景に言葉を失うばかりであった。ガァラムはたった1度のその攻撃で、帝都を護る帝国の防衛部隊を潰滅させてみせたのである。
アグ・ノモは茫然としながら、ビームカノンの熱をクールダウンして次の攻撃を準備しているアーガシュニラの後ろ姿を見る。
(何だあのデタラメな火力は……アーガシュニラにあんな装備は無かったはずだ)
ある程度は事情を知るタウ・ソクですら、想像を遥かに超えた規制官の力に吃驚していた。
(あれが異世界の――規制官ってヤツの力だっていうのかよ……。あんなものが存在するなら、僕らの戦いは――)
自身も転移者ではあるものの、その桁違いの能力差に釈然としない表情を浮かべるタウ・ソク。しかしそんな思慮に耽る暇も与えず、レーダーは敵の反応を告げる電子音を発した。
『帝都から増援が上がってきます!
信号とともにオペレーターが告げた数は、本土防衛に相応しい圧倒的な戦力であった。大気と重力の楔を断ち切って上昇してきた艦隊は、次々と機甲巨人を吐き出して、一糸乱れぬ動きで三次元の
「これが本隊か……」とタウ・ソク。
そこにバタンガナンからアグ・ノモの通信。
『ヴィローシナ、彼らばかりに任せてはおけん。私が先に行く、援護を頼む』
そう言ってバタンガナンは両手にビームハンドガンを携えると、一気に加速して流星の人となった。
「アグ・ノモ!(よくもぬけぬけと――!)」
すぐさまその後を追うヴィローシナ。それを見たコタ・ニアも迷わず支持を出す。
「ビャッカ隊、彼らに続きます!」
コタ・ニアを筆頭にビャッカもそれぞれが、先行するバタンガナンとヴィローシナに続いて虹の粒子を巻き上げる。そしてインダルテのリ・オオ。
「本艦も突入します! 艦軸垂直、防御角のまま全速前進!」
インダルテが艦首を上に、艦尾を下に向けて垂直になり、分厚く頑強な斥力装甲に守られた船底を敵軍に向けて進み始めた。
***
帝都ゼド中枢部――超大な金属のピラミッドである金皇宮は、政治的には至高のモニュメントであれど、軍事的機能は殆ど持たない。だがそれはこの建物に限った事ではなく、周辺に剣山の如く並び立つ細長い
惑星の外には、1基で小規模な艦隊に匹敵する火力を持つ迎撃衛星バージラが無数に配置され監視の網を張っている。そして他の惑星を丸々焦土と化すことが可能なほどの圧倒的な戦力が、常に
そんな無謀な試みを誰が為せようか――帝都に住む者達の共通の認識はそれであり、永らくその認識を覆す者など存在しなかった。
しかしそれが今正に、神にも斉しき力を持つ二人の規制官とそれに続く解放軍によって、改められようとしていた――。
金皇宮の尖端にある、無機質な壁と調度品に囲まれた鈍い金色の部屋。皇帝グス・デンの私室。
「なんとかここまでは来られたようだね。彼らの力なら当然、と云えば当然だけど」
そう言うのは、美しき黒髪の少年メベド。彼の言葉に応えるのは、機械の仮面を被り、聖職者の様な長衣を纏った老人――グス・デン。
「どうするつもりかね? 規制官二人が相手では、亜世界の戦力などいくら注ぎ込んだところで無駄になるだろう。……散りゆく者達の魂に、神の祝福のあらんことを――」
その声は機械に加工された不気味なものであったが、彼自身は人間らしい感情を隠す様子も無く、胸の前で静かに十字を切った。するとメベド。
「場合によっては、『界変』に巻き込まれるより今の内に亜世界で死んでおいた方がいい、なんてこともあり得るけど――まあ、そうだね。彼らが迷わずここに来たということは、少なくとも僕らが
そう言ったメベドの右眼は、元素デバイスの青い光をぼんやりと放つ。そして宇宙で激戦を繰り広げる規制官の頭の中へ、その声を届けた。
***
ガルジナやジンノウが放つビームの乱舞を掻い潜るビャッカ改は、輝く髪の毛から謎の粒子を撒き散らし、敵の機体の傍を通り抜けただけでその機能を
アーガシュニラは鋭い爪で敵を斬り裂き、捕まえたガルジナを使い捨ての盾の如く振り回しながら、口腔カノンを小刻みに連射する。その都度拡散するビームは、もれなく数十体の帝国兵を撃墜していった。
それでもまだ半数近くが残る帝国軍の砲火に、ヴィローシナとバタンガナン、そしてビャッカの部隊は、押されつつも辛うじて戦線を維持している。
「くそッ! キリがない!」とタウ・ソク。
焦る彼の動きを見て取ったアグ・ノモが、激戦の最中とは思えぬ落ち着いた様子で言う。
「落ち着け、タウ・ソク。相手の配置を利用して射線を遮れば、敵の物量は仇にもなる」
「解っているよ!」
宿敵からの的確なアドバイスに苛立ちを見せるタウ・ソク。その後ろから、必中のタイミングでヴィローシナを捉えたジンノウのビーム。
「しまっ――!」
そこへ割り込んだバタンガナンが、装甲で反射させたビー厶をそのジンノウに返して撃墜。
「
という助言を体現するかのように、アグ・ノモは真後ろのガルジナを、目もくれずに撃ち落としてみせた。
「コイツ……(エラそうに――)」とタウ・ソクは、素直にその技量を認められず悔しさを滲ませる。
しかしいざ共に戦ってみると――規制官の二人は別として、これほど心強い味方はいないとも思えるのである。それは彼以上に、コタ・ニアやマユ・トゥもひしひしと感じていた。
破格の4人の邪魔にならぬよう、インダルテの護衛に回り援護に徹するビャッカ達――。
「ヴィローシナとバタンガナン……息がピッタリですね」
マユ・トゥが呆れる様な感動の言葉を洩らすと、コタ・ニアがそれに同意した。
「幾度となく戦ったライバルとして、誰よりもお互いの動きを熟知しているのでしょう」
その台詞通り、遠目に見るヴィローシナとバタンガナンは長年の相棒であるかのように、完璧に動きを合わせて戦場を翔けていた。
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