EP15-7 戦わない理由
ジュデーガナンが放つ大口径のビームカノンが、射線上のビャッカ達を融かした。装甲板の斥力を容易に上回るその暴力的な光は、標的を貫通した先の地平線に2個目のキノコ雲を作る。
「将軍! これ以上のビームは――!」と、ジンノウに乗るタナ・ガン。
「解っている。……あの初弾を躱すとは――蒼海の死神とやら、機体に頼っている訳ではなさそうだな?」
コックピットで感心するザ・ブロ。濃紺のヘルメットを被った彼は武骨な髭面の、将軍らしい風格を備えた50代。目が細く強面だが、その瞳に冷淡さは無く、情に厚そうな雰囲気が漂う男である。
「アグ・ノモは、パイロットが並ではないと」
「なるほど――ならば尚更、ここで落としておくべきだ。その誉れはこのジュデーガナンが受ける!」
エネルギー切れのカノン砲を投げ捨て、腰の両脇の
「タナ・ガン、貴様は
「了解しました!」
「俺は――」
地表近くを飛ぶジュデーガナンは左右の剣を両肩に担ぐ様に構える。
「
ジュデーガナンの
「来る!」とタウ・ソク。
ジュデーガナンは
「くっ――!」
交差して過ぎ去ると同時に身を翻したジュデーガナン――急制動をかけるスラスターが砂煙を巻き上げる。そしてすぐさま再突進し、斜め下から右剣を振り上げると、ヴィローシナは飛び上がりつつ膝の装甲でそれを防いだ。しかし勢いは強く、完全に体勢を崩される。
「この出力――バタンガナン以上か!」
タウ・ソクは驚きつつも、出力を最小限に抑えたライフルを足下に撃ち込んだ。弾ける地面と爆炎――それを目くらましに使って、続くジュデーガナンの斬撃を既のところで躱し、後方に大きく距離を取るヴィローシナ。
「やるな、青いの!」
ジュデーガナンは股下のスラスターと姿勢制御用のバーニアから、轟々と推進剤を噴き出しながら、数メートル程の高さで
(脚が無ければ、小回りは利かないはずだが)とタウ・ソク。
2刀を身体の前で交差し、急加速して突っ込んでくるジュデーガナンを、ヴィローシナは闘牛士の如く半身に避けながら、すれ違いざまに袈裟斬り――しかし肩の装甲に弾かれる。
「くっ……(――装甲が大きい。剣を通せる隙間が無い!)」
突進を避けられたジュデーガナンが、グルリと反転して再度向かってくる。飛び退いて躱しつつも、ヴィローシナの振るう剣は届かない。ジュデーガナンの巨体と突進力、そして分厚く大きな装甲に、タウ・ソクは攻撃を辛うじて捌くことしか出来なかった。
それを見守る他のビャッカ達は、高速で繰り返される激しい攻防に割り込む隙を見い出せない。と云うよりも、ヴィローシナすら苦戦する相手に迂闊に手を出せば、貴重な機甲巨人を失うだけであることは容易に想像出来たのである。
隙あらばと様子を伺うヴィローシナの動きを見て、ザ・ブロは鼻で笑った。
「フン。なるほど……確かに技術は大したものだ。だが逃げてばかりでは――このジュデーガナンには勝てんぞ!」
迫るジュデーガナンを避けたヴィローシナは、敵の反転のタイミングに合わせて斬り込む――その攻撃を右剣で受けたジュデーガナンが、即座に左剣で反撃。
「――!!」
ヴィローシナは飛んだが回避が間に合わず、右の足首を斬り落とされた――着地際に体勢が崩れ、片膝を突く。
「その脚ではもう逃げ切れまい!」
ジュデーガナンはヴィローシナを正面から見据えて、剣を構えた。
***
一方、無謀にも
「なんて動きをする奴! このパイロット、本当に人間かっ?!」
タナ・ガンがそう漏らすのも無理はなかった。それほどにビャッカ改の動きは人間離れしていたのである。
――機甲巨人は人間を模しているとは云え、その関節の可動域は普通の人間よりも遥かに広い。また自動制御のバランサーを搭載している為、かなり無茶な姿勢であっても倒れることはない。だが実際には、乗り込むパイロットが人間として感覚を同調させて操作している以上、その動きは無意識に、常識的な範囲で抑えられてしまう。
例えば背後からの攻撃を腕だけ180度回転させて防げ、などと言われたところで、普通の人間は
しかし操縦を元素デバイスの
ビャッカ改は、ジンノウの前蹴りを腰の部分だけ横にずらして躱す。横薙ぎに対して上体を地面と水平に反らして透かす。その状態で更に上半身を捻って、盾を叩き付けようと振り下ろされた腕も擦り抜けた。
「この――っ!」
ジンノウが剣を振ろうが、突こうが、殴ろうが、蹴ろうが――ヌルヌルと気味の悪い動きで回避するビャッカ改。しかしジンノウの動きがいくら隙を生んだところで、アマ・ラには反撃する意思が無かった。そしてそれは当然、面と向かうタナ・ガンにも感じ取れた。
「ふざけやがって――何故攻撃してこない?!」
それはこのバハドゥに来る途中、インダルテの中でタウ・ソクにも問われたことであった。
***
「――なんでアマ・ラは敵を攻撃しないんだ? それだけの腕があるなら、僕よりも多くの敵を墜とせるだろうに……」とタウ・ソク。
「そんなん決まってるだろ、敵じゃねーからだよ」とアマ・ラ。
「敵じゃ――ない? ……相手にならないってことか?」
「まあそれもそうだけどさ。――お前も俺も転移者だけど、俺はお前と違ってこの亜世界に住んでるわけじゃねーんだよ。俺の仕事は、あくまでお前を護るってだけ」
「護るっていうのは、その――例のテロリストから?」
「そーそー。まあ実際には、
「部外者――」
「ああ。だからさ、別に俺は解放軍の味方ってワケじゃねーし、帝国軍が俺の敵ってワケでもないのよ。
「…………。でも、
「そりゃ別に構わねーよ。攻撃でも何でもすりゃいいさ、俺
「うん?」
「俺、壊すのって嫌なんだよ。――機械とかロボットとかってさ、役目があって産まれてきたんだ。だからその為に一生懸命生きてる。壊される為に産まれてきたんじゃない。そういうところは人間だってロボットだって同じだろ?」
「まあ……そうかもしれないけど」
「お前はそういうの無えの? 自分が殺されんのって嫌じゃない?」
「それは当然、嫌だな。志半ばで死ぬのは」
「だろ? 自分がされて嫌なことを
――それが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます