EP15-6 迫る強敵

 アマ・ラのイヤホンに「ご無事ですか!? 隊長!」との声。


「おー、第2中隊お前ら。ご苦労さん」


 コンテナから脚が生えて着陸すると、間もなくその上部から側面までの壁が開く。中には仰向けになった赤い巨人ビャッカ改

 仲間が周囲を警戒している間に、副隊長の乗るビャッカがアマ・ラに手を差し出し、彼女がその手の平に飛び乗ると、徐に彼女をビャッカ改のコックピットへと運ぶ。

 颯爽と乗り込んだアマ・ラの右眼が青く光り、元素デバイスを経由した脳波信号でビャッカ改が起動を始める。コンテナからズシンと重々しく起ち上がったビャッカ改の、赤い髪の毛が靡く。


「やること残ってんのかぁ?」


 アマ・ラが独り言をぼやくと、何処からともなくAEODアイオードが返事をした。


[この作戦における解放軍のパイロットとしての役割はほとんど残っておりません。……規制官としての捜査という意味であれば、ほとんど進んでおりませんが]


[――後者はそりゃ解ってるよ]


 アイオードの容赦無い指摘に、アマ・ラは口を尖らせて不満の表情を見せて言う。


「でもとりあえず今は――解放軍こっちだろ」



 ***



 最初の防衛施設制圧、そして戦略基地への襲撃の報は、当然市街地の統括本部やアグ・ノモにも知らされていた。――本部の地下通路を通り、足早にシャトルの発着場へと向かうアグ・ノモ。


(あの男の予想が当たったとは云え、解放軍の動きがこうも速いとは。水際のつもりで中継基地ステーションにバタンガナンを残したのは裏目に出たか。しかし――)


「アグ・ノモ!」


 とその後ろから、息を切らせてタナ・ガンが追いかけてきて、彼の横に並ぶと歩調を合わせた。


「どこへ行くんだ? 奴らはまだ戦略基地に――」


「だからだよ。解放軍奴らの艦はまだ宇宙にいる。ステーションにあるバタンガナンで、それを叩く」


「そんなことをしていては基地が潰滅してしまうぞ」


「それはない」と言いつつ、アグ・ノモは足を早める。


「――奴らの目的は殲滅ではなく解放だ。一時的な占拠はあれど、無闇に施設を破壊したり、必要以上に殺したりすることはない。それをすれば解放という大義を失うことになる」


「では本部ここはどうなるのだ――?」


「機甲巨人の襲撃はないだろう。――真っ先に砲台と基地を狙ったということは、街の占拠が奴らの戦いにおいて、戦略的に重要でないと理解しているということだ。デコイをこちらへ誘導するように置いたのがその証拠――敵の諜報員は余程有能と見える」


 苦笑するアグ・ノモに対して「笑い事ではないぞ」とタナ・ガンがたしなめた。


「解放軍に先を越されたからには、こちらは後の先を取るしかあるまい。――タナ・ガン、君は地上ここで足止めを」


「ああ、それは勿論だが……こちらはザ・ブロ将軍も出られるそうだ。足止めなどと言わず、ここで殲滅してみせるさ」


「それは心強い――だが、解放軍の青い奴には気をつけろ。あれは並みのパイロットではない」


 そう言うアグ・ノモの声は少し重かった。


「青い奴――? 我々から奪ったヴィローシナとかいう新型か……。心配はいらん、こちらも量産機ガルジナばかりではないと教えてやる」


 お互いの行動方針が明確になったところで、タナ・ガンは足を止めてアグ・ノモを見送った。


 やがて市街地に隣接する発着場から、アグ・ノモが乗ったシャトルが大気圏外にあるステーションへと飛び立つ。――その窓からは、市街地から勇躍基地へと急行する2機の機甲巨人の姿が見えた。


(……無茶はしてくれるなよ、タナ・ガン)


 友人をそう気遣いつつも、アグ・ノモの眼はその先の宇宙へと向けられていた。



 ***



「これで一通りは片付いたか……」とタウ・ソク。


 剣を装甲の裏にしまい、周囲を見渡すヴィローシナ。

 解放軍の手によって爆散した機体は1機もなく、基地の至るところに、フレームの関節を破壊されて無力化したガルジナが転がっていた。

 建物に関しては寧ろ帝国軍の無闇なビーム攻撃による被害の方が甚大で、所々で上がる火煙の対処をビャッカがする破目になっていた。


(アグ・ノモは、来ないのか――?)


 想像以上の帝国軍の弱さと宿敵の不在で、正直なところ彼らは肩を透かされた思いであった。


「お疲れい」と、真紅のビャッカがそこへ歩み寄る。


「お疲れ様、アマ・ラ。お陰でスムーズに進んだよ。デコイはいい配置だった」


「この様子じゃ、普通に正面からやってもいけそうだったけどなー」


「確かに、ちょっと拍子抜けだったな……」


 一息吐いたタウ・ソクが「そういえば」と、アマ・ラへの疑問を思い出した。


「――報告にあった、公園がどうこうというのはどういう意味だったんだ? アグ・ノモと会ったんだろう?」


「ああ、会ったよ。――どういう意味って、そのまんまの意味だけど? デコイ積んだバッグが壊れたからアグ・ノモあいつに運んでもらって、帝国の整備場で道具借りて直したんだ。んでそのあと、公園でジェラート奢ってくれたから、二人で食べてた」


「…………は?」


 アマ・ラが話す内容を、タウ・ソクは俄には理解し得なかった。


「アイツ、お前が言うほど、悪い奴じゃあ――」


 その時、機甲巨人のセンサーより速く、AEODアイオードが長距離ビームの発射を感知した――同時にその情報がアマ・ラへと伝わる。


「!」


 ビャッカ改がヴィローシナの腰の辺りを蹴り飛ばして離れると、二人の間――今しがたヴィローシナがあった場所を、極太の光の帯ビームが通り抜けた。水平に真っ直ぐと伸びた光が消えた後、その遥か遠い先で、空を染めるほどの巨大な爆発――。


「ビームカノン? 砲台か!? ――どこからだ?!」


 遅れて来た衝撃波が、機体はだをビリビリと揺らす。タウ・ソクが発射された方向を確認すると、そのビームの主は砲台ではなかった。ヴィローシナのレーダーには2つの機影――機甲巨人である。


「真打ち登場ってのかな? ありゃガルジナじゃねえな? デカいぞ」とアマ・ラ。


 するとAEODアイオードが即座に答える。


[帝国軍の識別コードを解析しました。大きい方の機体はジュデーガナン、パイロットはザ・ブロ将軍。もう1機はジンノウ、パイロットはタナ・ガン少佐とあります。先程の射撃はジュデーガナンからです]


 ――ジュデーガナンは緑色で、骨格も装甲もガルジナより一回り大きい。上半身は人型だが、腰から下には脚が付いておらず、代わりにハの字に開いた翼の様なパーツが生えていた。頭部を覆う装甲かぶとは二股に別れて、鬼の角か長い耳の様にも見える。そして巨体な四角柱形のビームカノンを両手で抱えていた。

 一方それに随従するジンノウは淡い緑。見た目はガルジナと大差ない人型だが、両肩の装甲が振り袖の様に斜め下に迫り出していて、その裏から長い銃身が突き出していた。


「解放軍め……! これ以上の勝手は、このザ・ブロがやらせん!」


 気迫とともに加速するジュデーガナンは、再度カノンの照準をヴィローシナに合わせた。

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