EP15-5 制圧戦

 施設のビーム砲台は機甲巨人の背丈の倍ほどもある大きさであり、これを剣だけで破壊するには、それなりの労力を伴うであろうと思われた。しかしビャッカは白く発光した剣を逆手に持つと、砲台そのものではなく接地部分から伸びた剥き出しのケーブルを、突き刺し、断ち斬った。それだけで砲台はエネルギーの供給を失い無力化された。

 これは作戦時間の節約とともに、占拠後にはケーブルを交換するだけで自陣の防衛力としてビーム砲台を使える、という利点も考えての行動であった。


「――C小隊、砲台破壊完了クリア


「B小隊、砲台クリア」


「D小隊、砲台クリア」


 各隊からの報告を受けながら、管制塔の目の前に着地したマユ・トゥのビャッカが、横から剣で襲い掛かってきたガルジナを、カウンター気味に蹴り飛ばす。倒れたそのガルジナに他のビャッカが剣を突き立てた。

 ――降下からここまでの所要時間は、僅か5分程度。施設の帝国軍が、歴戦の解放軍に比べれば素人同然とは云え、この作戦の遂行は正に電光石火であった。


「――よし。これで砲台は全て無力化したわね」


 マユ・トゥがビーム銃を取り出して、管制塔の窓に突きつけると、中の施設長官や管制官達が席を離れて両手を上げるのが見えた。



 ***



 2つ目の襲撃ポイント――切り立つ台地の上にある戦略基地を遠くに見る岩陰で、欠伸をしながら座って待っているアマ・ラ。その耳のイヤホンが、ピッと小さな音の後にマユ・トゥの声を届ける。


「――こちら3A1、迎撃施設の制圧完了しました」


「あいよー。こちら2A1、了解っと」


 アマ・ラは鼻歌交じりで手元の小さな黒い箱――アグ・ノモと別れた後に、市街地に仕掛けたバッグの中身ジャミングデコイのスイッチを入れる。

 ――何も知らぬ平和な街中では、公園の草むらや郊外の地面に埋められた器械のランプが赤く点灯した。



 ***



「緊急連絡! G35地区の対宙防衛施設が、解放軍の強襲を受けているもよう!」


 戦略基地内の司令室で兵士が叫んだ。


「なんだと?! 敵の数は――?!」


「4小隊――中隊規模と思われます!」


「多いな――緊急発進スクランブルだ、直ぐに増援を送れ!」


 険しい顔の司令官の命令で、基地の格納庫が一気に慌ただしくなる。しかし数機のガルジナの発進準備が整ったところで、更なる追報が混乱を呼んだ。


「レーダーに反応! 市街地とその周辺に、解放軍の識別信号! 機甲巨人8機です!」


「市街地に――?! どこから現れたんだ!?」


 無論これはアマ・ラが仕掛けた囮装置デコイの反応である。


「統括本部が落とされるわけにはいかん! ガルジナの半数は市街地に向かわせろ!」


 基地の格納庫から出撃するガルジナ達は、続々と二手に別れて飛んでいく――。その進行方向とは逆の大気圏そらには、タウ・ソクの乗るヴィローシナ率いる第1中隊。


「(マユ・トゥ、アマ・ラ……上手くやってくれたな)――第1中隊、突入開始します!」


 ヴィローシナを先頭に、白い反乱者達が一斉に降下を開始した。――紺碧の空から落ちる流星群。格納庫でガルジナの発進を誘導していた帝国兵士がそれを見上げて青褪めた。


「あれは――!」


 大気圏を抜けたヴィローシナとビャッカの群れが、凄まじい速さで基地へと向かってくる。


「敵襲! 敵襲ーっ!!」


 帝国軍の喧騒は一層増して、混乱の格納庫からは状況も理解出来ぬまま、ガルジナが次々と躍り出る。

 市街地への増援のつもりであったパイロットは、突然の強襲と基地全体に響き渡る警報に驚きたじろぐ。そして思わず巨大なビーム銃を空に向けた。


「待て!」という仲間の制止も聴かず、1体のガルジナが混乱と恐怖のあまりにビームを発射――閃光とともに空気を割る轟音が響く。


 それにつられて周りのガルジナも、無闇やたらと射撃を開始した。それに驚いたのはタウ・ソクの方であった。


「こいつら――基地の近くこんなところでビームを?!」


 ガルジナの放ったビームは当たり前のようにヴィローシナの装甲に弾かれ、付近の台地や地面に着弾すると、激しい爆風を巻き起こした。その爆発の振動が基地の司令塔にまで伝わり、司令官が怒鳴り散らす。


「やめろ、撃つな! 馬鹿者! 地上でビームを使うんじゃない!」


 しかし初めての実戦で迫り来る敵を目の前にした兵士達の恐怖は、その命令では抑えられなかった。弾かれた攻撃が周囲の大地を抉っても、新兵達彼らは躍起になって撃ち続けた。――たまたま装甲の間を擦り抜けた1本ビームが、ビャッカを1機撃墜してしまったことで、そのデメリットが勝ちすぎる攻撃を有効手段と誤認させてしまったのも、原因の一つであった。


「撃て撃て撃てー!」と、将官でも何でもない兵士が熱を帯びた声を上げて味方を煽る。


 ガルジナの集中砲火が、ヴィローシナ達を襲う。


「素人にしたって――場所を考えろよ!」とタウ・ソク。


 味方の被害よりも寧ろ基地への被害を案じたタウ・ソクが、「各機散開!」の指示。


 更に2機のビャッカが運悪くビームをフレームに掠らせて墜落したものの、それ以外のビャッカ達は数に任せた下手な鉄砲を避けながら着地し、足が止まったままのガルジナを剣で屠っていった。

 ヴィローシナは、何機かの実戦慣れした動きを見せるガルジナに目標を定めては、爆発的な加速でもってその敵に即座に斬り込む。ある程度経験を積んだパイロットと云えど、そのスピードに対処できる機体ものはいなかった。


「この青いの、なんて速――!」


 剣閃――崩れるガルジナ。ヴィローシナは相手の装甲板の僅かな隙間を精確に辿って、主となる関節を断ち斬っていく。剣を振り貫くと、その敵の停止を確認することもなく、また次の獲物へと弾かれた様に飛び去った。


「く、来るなぁぁぁ!」


 悲鳴を上げながら、至近距離でビームを撃とうしたガルジナの手を斬り上げて、返す刀で反対側の腕を斬り落とす。更にその隣にいた1機が横から薙いだ剣を、肩の装甲で受けて弾くと、仰け反って空いた腰の隙間に刃を刺し込んだ。


「つ、強過ぎる……」と、それを遠巻きに見る帝国兵士。


 ピンボールの如く跳び回るヴィローシナの動きに圧倒され、帝国軍の兵士は勝ち目無しと逃げ惑い始めた。



 ***



 アマ・ラは少し離れた岩の上に立って、その乱戦を少し物悲しい瞳で見つめていた。


「あーあ、酷え戦いだな……」


 解放軍の精鋭による一方的な攻勢に、本来なら数で勝るはずの帝国軍は、為す術もなく倒されていく。


「こりゃあ、俺の――」


 言いかけた刹那、爆音と爆風がアマ・ラを包んだ――弾かれたガルジナのビームが、彼女に直撃したのである。彼女が立っていた岩は粉々に消し飛び、周囲に砂埃が舞い上がった。しかしその砂埃が風で流されると。


「……俺の出る幕は無さそうだなー」と、まるで何事も無かったかのように彼女は言った。


 アルテントロピーによって情報保護プロテクトされている彼女には、たとえ機甲巨人の強力なビーム兵器であろうとも、掠り傷一つつけることは能わないのである。

 暫くして、乱戦を避けて迂回してきた2機のビャッカが、スラスター付きの菱形のコンテナを伴って彼女の許に飛んできた。

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