EP14-6 ブリーフィング
カリウス星系の外縁部に位置する惑星ザンデバ――この戦争の発端となった惑星カデラを除けば、カリウス星系内で帝国の軍事拠点が存在するのはここだけであった。
先の戦いでアマ・ラの陽動とタウ・ソクの奇襲により、帝国から見事ザンデバを奪還した解放軍は、現状でこのカリウス星系の実効支配を手に入れた。そして宙域に点在する中継基地などに残った、或いはザンデバから逃げ出した帝国軍の残党狩りを行い、いくつかの機体や戦艦を
***
ザンデバの地下基地――。今は解放軍のものとなったブリーフィングルームに、タウ・ソクとアマ・ラの二人のエースパイロットが入ると、惑星のホログラフィが浮かぶ円卓を囲んでいた者達の注目が集まった。
卓の最奥には、真珠のように白いロングヘアーの若き女性リ・オオ。弱冠18歳にして解放軍のリーダーを務める少女である。
――太めの眉と、大きくて真っ直ぐに人を見る青い瞳が、若いながらも皆を束ねる先導者としての
「ご苦労様、タウ・ソク。それにアマ・ラ」とリ・オオ。
彼女を含め、その場にいる殆どの者が白いパイロットスーツ。無論タウ・ソクとアマ・ラも同じで、そうでない何人かはベージュの
唯一、リ・オオの隣にいる黒髪の青年だけが軍服――というには少し粗末な、白っぽい制服を着ていた。彼の名はコタ・ニアといい、元はリ・オオの父、シレ・オオに仕えていた軍人で、解放軍の創設時から彼らを支える作戦参謀である。
皆が円卓を取り囲んで立ったのを確認して、コタ・ニアがリ・オオに無言で頷くと、彼女が口を開いた。
「まずは皆さん――カリウス奪還、ご苦労様でした。今回の私達の勝利で、これからはカリウス星系以外でも、帝国の長きに渡る圧政に苦しむ人々が奮起し、帝国に対して反旗を翻す者が出てくることでしょう。その意味でもこのザンデバ拠点の奪取は、物質的な有意性以上に、解放軍にとって非常に有意義なものだと云えます。――カリウス奪還を夢見た亡き父、シレ・オオに代わって、改めて深謝致します……」
毅然として頭を垂れるリ・オオを、皆が見守った。
「ですが――」と、顔を上げたリ・オオが続ける。
「このカリウス奪還は、帝国の牙城を崩す第一歩に過ぎません。私達の目的は帝国を滅ぼすこと――同じ人間である私達を
強い口調でいう彼女の顔は、18歳になったばかりの少女とは思えぬほど強い覚悟に満ちていた。その言葉に感銘を受ける者達の顔もまた、決意を新たにした様子であった。
リーダーの労いと決意表明を終えて、参謀のコタ・ニアが実際的な話に移る。
「では今後の我々の動きについて説明します――」
中央の円卓の上に浮かぶホログラフィの惑星が縮小して、恒星を中心とした円が連なる星系を映し出した。
「現在我々がいるこのザンデバから、最短ルートで帝都を目指そうとすれば、隣のバルネス星系を経由してゆくことになります」
ホログラフィの矢印が示す進路を辿った先には、巨大な機械衛星に守られた
「ですが、バルネス星系を治めるのは、帝国屈指の名将と謳われるモウ・ヴァ将軍。また最近彼の側近に取り立てられたガー・ラムという男がおり、噂では帝国のエースすら凌ぐ逸材であるとか――」
(アグ・ノモを――)と、タウ・ソクは眉を顰めた。
すると円卓に並んでいた別の男が横から言う。
「ガー・ラム……聞いたことがある。噂じゃ悪魔の如き戦術家で、パイロットとしてもエース級だそうだ」
何人かのパイロットが「そんな者が」と口々に言うのを、コタ・ニアが手で制した。
「ガー・ラムという男の強さ、その真偽はともかく、ジルミランの戦力が今の解放軍と比べて、遥かに強大であるのは間違いありません。……そこで我々は、バルネス星系を避けて迂回し、シギュリウス星系に向かいます」
ホログラフィには、新たにグルリと迂回するルートが表示された。
「シギュリウス星系で帝国軍が駐留――というよりも居住に適した星は、惑星バハドゥのみ。ここさえ落とせばシギュリウス星系の掌握は容易です。但しザンデバからバハドゥの距離は約1パーセク。次元歪曲収差によるワープ航法を用いても、片道2ヶ月の道程です」
「遠いな……」とタウ・ソク。
「バハドゥの防衛戦力は、ここザンデバと同等かそれ以上。当然の事ながら、正面からぶつかれば総力戦になります。しかし我々の保有する艦でワープが行えるのは、鹵獲した敵の巡洋艦キマリィを含めても3隻――。この星に防衛部隊を残すとしても、必要な兵力を運ぶには往復輸送の必要があります」
「それでは時間がかかり過ぎる」と周りからざわつきの声。コタ・ニアが「ええ」とそれに頷いた。
「小分けに集結していたのでは、戦力が揃う前に叩かれるでしょう。かといってその間、監視の目を抜けて機甲巨人や艦隊を隠しておける場所もありません。その為今回は、バハドゥを少数の先発隊のみで一気に落とします」
「先発隊のみで――? 無茶な」と、再び皆がざわめく。
「無茶ではありません。――バハドゥは見た目上の戦力こそ多いですが、シギュリウス星系には帝国に対する反乱分子がいない為、あそこの駐留軍に実戦経験はありません。一方我々解放軍は、これまで苛烈な戦線を2年に渡り潜り抜けてきました。その解放軍の精鋭部隊であれば、バハドゥの防衛線を突破することは可能――と私は見ています」
「しかし増援にはどう対処する?
「増援はありません」と、キッパリと言い切るコタ・ニア。
「帝国軍はこのザンデバ――延いてはカリウス星系を、我々の陽動と奇襲によって失いました。それにより彼らは、数に劣る解放軍でもその戦術であれば拠点を落とし得る、という事を理解したはずです。裏を返せばこれは、陽動にさえ引っ掛からなければ拠点は落とされない、という考えに至ります」
「なるほど……」
「敵は、我々がここの
「つまり、敢えて単艦でバハドゥを攻めることで、他の帝国軍を各惑星に釘付けにする、ということか――? そうなればこのザンデバを再び奪取しようとする動きも止まる……」
「その通りです。……ワープには足の速い
「はい」と、名を呼ばれたタウ・ソクが敬礼した。
「続いて――マユ・トゥ隊」
呼ばれた長い黒髪の若い女性が敬礼。
「――アマ・ラ隊」
「あいよ」と、アマ・ラが手を上げる。
「――そして指揮は私、コタ・ニア隊が執ります。……以上のメンバーでバハドゥを攻略、その後に後続部隊と合わせてシギュリウス星系を掌握します」
リ・オオが解散を命じると、各隊長はそれぞれ思うところを内に秘めたまま、緊張の面持ちでブリーフィングルームを後にした。
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