EP8-9 各自臨戦
平地エリアの端にある指揮所――。簡易的な四角いテントに「クロエさん!」と飛び入ってきたのはユウ。その彼に指揮所の軍人らとシュン、そしてクロエの視線が注がれる。
「……なんだ?」とクロエ。
彼女の冷たい目にユウは思わず「あっ」と洩らしてから言い直した。
「姉さん――、その、市街エリアに……応援を」
コノエを救護班へと引き渡したユウは、暴走するアーマードへと向かったマナトや取り残されたホノカのことが心配で、慌ててここに駆け込んだのである。
「それなら加藤からの要請を受けている。生徒のお前が心配することではない。それよりも――」
ディソーダーへの警戒はどうした、という発言をクロエがする前に、その声が響いた。
ギぃョオァァアあぁァァァぁーーっッ!!
大気を金属の爪で引き裂くような、甲高く不快極まりない絶叫。――遠方の市街エリアで発せられたその声は、学園の敷地全体にまで響き渡った。
「何の音だっ?」と、シュンが外に出る。
言うまでもなくその音は、ディソーダーとして覚醒した神堂マナが発した狂気の産声であった。
テントの中ではクロエのポケットに入れられた小さな
[物理法則の改変を感知しました。
「なんだって?」と、思わず声に出したユウであったが、クロエは至って平静に対応する。
[了解した。座標と画像を転送しろ]
[承知しました]
(こいつが――どう見ても人工物にしか見えないが……まさか)
その彼女の推測を肯定するように
[画像のアーマードの中には、人間の頭部が生きた状態で格納されているようです。その人間が
「なるほど、まさか
溜め息を吐くクロエに、今度は外から別の悲鳴が上がった。それと同時にテントに舞い戻ったシュンが言う。
「外佐! KW9が――」
***
団体戦のフィールド前の観客席では、突如打ち切られたライブモニターと、いつになっても始まる様子のない団体戦の決勝に対する不満が少しずつ漏れ始めていた。
フィールドの横には、その後に行われる閉会式に備えて並べられた訓練用のアーマードKW9が3体。腕はチェーンガンから人型のそれへと換装されており、背筋を伸ばして陳列されている。
そこへ響く神堂マナの声――。
「うわっ!」
「なんだこの音、うるせえ!」
「なにこれ、悲鳴?」
会場の皆が耳を塞ぎ、困惑したり顔をしかめて見合わせたりしていると、突如3体のアーマードが動き出した。まるで神堂マナの声に呼応するかの如く、である。
――指揮所ではヘッドフォンを付けた通信兵が、シュンの言葉に重ねるように言った。
「会場に配置されたKW9が何者かのハッキングを受けました! 全機制御不能! 観客席に向かって動き出した模様!」
「なに……」と、微かに怪訝な顔をしたクロエに、
[当該
彼女はコンマ数秒の思考を経てから指示を飛ばす。
「敷地全域に警報、SSFは生徒含む全員を、速やかに管理棟エリアに避難させろ。警備隊は誘導と臨時避難所の開設急げ。――副官!」
「はい!」と中尉のバッジを付けた兵士が、ドタバタと動き出した指揮所の兵達を割って出た。
「軍関係者には協力を申し出てくる者もいるだろう。お前はその対応と追加配置をしろ。判断は任せる」
「了解!」と即応した中尉は、小走りで直ちに指揮所を後にする。
「八重樫大尉」
「はい、外佐」
「お前はアーマードを潰せ」
「了解しました」
仔細云わぬその淡白な命令と受諾の隙に、シュンの顔が優しく気弱そうなインテリ教師の顔から、冷徹無比な戦場の兵士の顔へと切り替わる。
彼はジャケットを脱いで眼鏡を外すと、その場で瞳を閉じて殊能『クヴァシルの血』を発動させた。――暗転した彼の脳裏に赤く浮かぶアーマード達の姿。
(――2体は
確認を終えて目を開いたシュンに、クロエが「これを使え」と大きめのハンドガンを投げ渡した。
「これは外佐の――」
彼が受け取った銃は、PFAやレールガンのような最新式の銃器ではなく、
「私の
「お借りします」
再び颯爽とテントを飛び出たシュンは急ぎアーマードの許へ――それを見送ったクロエ。
「ユウ、私はこちらの事態を収束させてから現場に向かう。お前は先にディソーダーの許へ行き、私が到着するまで足止めをしておけ」
「了解しました。皆を助けてもいいんですよね?」
「無論だ。今度は我々の敵だからな。――それと、こいつを連れて行け」
クロエはポケットから取り出した
「小さいが一応はアイオードだ。そいつがいればIPFを展開できる。範囲は狭くなるが」
「了解しました」
「よし、では現場に急行だ。全速力でな」
「はい!」
指揮所を出たユウは慌ただしく行き交うSSFの喧騒の中で、早速OLSを使って呼び掛けた。
[魔法を使うよ、アイオード。IPFを展開して]
[承知しました]
直ちに展開された透明の膜がユウを中心に、半径50メートル程の空間を包み込む。それを待ってからユウは右手の拳を己の額にそっと当てて精神を集中した。すると途端に、彼の周りを囲むようにして
――この魔法は勇者専用のものではない為、このような魔法の円陣を用いつつ呪文の詠唱をする必要があったのだが、クロエの『全速力で』という言葉には、
その明らかに殊能とは異なる謎の力に、目の前の作業に集中していた兵士達は何事かと足を止める。しかしユウはそんな彼らをお構い無しに呪文を唱えた。
「
ユウがアーマンティルの古代語を高らかに発すると、魔法陣が木の蔓の様に変化してシュルシュルと彼の身体に巻き付いていく。そして輝きながら、じんわりと彼の内部に吸収されていった。
「――よし」
淡いエメラルドの光を纏ったユウはグッと拳を握り、自身に施した身体強化の効果に満足すると、市街エリアの方角に目を向けて体勢を低くした。
「行くよ、アイオード!(待ってて、皆!)」
そして周囲から溢れる「何だ今のは?」などといった言葉には耳を傾けず、ユウは文字通り疾風迅雷の人となって翔け出した。
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