EP7-6 ノイズ

 倉庫内には新型機の他に、競技用として持ち込まれた他のアーマド達も並んでいる。


「次世代型って、他のアーマードと何が違うんですか?」


 案内してくれた兵士に興味本位でそう尋ねるユウ。試合で使われる予定のそれらと見比べても、多少のデザインの違い以外、ユウには特筆すべき差異が感じられなかった。しかし彼に問われた兵士もそれは同じようであった。


「それは……申し訳ありませんが自分にも解りかねます。新型これについての詳細は、開発者のベクター・ランド博士でないと……」


(ベクター・ランド……? その人ってクロエさんが言ってた計画の――)


 その時突如、ほんの一瞬だけユウの視界に青白い射線ノイズの様なものが走った――ユウが思わず「わっ!」と声を上げた。


「ど、どうされました?」と、困惑する兵士。


「あ、いえ――なんでもありません……」


 そこへクロエからOLSの通信――。


[何か見つかったか? ユウ]


[あ、クロエさん。――いえ、特には……(今のノイズはクロエさんか?)]


[今どこにいる?]とクロエ。


 当然この会話は兵士達には聴こえていない。


[管理棟裏の倉庫です。LEADリード研の試作機? 灰色っぽい機体やつを見てました]


[リード研の……試作機そいつがベクターの虎の子だな]


[デモをするんですか?]


[ああ。個人戦の優勝者とタッグを組んで、そいつとの性能評価実戦テストを私に依頼してきた。相当自信があるのだろう……あわよくば私を亡きものにするつもりらしい]


[それは大した自信ですね――]と、心の中で失笑を禁じ得ないユウ。


[ベクター・ランドって人はディソーダーではないんですよね?]


[それは間違いない。ベクターあいつが転移者でないことは確認済みだ]


[うーん……殊能者を人工的に作り出すっていう鑑計画と、クロエさんを抹殺(苦笑)したい新型機のデモ――これって関係ありますかね?]


[どうかな。両計画どちらとも現在遂行している首謀者はベクターだが、奴自身ディソーダーではないからな。ただ確実に言えるのは、アルテントロピーを人工物で発生させることは不可能、ということだ。我々が見つけるべきは人間だ]


[なら試作機こっちは、少なくとも今回の件には関係無いんですかね]


 傍から見ると黙って立っているだけのユウに、SSFの兵士が声を掛けた。


「あの……何か問題が?」


「――? ああいえ、すみません。……大丈夫です、ありがとうございました」


 兵士にお礼を言うと、ユウは倉庫を後にした。



 ***



 演習場では既に第三校と殊能学院との試合が終わっていた。大方の予想に反して、殊能学院の生徒がブレスレットの3本奪取に成功して勝利を収めたのである。快挙に沸く殊能学院の観覧席スタンドの後ろを通って席に戻るユウ。


 最初の試合に出ていたマナトら1-Aの生徒達も決勝まではまだ時間がある為、一旦自分達の席に戻っていた。獲得出来るポイントが大きい団体戦の決勝は最後に行われる予定で、その前に個人戦の準決勝から決勝までが行われるのである。


「遅かったなユウ、のか?」と、隣の席のヒロが茶化す。


「ち、違うよ。トイレじゃないし……。――学院が勝ったんだ?」


「ああ、第一試合ウチらの時は出てこなかったけど、学院には控えに隠し玉がいたみたいだぜ」


「隠し玉?」


 ユウが首を傾げると、横からトウヤが会話に参加した。


「つい最近『ミミルの首』ってネームドになったらしい。俺らと同じ1年で、白尾しろおリンネって奴だ」


「そいつがなんと――」と、にやにやと笑みを浮かべるヒロ。


「なんと?」


「すっげぇ美少女だ」


「へぇー」と、興味無さそうに相槌を打つユウにヒロが不満げな顔をする。


「なんだよ、ユウ。そりゃお前は超絶美人の白峰先生お姉さんがいるかもしんねーけどよ、俺らは身近に美人なんていねーんだぞ? なあ、トウヤ」


 ヒロに話を振られたトウヤが横に目をやると、幼馴染であるチトセが怖い眼つきでトウヤを睨んでいる。


「ん、あ、いや――俺は……」


 と煮え切らない返事のトウヤにヒロが憤る。


「っだよそれ。……いいよ、俺らはあのリンネちゃんのファンになっちゃうから。な、マナト」


 ヒロが今度はマナトを仲間に引き入れようと声を掛けると、近くに座っているホノカがわざとらしく咳払いをした。


「いっ、その――俺もそういうのは遠慮しとくわ……」とマナト。


「チッ、裏切り者めっ」


 なんとなく予想済みの反応ではあったが、ヒロは不貞腐れて横を向いた。


「まあそれはともかく――」と、トウヤが仕切り直した。


「最後は第三校が相手だ。向こうは次負けたら3位ビリ確定だからな、死に物狂いで来るだろうよ」


 マナトもそれに乗じて話題をすり替える。


「たしかに。でも連携や新技の手応えはあった。ぜってー負けられねえ」


 アヤメ、それにチトセやリンも決意固く頷く。するとヒロが観覧席を見回しながら。


「あれ? そーいや、社先生リコりーは?」


「リコリーなら、さっき個人戦の手続きに行ったぞ。っていうか朱宮は、そろそろ試合なんじゃないのか?」


 トウヤがそう言うと、申し合わせたようにアナウンスが流れた。


『間もなく代表個人戦を開始します――各校の選手は、南ゲートにお集まりください――』


 放送を聞くとホノカが「よしっ」と気合を入れて立ち上がった。


「いってくるね!」


 皆とハイタッチしながら応援の言葉を受け取ると、ホノカは観覧席の階段を降りた。その彼女の背にもう一度マナトが声を掛ける。


「朱宮っ!」


 ホノカが振り返ると、マナトが親指を立てて笑顔で激励した。


「ブッ倒してこい!」


 笑顔それを見て少し頬を赤らめたホノカは、はにかみながらマナトと同じポーズをしてみせた。


「私を誰だと思ってんのよ? ――まっかせなさいっ!」


 そう言うとホノカは赤い髪を颯爽と靡かせて、元気良く駆け去って行く。

 合宿以降、どちらからともなく心の距離を縮めつつある二人は、お互いの才能と努力を認め合いともに励んでいた。言わずもがなその感情は恋であり、周りのクラスメートから見ても明らかな事ではあったが、二人が告白それを口にすることはなかった。しかしその結び付きは確かなもので、マナトは不安を抱きつつも彼女の自信に溢れた足取りを優しく見守るのであった。

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