EP7-7 個人戦
選抜対抗試合が団体戦と個人戦に分かれているのには理由がある。
まず彼ら殊能者の目指すべき
しかしその一方で単独戦闘に特化した殊能は、団体戦のルールでは長所を存分に発揮できないことがある。神堂クレトの『ウルズの刻』のように敵味方を問わず影響を及ぼす殊能や、朱宮ホノカの『スルトの火』のようにそもそも直接攻撃にしか使えない殊能などがそれに当たり、チームワークを重視する団体戦や、選手の安全性を考慮せざるを得ない種目にはそぐわない能力であった。とは云え、真に強力な
今回行われる個人戦の形式は、競技用に
そして対人戦闘ではないが故に殊能の使用に関して一切の制限は無く、運営委員会が取り決めたルールでは、対戦するアーマードの完全破壊すら容認していた。
「
個人戦の手続きを終えて戻ったリコが、
「この競技で使うアーマードはー、KW9という
「なるほどぉー」と、リコの物真似をしながら頷くヒロ。
「なのでむしろぉ、一人でアーマードを破壊できるような殊能者が見つかるなら、アーマードの1体ぐらい惜しくはない、とゆーことなんですねぇ」
そんなやり取りが観覧席で行われるうちに――個人戦に出場する第一校のクレト、コノエ、ホノカの三人は、他校の選手と一緒に演習場の市街エリアへと移っていた。
(ここが市街エリア……)
初めてこのエリアに足を踏み入れるのはホノカが、緊張気味にその景色を見渡す――。
市街エリアは
再現と云っても建物に意匠性は無く、壁はコンクリートの打ち放しで、看板や内装の類は施されていない。ガラスなども嵌められておらず、窓は単なる四角い穴でしかない。それでも商店やオフィス、モールや住宅といった間取りや構造自体は現実に則して設計されている為、建物の存在が要となる訓練には充分な場所であった。
そして今回
「では皆さん、装備の確認をしてください」
大会実行委員が皆に促すと、生徒達はそれぞれ自身の装備をチェックする。基本装備は団体戦と同じ、全身を包むバトルスーツとフェイスモニター搭載のヘルメットである。それに加えて防弾ベストと、肩、肘、膝、脛に強化樹脂素材のプロテクター。
銃器は選手・アーマードともにペイント弾の仕様だが、選手が使う銃は
そのメイン装備以外にも全員がハンドガンか、己の殊能を活かせる刀剣類か鈍器類の携行が許されていた――第一校からは、唯一クレトのみが刀の使用を申請していた。それはクロエがアルテントロピーによって複製強化した、名刀『
「では準備が整いましたら、国際殊能学院高校の選手から開始します」
実行委員の指示に従って殊能学院のトップバッターがフィールドに入ると、間もなく個人戦が開始された。
***
――巨大な虫が羽を震わせる様な音を鳴らして、アーマードの
「クソッ!」
逃げ場が無い事を悟った彼が振り返ると、無機質で威圧的な
しかし歩行速度がそれほど速くないとは云え、その圧倒的な威容は生身の人間がいざ対峙してみると、物理的な圧力を錯覚させるほど強烈であった。
「くっっそおおああぁっ!」
追い詰められた選手が右手で抱えたアサルトライフルを乱射しながら、左手で炎の殊能を発動――アーマードの胴体正面のカメラ前に小さな爆発を起こすと、素早くアーマードの横を摺り抜けた。しかし彼が袋小路から飛び出した瞬間、目の前をドローンが塞いだ。
「――っ!?」
彼に対処する間も与えずに、ドローンは無線の
そしてすぐに数人の係員がフィールドに入り、選手を起こしたり、アーマードのメンテナンスを始めた――その様子をモニターで観ていたヒロが呆れた様に言う。
「おいおい、これで全員アウトだぜ?」
殊能学院から始まり第三校へと続いた個人戦は、これまでの6人全員が戦闘続行不能による試合終了となっていた。
「でもぉ皆さん頑張ってると思いますけどねー?」とリコ。
射撃の命中だけでもポイントにはなるのでリタイアと云えども全員が失格やゼロ点ということではなかったが、それでも去年の個人戦の動画と見比べると確実に難易度が上がっている、というのが彼女の感想であった。
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