EP7-5 アーマード
殊能学院で唯一人残されたダイゴは、半球形のシェルターの前方に開けた覗き窓から周囲の様子を窺う。しかし視界の殆どは自身が作り出した壁によって妨げられ、敵の配置や進行状況まで知ることは出来ない。
「くそっ! どうすりゃいいんだよっ! あのチート連中め……」
運営や審判団に筒抜けのマイクがあるのも忘れて、彼は悪態を吐きながらシェルターの内壁に寄り掛かってへたり込む。
「(こうなりゃ一人でも倒して、少しでも評価ポイントを――)……ん?」
その耳に遠くから、鉄球による解体工事のような衝撃音が響き、それが徐々に近付いてきた。
「何の音だ?!」と、外を確認しようとした
「……ぉぉぉおおおおおっっ!!」
閃光とともに砕け散った壁の向こうから、突進してくるマナト。
「なんっ?!」と、喉を詰まらせたダイゴは咄嗟に除き窓から銃で迎い撃とうとするが、間に合わない。拳を振り被ったマナトが、気合の咆哮を上げて突っ込む。
「おおおっ――るぁッ!!!」
マナトの
「………………」
パラパラと土砂が降りやがて土煙が徐々に薄れたところで、彼が恐る恐る目を開けると――コツン、とヘルメットに銃口が当てられた。
「
「こ、降参します……」
「ふぅ……(よかったぁ)」と、観覧席のユウ。
彼はほっと一息胸を撫で下ろしたが、それは
(今のところは、とりあえず
[クロエさん――]と、会場を見廻る彼女にOLSで確認を取る。
[ふむ。まだ動きは無さそうだな。……次は他の2校の試合だ。しばらく間が空くから、お前も不審者が居ないか
クロエの指示に「了解しました」と答えると、ユウはリコに断りを入れてから観覧席の階段を降りると、周囲をくまなく見渡しながら演習場の
演習場の端では第三校と今しがた負けた殊能学院の選手達が、緊張の面持ちで装備の確認やウォーミングアップを始めていた。それを横目にしつつ歩くユウ。
(
ユウの視界には右端の上に小さな時刻表示と地図があるだけで、ようやく慣れてきた
やがて背の高い植栽の切れ間から、管理棟の屋根が肉眼でもハッキリと視える所まで来ると、けたたましく感じていた演習場の放送や観客のざわめきは大分遠退いていた。彼が棟の周りをぐるりと半周すると、キャンパスの裏に当たる搬入路から大きなコンテナを積んだ白のトラックが1台――コンテナの横には太字で『LEAD』と書かれていた。
「あれは……リード?」
トラックは警備員数人と迷彩服の
「(確かクロエさんが怪しいって言ってたやつだよな)――すみません、このコンテナは?」
ユウは近くにいた中年の警備員に尋ねた。彼は毎朝登校の時間に歩哨として立っている顔見知りの男性であった。
「やあ、ユウ君じゃないか。応援はいいのかい?」
「
「ああ、
どうにも時代の流れには追いつけないと恥ずかしそうに笑う警備員に、ユウが訝し気に尋ねる。
「
今大会の個人戦は生徒同士が戦うのではなく、競技用にカスタマイズされたアーマードを相手にどれだけ戦えるか、またどれだけ速く倒せるかというスコアアタックである。
「いや、
「おい!」と、SSFの一人がユウらの所へ寄ってきた――兵士はユウの制服を見て言う。
「生徒は危ないから下がっていなさい。――
中年の警備員はユウと顔を見合わせる。
「一般人ったってなあ。
「なに?」と、兵士がユウの顔を見た。
「嘘を言うな。加藤大尉にご兄弟など――」
「いやいや、
「なっ――白峰外佐のっ?! いや、しかし……ちょっと待て――」
動揺しつつ兵士は無線で確認を取る。
「――はい。…………はい、了解しました。……そのように致します」
無線を切った兵士は改めてユウを見ると、「失礼致しました」と敬礼した。
「大尉より『最大限の協力を』との命令ですので、必要なことがあればお申し付けください」
姿勢を正す兵士になんとなく気不味さを感じながらも、ユウは訊いた。
「あのコンテナは……アーマードと聞きましたけど、試合用ではないんですか?」
話している間にコンテナの後ろが開き、トラックの荷台にキャタピラ付きのリフトが取り付いた。それを見ながら兵士が答える。
「あれは
「リード……、デモンストレーションて――」
「LEAD研は最先端兵器開発研究所の略称です。……デモには令外特佐もご参加なさるとのお話ですが?」
「
「どうぞ」と、兵士が先導する。
ユウが兵士に付いて行くと、中年警備員は「じゃあまた今度」と言って手を振り、持ち場に戻って行った。
コンテナから薄闇の倉庫に移されたそのアーマードは上半身が分厚い幌に覆われていて、全容を確認することはできなかった。しかし幌の上から見て取れる概ねの形から、大きさは4メートル程度。人型ではあるものの頭部はなく、上半身がかなり幅広であるのが解った。下半身は太く短めで角ばった装甲板に覆われた二脚。その脚と同じであれば機体の色は、光沢のある
ユウは幌の端を捲り上げて隙間から中を覗き見るが、冷たい感触の金属の塊に、これといって不審な点は無さそうであると判断した。
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