EP7-3 対抗試合
空は少しずつ翳りを見せ始めていたが、会場となる真夏の演習場では程好い気候であると云えた。9割方が埋まった仮設スタンド席の上――5階ほどの高さのあちらこちらに、下向きの丸いスピーカーに4基のプロペラを備えた
「これよ
ザワザワと蠢いていたいた観覧席の動きが鎮まっていき、やがて静まり返る。
「対戦
放送に合わせて
両校の選手達が地面に描かれた白い
「いよいよ始まりますねぇ。うー……なんだか先生の方が緊張してきましたぁ」
ラインは縦300メートル、横150メートルの長方形――この中がこれから行われる団体戦の
リコの隣にはヒロとユウとトウヤ。そして2、3年生のAクラスの面々。他の1-Aの生徒は皆選手として既に控室で待機しているのであった。
(頑張れよ、皆!)とトウヤは、拳を包み心の内で熱い眼差しを
選抜試合は団体戦と個人戦に分かれており、その総合成績によって最終的な順位が決まるが、違う種目に同じ選手が参加することは出来ない。団体戦は5名1組のチームによる対人戦で、戦術と連携力が試される。一方の個人戦は、訓練用のアーマード1体を相手にどこまで戦えるか、という個体戦闘能力を見る種目である。
第一校から選抜されたメンバーは、団体戦が4年の天夜シキをリーダーとして、残りは全て1年――鑑マナト、不動アヤメ、三城島チトセ、黛リン。個人戦は4年から神堂クレトと杠葉コノエ、そして1年の朱宮ホノカであった。ヒロとトウヤは他校であれば十分に選手として通用するレベルではあったものの、今年は如何せん他の代表選手が強過ぎるのと、各殊能の相性なども考慮した上でメンバーには選ばれなかった。ユウに関してはクロエからの許可も下りなかったし、何より今この状況ではディソーダーへの備えが最重要であることから、いつ何時でも自由に動けるよう観客としてこの場に臨んでいた。
そして始まる団体戦第一試合――。
選手たちは互いに横一列に並んでフィールドの中央で向かい合うと、揃って一礼をしてからフィールドの後端にある自陣の円の中へと退いていく。
フィールド上にはセンターラインを境として左右対称に、縦横1メートル程の障害物が3つずつ凸の字に配置されている。そこに身を隠して撃ち合いながら攻めていく、というのが
選手が自陣で試合用の銃器を装備したり作戦の最終確認をしている間に、場内を浮遊するドローンからルール説明のアナウンスが流れる。それを要約すると以下である。
~団体戦ルール~
【勝利条件】
・相手チームを全員戦闘続行不能状態にする。
・相手チームの身に付けているブレスレットを3本以上、自軍エリアであるライン端から半径5メートルの半円の中に持ち帰る。
・相手チームのリーダーによる敗北宣言。
【注意事項】
・殊能自体(炎や雷など)による相手への直接攻撃は禁止。
・攻撃は試合用の
・1試合の制限時間は45分。それを過ぎた場合は戦況により判定。
【その他】
・共通装備であるバトルスーツは弾丸のペイントに反応する特殊繊維で出来ており、実戦での被ダメージを意識させる為の機能として、被弾した部分は発熱及び硬化する。
説明が終わる頃に、選手達はヘルメットを被り、肩から提げたライフルの安全装置を外す――。
ヘルメットは軽量高硬度の樹脂製。耳の前辺りから前半分が全て透明で視界を妨げることはない。透明部分の内側はディスプレイになっており、自身の銃と
ライフルは機関部が
「――いいか、お前ら」とシキ。
ヘルメットを通して聴こえる指示に皆は黙って耳を傾ける。
「こっちは三城島以外は全員ネームド――つまり
「はい」と、皆がそれぞれ返事をした。
「鑑、お前は
「――了解です」と、手の平に拳を打ち付けるマナト。
彼は
「三城島、お前は後方で待機しつつフィールドに雨だ」
「はい!」と、元気に返すチトセ。
「黛は透明化したまま、左から徐々に前線を上げていけ。不動は右からだ」
リンとアヤメが、ともに「了解しました」と返した。
「敵の壁はペイント弾ぐらいは余裕で防げる。それで俺の『オレルスの弓』を攻略するつもりだろうが――」
ヘルメットの中で密やかに不敵な笑みを浮かべるシキ。
「そりゃ甘い。うちが俺のワンマンじゃねえってとこを見せつけてやれ」
シキが自信たっぷりでそう微笑むと、全員が「はい!」と気合充分な様子を見せて応えた。
***
一方、国際殊能学院高校――。4年生のリーダー真壁ダイゴが作戦を確認する。
「いいか皆。ネスト第一は天夜シキのワンマンだ。ネームドばかりとはいえ、どれも攻撃的に使える殊能じゃない。
ダークグレーのスーツとヘルメットに身を包んだ五人は、ガッチリと円陣を組んでお互いの顔を見合う。
「カズとナオヤは開始と同時に突っ込め。ミコトは二人をワープでサポート。シンジは分身して各個撃破」
「おう」、「任せろ」といった返事で、指示を受けた者達が張り切る。
「俺は事前に決めたポイントに
彼らが入念な作戦を立てたところで、場内に試合開始のブザーが鳴り響いた。
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