EP4-3 殊能計測
ユウとトウヤが並んで皆の許に戻る――アヤメはユウに何か言いたげな様子であったが、すぐにリコが話し始めた。
「いやあ、白峰くんの強さには正直先生もビックリしましたー。流石は白峰顧問の弟さんですかねぇ? でもでも、風見くんもよく頑張りましたー! 攻撃の多彩さはお見事でしたよぉ?」
(――とは言っても)とリコの内心。
(
そんなことを考えつつもリコは笑顔を崩さず、にこやかに続けた。
「ではいよいよ最終試合ですねー。不動さん、朱宮さん、準備はいいですかぁ?」
頷く少女二人――驚きは隠せなかったにせよ、『流石にあの試合を目の当たりにした後では』などという後ろ向きな気持ちは彼女らの中に微塵も無く、二人の意識は既にお互いに向いていた。寧ろユウに触発されて更に闘志が燃え上がっていた。
(剣の道にはあれほどの高みが在るのね……。私はずっと神堂先輩に勝つことを目標にしていたけど――)
新たな目標ができた、と決意を固くするアヤメ。
(『スルトの火』の奥義は
家名に対する責任感から、勝利を誓うホノカ。
アヤメとホノカは前に出て向き合うと、二人同時に「宜しくお願いします!」と礼をした。
そして――リコの合図とともに激しい攻防を繰り広げた二人の闘いは、アヤメが当てればホノカが当て、ホノカが打ち込めばアヤメが返しと、全身全霊持てる力を余すところなく発揮した見事な試合であった。しかし両者の最後の一刀がぶつかり合おうという直前で、タブレットの
「判定は――」と、リコがタブレットに送信された獲得ポイントを確認する。
「2.7ポイント対2.3ポイントでぇ……朱宮さんの勝利ぃ―!」
思わず飛び跳ねてしまいそうな喜びをグッと堪えたホノカは、念願の初勝利の笑みを静かに内に秘めて一礼。対するアヤメも口惜しさは残れど、何処か晴れ晴れとした表情で一礼した。
だが黙って観戦していたユウは釈然としない様子であった。
(このルールだと朱宮さんの勝ちになっちゃうんだ。実戦ならどう見ても不動さんが勝ってたと思うけどなあ。致命傷にはならないだろうけど、充分な手傷を負わせられる隙が少なくとも6回はあったし)
着実にポイントを重ねようというホノカの立ち回りは、プロテクターへの被弾を最小限に留める動きであった。それは言い換えればルールに守られた戦い方であった。
一方のアヤメは、ホノカの防御を上下に揺さぶり隙を作り、そこへ斬り込む闘い方。だがその隙が
「じゃあ近接戦闘の査定はここまででーす。査定と言っても個人目標のためのものですからぁ、勝敗は気にしないでくださいねー?」
リコが皆の装備を回収してボックスにしまうと、そこから今度は小型のアンテナ付きの計測器を取り出し、いそいそとタブレットに接続した。
「続いてはぁ、殊能の計測ですねー。殊能のカテゴリは沢山あるので、今回は単純に
(殊能量波……計測か……)と、ユウ。
そもそも殊能とは、自身が脳に描いたイメージを『殊能量波』と呼ばれるエネルギー波によって物理的に顕現する能力のことである。想像を形にするといった意味ではアルテントロピーによる改変にも似ているが、当然情報改変ほどの絶対的な効果があるものではなく、
(僕は殊能は使えないけど、クロエさんは魔法で代用すればいいって言ってたし、あまり深く考え過ぎないほうがいいのかな? 自己紹介では雷って言ったけど特に驚かれなかったし、でも――)
正直なところ『自分が圧倒的に強い』というのは、まだ少年であるユウにとっては少なからず快感であった。ならば
「――峰くーん……、白峰くーん、聴いてますかぁー?」
「えっ?!」
ユウが思考に没頭している間、リコは測定の内容などに関して長々と説明をしていたのであった。
「ちゃんと聴いてないとダメですよぉー? いくら剣術が強いといっても、殊能はまた別ですからね?」
「す、すいません……」
「では説明は以上でぇ、実際にやってみましょー。……まずは説明を聴いてなかった白峰くんから!」
クラスメートから控え目な歓声が上がる中、照れた様に進み出るユウ。
「えーっと……」
「そこの白線から向こう側にあるポールに向かって使うんですよー。……って、ホントに聴いてなかったんですね……しくしく」
「じゃ、じゃあ、いきますね……」
リコの下手な泣き真似は無視してユウが構える。狙いは200メートル先の白い
得意の雷撃魔法をイメージして集中力を高めるユウ。幸いアーマンティルにおいて勇者であったユウは、その
ユウの集中力の高まりに合わせて、今しがたまで快晴であった演習場の空が突如として曇る――唸るような低音が拡がり、目標地点の上空に黒雲が渦を巻き始めた。
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