1999.09 BR 家畜人ヤプー 第三巻

家畜人ヤプー 第三巻

沼正三 幻冬社アウトロー文庫 1999年


REVIEW


 クララたちは飛行島タカラマハン(高天原)の領主、アンナ・テラスのもとを訪れる。クララのブローチに意識を同調させていたリンは、前地球都督のアンナが天照大神であること、イザナギ・イザナミがそれぞれアンナ・テラスが遣わしたヤプーであることを知らされる。

 一行はポーリーンの子宮畜(ヤプム 代理母)の選定をしに冨士山(フジヤマ)の飼育所(ヤプーナリー)へ降臨する。選ばれたカヨは白人の星へ向かう栄光を胸に旅立って(昇天して)いく。

 アンナ・テラスはクララとウィリアムの初夜のために贈り物をする。贈り物――司馬遷の局部(ペニス)の仮男根(テンポラリ・コック)は、女性が男性の性機能を体験するときに使う道具だった。


 だんだん毒のあるあらすじになってきましたね。これでもセーブしてますが。

 第二巻の後半からヤプー国邪蛮(ジャバン)の始まりと地球の歴史がアンナ・テラスによって語られていきますが、その内容は記紀、古事記のパロディ、あるいは書き換えです(脱構築と解説の巽氏は書いています)。天照大神は未来の白人女性アンナ・テラスであり、始祖のイザナギ・イザナミは原(ロー)ヤプー(加工されていないヤプー)のサナギーとサナミーだった。執拗な名前の変換には、この神話の書き換えが『家畜人ヤプー』の主題なのかと思えるほどブラックな冴えがあります。神話を冒涜することは、その神話がすたれた今となってはあまり意味がないような気もします。が、それによって日本人の本質をあげつらっているのか、とも思えます。

 解説の巽孝之氏の言葉。


むしろ全体主義的とかマゾヒズム的とかいう単語が不要になるくらい十二分に所有され解釈され消費されつくすこと(P399)


 そして生体家具や矮人などのヤプーが種としての多様性を持った一番繁栄している種族であるという逆説が生じてきます。ヤプーとして飼われていることが、種としての繁栄をもたらしているわけです。


 この巻での観光名所(グロテスク)は、黒奴のレストラン黒奴酒酒場(ネグタル・バー)あたりでしょうか。

 当然といえば当然なのですが、食べるとか入れるということにはマゾヒスティックな要素があるらしく、この小説の場合、私が読んでいてゲッと思うのは食べる部分に集中しています。以前漫画家のむかでめりべさん(すみません、漢字がわからない)が口元が○○になっているアンドロイドの漫画を描いていましたが、これはヤプーの『舌人形(カニリンガ)』を真似たものかなと少し思いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る